595 :名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 23:55:06 ID:pGPsQQyB

「駄目よ、オサ。目ぇつぶっちゃあ」

「ゃあ! あ……」

汀の言葉を拾った耳が次の瞬間、ベロリと舐められた。その感触に思わず閉じていた目を

開けてしまった。

視界に飛び込んでくる私のあられもない姿。

どうしてこんなことになってるんだっけ……?今より少し前の汀とのやり取りを思い出す。


部活の終了した体育館。

遊びに来ていた汀がとあるものに気づいたことに端を発する。

あるもの、それは壁面の鏡。本来は武道やダンスなどで自身の型を確認するためのもの。

通常、壁と同種の素材で作られた引き戸で隠されているのだけど。

汀は目ざとく見つけて「オサ、いいことしよっか」とニヤリと笑った。初めは抵抗した

はずなのに、あれよあれよという間に汀のペースで。そして、今に至る。


鏡に対面するように座った汀に背を預けるように、私も鏡に向かって座っていた。

既に下半身を被うものは無く、上半身もはだけた胴着のみ。胴着の下に着けていたはず

の下着も奪われていた。


「こうすると、オサが自分でしているように見えない?」

背後から腕を回し、私の体を撫で回しながらふざけたことを汀が言っているが、反論する

余裕は既に無かった。

それを肯定と取ったのか、私の両手を掴んで更なる質問。


596 :名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 23:56:09 ID:pGPsQQyB

「オサは自分でする時どうやるの?」

そんな恥ずかしい質問に答えたくなくて、鏡越しにジト目を向けたが通じない。

それどころか、補食者の目で私を見つめ返してくる。猫は猫でも山猫の目だ。その目に

私は何故か逆らえない。

汀の手は私の手を掴んだまま、私の胸へと移動する。

「胸は?」

「自分でしても感じないから」

首を横に振りながら答えると、今度は下腹部へと右手が誘われた。

「じゃあこっち?」

「んっ」

言葉とともに与えられる刺激に声が漏れた。

それに満足気な表情を見せると、耳元に口を寄せ更なる質問を投げかけてきた。

「中は?」

そんな質問、答えられるわけがない。目をつぶりただ横に首を振ってそれに応じる。

「だから目、つぶっちゃ駄目だって。オサは鏡だけ見て」

言われるままに目を開けた瞬間、掴まれた右手が大きく動いた。

既にとろとろとあふれているものを塗り拡げるような動き。与えられる快感。

しかしそれは、すぐにもどかしさに変わった。

私の手を介して伝えられる汀の動きはどこかぎこちなくて、もの足りなさを感じた。

正面に目を向ければ、もの欲しそうな目をした私の姿。それに気づかない汀じゃない。

私の手を解放すると意地の悪い顔で笑った。あの補食者の目で。


「じゃあ、続きは自分でやって」

「え……?」

こんな状態で放り出すのかと思わずすがるように鏡の中の汀を見つめる。

すると肩にかかっていた胴着が取り払われ、汀の両手が私の胸に添えられた。

「あたしはこっちをしてあげるから」

言うが早いが、絶妙なリズムで私の胸をもみしだく。

「さっき言ってたわよね、自分じゃ感じないって。それってあたしなら感じるんでしょ?」

その質問に答えたのは私の体自身。早くも快感に固さを変えた胸の中心が汀の言葉を

証明していた。

気づけば私の右手が動きだしていた。胸と同じように快感に姿を変えた敏感な部分、

そこを中心に指を這わせる。

汀に操られているわけじゃないのに止まらない右手。胸の上で動く手が強ければ弱く、

逆に弱ければ強く。


ああ。

だけど。

このままじゃ。



今にも飛びそうになる意識をなんとか掴まえて、快楽の中心から手を離す。



597 :名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 23:56:40 ID:pGPsQQyB

「オサ? イッていいのよ」

「嫌……」

自分でなんて嫌だ。汀じゃないと意味が無い。でもそれを上手く言葉にできなくて、

出てきたのはたった一言。

それでも汀には伝わったのだろう。汀の表情が変わった。補食者の目はなりを潜め、

代わりに浮かぶのは優しい微笑み。

「オサ、こっち向いて」

誘導されるように声がする方を見れば、間近に汀の顔。

ようやく鏡越しでなく目が合ったな、なんて考えていたらそのままその顔が近づいてきた。

触れる唇。

目を閉じてそれに応じれば、とたんにより深くなる。

「ん、ん……。はぁ」

汀が離れた瞬間に息をつく。だがそれはホンの小休止でしかなかった。

汀は背後からより密着するように私を抱き直すと、改めて愛撫を始めた。さっきまでは

触れなかった胸の先端に片手が延びる。弾いたり引っ張ったり、両の胸にまんべんなく

刺激が与えられる。充分に固くなったそこは、汀から受けた刺激を甘い疼きに変えて全身

に伝える。

胸から受けた刺激ではまだ足りぬと開いていく下腹部へ、もう片方の手が延びる。

愛液をなじませるように、しばらく中心を往復してから私の内部へ汀の指が潜り混んできた。

「んんっ」

いつもと違う体勢のため、勝手が分からなかったらしい。ゆっくり、恐る恐る指が動く。

だが。

「やっ、そこやぁ」

私が嬌声を返すたびに少しずつ少しずつ、スピードと力強さを増していき。

「んんっ、ああダメっ、やっやだぁっ!」

ついには的確に私の弱点を穿つようになり。私は――

「汀ぁ、汀ぁ、みぎわぁー」

鏡の中に快楽に咽ぶ私を見た。



598 :名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 23:57:01 ID:pGPsQQyB

ことが済んでしまえば、襲ってくるのは後悔と羞恥心。

それはシャワーも着替えも終えて帰途にある今も消えてはくれない。

「うう、あんなところでしちゃうなんて……」

「まだ言ってる」

隣を歩く汀には後悔も羞恥心も無いらしい。まったく。

「誰のせいよ」

「あたしが誘ったせい。そしてそれにオサが流されたせい」

「うっ」

いけしゃあしゃあと言ってのける汀にぐうの音も出ない。実際、拒みきれなかったのだから。


「そんなに場所が気になるなら、今度はああゆうところにしましょうか」

ああゆうところ? 汀の指が示す方を見やれば、ネオンで書かれたHOTELの文字を掲げた

建物があった。

「ばっ、馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!」

「えー、だってああゆうところなら、オサの大好きな鏡の部屋とかありそうじゃない」

「別に好きじゃないっ」

「そう? 今日のオサ、いつもより感じてたみたいだけど」

「あ、な、何を……」

汀の言葉を否定したいのに、自分でも心当たりがあるせいか上手く言葉が出てこない。

それ以前に紅く染まっているだろう私の顔が、汀の言葉を肯定してしまっていた。

そんな私に汀が耳元でトドメの言葉を吐いた。

「それに今日のオサ、いつもよりかわいかった」

「ばっ、ばか……」

まったく、普段ふざけたことばっかり言ってるくせに。こういう台詞を言う時だけ優しい

なんて。

だから流されてしまう。

でも、それも嫌じゃないと感じてることは汀には絶対言えない、私だけの秘密。


END