280 :アヤシロファイト1:2009/04/23(木) 01:58:24 ID:JbBP/WGB

第1話、綾代餓鬼道


朝のランニングを終え、朝食を食べ終わった

剣道部員の中、綾代だけが大量のふわふわ玉子焼き

をぼーっとした顔でもぐもぐと食べていた。

この大量の玉子焼きは剣道部員がナミの為にあげた

ものだったが、ナミが食べ切れずに残した物だ。

そんなナミは今何処にいるのかは誰も知らなかったりする。

「綾代、朝練の続きするわよ」

と、梢子が言っても綾代は玉子焼きをもぐもぐと食べ続ける。

「綾代!」

梢子が強く言っても綾代は反応もせずもぐもぐと。

「これでもか!」

梢子が玉子焼きを食べるのを止めさせる為に綾代を

床に押し倒した。

しかしそれでも綾代はもぐもぐと食べ続ける。

「この、このっ!」

梢子が綾代をコロコロと転がすがそれでも綾代は

食べる事を止めなかった。

「……」

その姿を見て、梢子は何故か悲しい気持ちになった。

ホームシックにでもなったのだろうか。

梢子は大量の玉子焼きを黙って一口食べた。


綾代は玉子焼きを食べ終わると、ナミの事を考えていた。

ナミの美しい容姿もそうだが、綾代が特に惹かれたのが

表情だった。

普段は無表情だが、そのお陰で見せる様々な喜怒哀楽がキラキラ

光って見える。

それは、正に子どもの表情だった。

そんな事に拘っている自分を、綾代はナミに出逢い初めて気付いた。

「ナミちゃん…」

ナミの事を考えるとニヤニヤしてしまう顔をペチペチ叩きながら綾代は

ナミを探す事にした。


281 :アヤシロファイト2:2009/04/23(木) 01:59:22 ID:JbBP/WGB

適当な所を探したが見付からなかったので、綾代は念の為にトイレ

を探す事にした。

するとトイレに向かう途中、運良く廊下をやや速く歩きトイレに

向かおうとしているナミを発見する。

声をかけようと一瞬思った綾代だったが、自分でも

よく分からない力で口が塞がれた。

ナミがトイレに入ると綾代は静かに木製の扉に耳をくっ付けた。

(私…何をやってるんでしょう?)

そう思ったが、心など原始的欲求に敵う筈も無く、そこに居続ける。

擦れ 滴る 落ちる

綾代は様々な音を顔を真っ赤にしながら聞いた。

その魅惑の音に続き、大量の水が流れる音でようやく

綾代は我に返った。

そこから少しだけ離れて少し後にナミが出てきた。

「ナミちゃん、こんな所にいたんですね」

自分を恥じた。

偶然を装う言葉と態度はさっき自分を正気に戻した水音の如く

澱み無い。

ナミはその言葉に特に反応するでも無く、立ち止まってじっと

綾代を見詰めた。

(そう言えば私は何故ナミちゃんを探していたんでしょう?)

先の手が無い綾代もナミをじっと見詰める。

どれ位の時が流れたのか、ナミは綾代の前を通り過ぎ

立ち去ろうとする。

ナミと二人きりになる時間など滅多に無い。

それが今生の別れの様に急に思えた綾代はナミの手を掴み。

「ナミちゃん…貴女が好きです!」

と、自分でも驚く位単純で大胆な事を言っていた。

「……」

ナミは綾代をじっと見詰めている。

綾代もナミを見詰める。

(…あれ?)

またも静寂が流れて、綾代はやっと冷静さを取り戻した。

考えれば、ナミは喋れないし、筆談も出来ないのだから

返事など出来ない。

その事に気付いた綾代はガックリと膝を屈し頭を垂れると励ます

ようにナミが綾代の頭を撫でて下から顔を覗いた。

その可愛らしい表情を見て思わずナミを抱きしめていた。

抱き寄せる事により、互いの額が合わさり自然と柔らかそうな

唇に目が行き、吸い寄せられるようにその唇に唇を重ねた。

その感触にナミは驚いて首を後ろにやったがナミの後頭部を押さえ

逃げられないようにしっかりと唇を重ねた。

抱き寄せた体も柔らかかったが、その唇はさっきの玉子焼きなどとは

比べようもない位柔らかく、壊れ易い儚い印象を抱いた。

小さな花の茎に触れたような危うさを感じ、綾代は抱きしめた腕を解いた。

「はぁはぁ…」

二人とも息をしていなかったのか静かな廊下に荒い息遣いだけが響いた。

「何やってるの、綾代?」

荒く脈打つ綾代の心臓が一層高く弾んだ。


282 :アヤシロファイト3:2009/04/23(木) 02:00:22 ID:JbBP/WGB

驚いて後ろを向くと、むすっとした表情の梢子と

顔を赤くした保美がそこにいた。

「梢子さん朝練は終わったんですか?」

「誤魔化さないの。一部始終見てたわよ。

綾代がトイレのドアに耳を当ててた所から」

 梢子がそう言うと綾代は開き直った。

「早い者勝ちでしょう、梢子さん?

人の恋愛にちょっかいを出すのは野暮ですよ」

「そうね。愛を止められるのは、愛だけか…」

「しょ、梢子先輩…その言葉は不吉ですよ。友情壊れちゃいますよ」

ちゅっちゅ、もみもみですよと保美は言おうとしたが止めといた。

梢子の言葉に保美が過剰に反応すると、梢子はそんな保美に

くすりと笑い言葉を続ける。

「ナミ、月がとってもキレイね」

無論、月など出ていない。

その言葉に綾代はむっとした。

別に梢子も綾代も夏目漱石が好きという訳では無い。

「が〜ん、しょ、梢子先輩もロリコンだったなんて…

でも、そんな先輩も素敵です!」

殊勝な保美である。

「梢子さん…横取りなんて許しませんよ。

私には夢があります。ナミちゃんに制服のサイズを合わせるふりをして

スリーサイズを測ったりしたりとか!」

「それじゃあ綾代、どちらがナミに相応しいかどうか…決闘よ!」

「いいでしょう」

滅茶苦茶な提案をあっさりと綾代はのんだ。

「滅茶苦茶ですよ二人とも」

「保美、常識を疑いなさい。時間は今夜零時月がキレイな海で」

「ええ」

綾代はぽかんとした表情のナミを一瞬だけ見てその場を去った。

「ふん、何さ!」

梢子が珍しく少しだけ言葉を荒くした。


第2話青城わんぱく戦争


零時。約束通りの時間に梢子と保美が着いた。

しかし、綾代の姿が見当たらない。

「真坂、逃げたんじゃあ…」

と保美が言ったその時、綾代が蜘蛛打ち片手に梢子に突っ込んでいく。

「覚悟!」

一方梢子は素手。斧とかライフルとかそんな物は邪道!

喧嘩は拳と拳である。しかしそれでも構わず突っ込んでくる綾代。

「駄目ですよ綾代先輩、凶器は、ぐへっ!」

綾代は何の容赦も無く胴に一閃。保美はそのまま砂浜に倒れた。

その姿を見た梢子は逃げる。追う綾代。

木刀が振るわれる。梢子は地面に転がりかわす。

梢子は逃げる。綾代は追う。梢子は逃げる。追う綾代。

そんな事が倒れた保美を円で囲むような軌道で繰り返される。

そして避ける事で体力を削られたか、梢子の足が鈍くなり、綾代の

木刀が梢子に振られた。

そこには確かな感触があり、その一撃で梢子は倒れた。

「やりました…ナミちゃんは私のも、」

してやったりの綾代に梢子の蹴りが刺さる。

梢子はやられた振りをしていただけだった。

その一撃で綾代は倒れる。梢子、頭脳の勝利です!


283 :アヤシロファイト4:2009/04/23(木) 02:01:21 ID:JbBP/WGB

おまけ

第3話卯奈坂異聞


今日は百子と保美が内緒のデートです。

「遅いなーざわっち」

と、待っているのは百子。

「ごめんねー百ちゃん、実は百ちゃんの為に

料理を作って来たんだ」

「おおーでかしたざわっち!」

保美がその料理を見せるとそれはらっきょだった。

「うおーざわっち、フザケルナー!」

怒り心頭に発した百子が保美を蹴る。

「ううっ…百ちゃんごめん」

「ざわっち、私も悪かったよ」

百子がそう言って近づいた瞬間。

「とうっ!」

チョップチョップチョップの嵐。

「ぐおっ!」

倒れる百子。保美の勝利です。

次の日。

「百ちゃん、昨日は御免ね、はい、お肉」

「わ〜有難うざわっち。今度はざわっちのお肉が食べたいな〜」

「ふふふ」

正に、雨降って地固まるです。