んっ。んはぁっ。

1人、ベッドをきしませる。おもわずもれる喘ぎ声。

誰も聞く者はいないというのに、恥かしさに空いてる手を口へ運び、それをふさぐ。

しかし、喘ぎ声を誘った手は動きを止めない。


初めは唇だけだった。夏姉さんの温もりが欲しくて、寂しくて。

夏姉さんがくれた愛撫の跡をたどった。


次第にその範囲は広がり、手は下へ下へと下がってゆく。

首筋から肩へ。命を分けあった傷跡をたどる。鬼としての夏姉さんを受け入れた大事な証。

その跡を。

やがてその手は胸へと向かう。


この手は、この指は夏姉さんのものだと自分をだましながら、体に這わせる。

夏姉さんがしてくれたように。


胸をもみしだきながら、徐々にその中心へ刺激を与える。

次第に固さを増していく乳首をこね、潰し、ひっかくようにしてそこに触れる。


胸に充分な刺激を与えた後、刺激を欲する下腹部に誘われるように、私の手は更に下へ降りてゆく。

夏姉さんに抱かれた時と同じく、既にそこは潤っていた。

今度は自分の指を夏姉さんの舌だと思いながら、そこに手を伸ばす。


あふれだしたものをすくうように、丹念にそこを往復させる。

夏姉さんは中まで刺激をくれたけれど、自分で入れるのはまだ怖い。

その周りと一番敏感な部分を何度も何度も指でなぞる。


そこから発生するくちゅくちゅといった卑猥な音も、口からもれる喘ぎ声も、もはや気にならない。

片手は胸を、もう片手は下腹部をまさぐり、体の中心からやってくる快楽に没頭する。

「夏っ、姉さん、夏姉さん」

ここにはいない大好きな人を呼ぶ。何度も何度も。

その呼び声に合わせるように、次第に手の動きが早くなってゆく。


「夏姉さん、夏姉さん、なっちゃん!」

「何、梢ちゃん。呼んだ?」


え?


返るはずのない返事が聞こえた。夏姉さんは診療所で仕事中のはず。

恐る恐る声の聞こえた方、部屋の入口へ視線を向ける。


果たしてそこには夏姉さんがいた。驚いた顔でこちらを、私を見ている。

そう、中途半端に服を脱ぎ散らかし、半裸で自慰に耽っていた私を見ていた。

「いやぁぁぁぁぁ! 夏姉さんのばかばか、ばかぁ!」

完全に逆ギレとしか言いようのない悲鳴をあげながら、慌てて自分の下に敷いてあった毛布を頭から被る。


そんな私に夏姉さんからおわびの台詞が投げかけられた。

「ごっ、ごめんなさいね、梢ちゃん。呼ばれたと思ったものだから。でも、こういうこと

する時は、ちゃんと部屋に鍵をかけなくちゃだめよ」

言い終わると同時に聞こえるガチャリという金属音。

その音が気になって、被っていた毛布から頭だけ出して、夏姉さんの方へ視線を向ける。


ドアから離れた夏姉さんはなぜかこちらへやってきた。

ベッドのかたわらに膝をつき、恥かしさからにじみ出た涙を唇でぬぐってくれた。


「ね、梢ちゃん、続きは私にやらせてちょうだい。邪魔しちゃったお詫びもこめて」

続き……?


先ほどからの出来事で混乱中の私は、夏姉さんの言っていることが上手く理解できない。

反応を返さない私に、夏姉さんが言葉を続ける。

「心配しなくても、仁叔父さんは出かけてるわ。だから仕事が早上がりになったのだけど。

それに、鍵もかけたし」

夏姉さんは、部屋入口に視線を投げる。

ああ、さっきの金属音は部屋の鍵がかかる音だったんだ。

ということは、続きというのは『私がしていたこと』の続きなんだろう。


うれしい……と、思う。今だって別に1人でしたかった訳じゃない。ホントは夏姉さんが

欲しかった。でも、それをお願いすることができなくて、自分でしていただけなのだから。

でも、うれしさ以上に恥ずかしい。

できることなら、夏姉さんには今すぐ今日ここで見たことを忘れて欲しいくらいで。


そんな私の内心に構うことなく、夏姉さんは確認の質問を投げてくる。

「嫌、かしら?」

そんなことはない。そんなことはないのだと、首を横にふる。

それだけじゃダメだろうから、恥かしさに耐えてYESを口にする。

「お願い……」

「ありがとう」

そう言うと、夏姉さんは私の体を起こし、ギュッと抱きしめてくれた。

夏姉さんの温もりに浸っていると顎に手を添えられ、唇が奪われた。

角度を変えながら、口腔を味わいつくされ、反対に私の舌が夏姉さんの口へと誘われる。


1人では決して得られない充足感で胸がいっぱいになった。

それと同時、体内にくすぶっていた熱に火が灯る。

「夏姉さん……」

もじもじと次を促す私に、夏姉さんはにっこりと笑顔をくれる。

「あんまり焦らしても可哀想よね」

夏姉さんは2人の間にある毛布を取り、中途半端に私の体に残っていた服も取っていく。

あっという間に一糸まとわぬ姿にされてしまった。


そして夏姉さんは私の膝に手をかけ、その間に身を沈める。

「やっ、やだ。恥ずかしい。そんなに見ないで」

夏姉さんに見られる。それは何度経験しても慣れない。今にも軽くイってしまいそうになる。


「恥ずかしいことなんてないわ。綺麗よ」

「んあっ、ああああっ」

チュッと音をたてて敏感な頂に吸い付かれ、たまらず声が出てしまう。


「これならすぐにでも入りそうね」

そんな台詞が聞こえたかと思うと、夏姉さんの指が触れる感触が、続けて中へ入ってくる違和感が伝わってきた。

「んんっ、あっああっ」

「梢ちゃん、痛かった?」

私の声を聞いた夏姉さんの手が止まる。

「大丈夫、だから……、やめないで」

今はただ、夏姉さんを感じていたい。

「夏姉さん……」

私の声に夏姉さんは動きを再開する。


私の内部を穿つ夏姉さんの指。それは、私の中を掻き回し、体の奥から快感を引きだそうとする。

より深いところで夏姉さんを感じたくて、指の動きに呼応するように、体が、腰が自然と動いてしまう。


相手の動きに煽られるように、次第に2人の動きが早くなる。


「はあ、はあ、なっちゃん、なっちゃん!」

私の甘えるような、ねだるような声に、夏姉さんは体を起こす。

そして、返事のかわりに深いくちづけをくれた。続けて体中にキスの雨。

その間も、夏姉さんの指は私の中を動き続けている。


「なっちゃん、なっちゃん! なっちゃん!!」

体中で夏姉さんを感じる。それがうれしくて、気持ちよくて――


「やっ、ああっ、あああああー」


私は限界をむかえた。



気だるい体を横たえる。頭の下には柔らかな感触。

私は今、ベッドに腰かけた夏姉さんに、膝枕をされている。


夏姉さんは私の髪をいじりながら、おもむろに口を開く。

「ねえ、梢ちゃん。今度からしたい時は言って。ちゃんと応えてあげるから。

それとも……梢ちゃんは1人でするのが好きなのかしら?」

そんなこと真顔で聞かないで欲しい。さっき感じた恥かしさがよみがえってくる。


夏姉さんから視線を逸らし、言い訳を口にする。

「そっ、そんなわけないじゃない。ホントは私だって夏姉さんと……。

でもそんなこと言って、えっちな娘だって思われたくなかったの!」

恥ずかしいっ。こんなこと、言わなくてもわかって欲しい。


私の言い訳を聞いて何を思ったのか、ふふふっと笑う夏姉さん。

不思議に思って視線を戻すと、夏姉さんは言葉を続ける。

「そんな心配すること無いのよ。だって、好きな娘に求められたら嬉しいもの」

「ホントに?」

「ホントに。だからちゃんと言ってね。私も梢ちゃんが欲しい時は言うから。

それで……、早速なんだけど、今晩お願い」

頬をわずかに赤く染め、ストレートなお願いをする夏姉さんに、こっちまで赤くなる。


こういう場合なんて答えたものか。

NOとは言いたくないし、かといってYESと言うのも気恥ずかしい。

返事に困っていると、あることに今更ながら気付く。夏姉さんが服を着たままだということに。

さっきはただただ私をイカせることだけに専念してくれていたことに。

だったら返事は決まっている。


「なっちゃんのえっち」

「ええ? ダメってこと?」

「ふふっ、冗談よ。いいよ」

私をなでていた手をギュッと握って、YESを伝える。


1人じゃなく、私だけじゃなく。今度は夏姉さんも一緒に。


貴女と一緒に感じたいから――。