64 :海の主様釣り1:2009/01/11(日) 23:12:52 ID:DcfJlEl3

 草木も眠る深夜。

 にも拘らず、月の青白い光に赤い椿が不気味に脈動する中、

二人の鬼が、刀でもって相手の血を命ごと奪おうとせんとばかりの

勢いで、剣戟を繰り返していた。

 鍔迫り合いでコハクが小さい体からは想像も出来無い力で夏夜を吹き飛ばし

距離を開ける。

「どうだ剣鬼!わしの可愛さに恐れ入ったか?」

「くっ…手強い。幼女でしかも攻めっぽいし」

 表情を厳しくし、夏夜はカバンから《剣》を取り出した。

「止めておけ。お主程度の可愛さで《剣》の力を加減無く行使すれば、

いずれ魂を喰われるぞ」

「こんな魂など喰われても構わない。クロウクルウを切る為ならば、

私は鬼にもOLにでもなろう!…はっ!!」

 夏夜は肝心な所でかんでしまった。

「私はまたしでかしてしまったわけだ……」

 落ち込んだ夏夜は地面に四つん這いになり、絶望した。

「おい、剣鬼!OLとはなんだ?」

「私はまたしでかしてしまったわけだ……」

「OLとはなんだ、剣鬼!」

 こんな会話が暫く続いたという。


「釣れないわね…」

「そんなに簡単に釣れないでしょ。私なんかずっと糸垂らしてボウズよ」

 汀と梢子は鬼の踏み石で一緒に釣りをしていた。

「汀は今迄魚釣った事あるの?」

「いや」

「…釣りのスキルは無しって事ね。そもそも餌とか用意した方がいいんじゃない?」

「用意するにしても何を食べるのよ?」

「私よ」

 梢子は平然と答える。

「いや、それは最終的にはって事でしょ?そうじゃなくて主食とか何かなーって」

「私よ」

「もういいよ」

 汀と梢子はまた暫く黙って釣り糸の弛緩を眺めていた。

 汀はいいとして何故梢子が釣りに参加しているのかと言うと話は少し遡る。


 咲森寺に着いたばかりの夜、梢子は森の中で攻めっぽい幼女と出会い、

汀と山やら海やらの幸の話をしてすっかり寝不足だった。

 だから、その深夜の騒ぎに全く気が付かなかった。

 翌日、何とかいつも通りの時間に起きて朝食を済ませる為に大広間

に行き座ると、明らかに部員で無い着物が似合う長髪白髪の少女がちょこんと座っていた。

「…ねぇ、百子」

「なんですか、オサ先輩?」

「この子誰?」

 梢子が少女を指差して百子に尋ねると、汀も何故か割り込んできた。

「あー、その子本当にいたんだ。てっきり私にしか見えないものだと思ってた」

「なによそれ…」

 梢子が思わず呟いた。


65 :海の主様釣り2:2009/01/11(日) 23:14:56 ID:DcfJlEl3

「あー、この子は和尚さんの檀家から貰ったものですよー」


 『旬は外れていますが、それでも良い所を見繕って貰いましたぞ』

 『あれ…この子、ちょっと…甘い?』

 『なぬっ!?』

 『向こうに比べてこっちの少女は濃くて甘いんですよ。私も最初は戸惑って…』


「「檀家すげぇ!!」」

「いやいや、冗談ですよ冗談!オサ先輩にミギーさん寝ぼけてるんですか?

昨日ざわっちが海で漂ってるのを拾ってきたじゃないですか。

 そして、姫先輩がナミーと名付けたじゃないですか」

「いや、寝てたし」

「私、釣りしてたし」

「いませんでしたか。それじゃあ知らないのも使用が無いですよ、ねぇ姫先輩」

 3人がナミの方を見ると綾代がナミとべたべたくっ付いていた。

「ナミちゃん。後で一緒に遊びましょうね」

 その言葉に、特にナミは反応を示さなかった。

(…綾代が名付けてるって事は、もう綾代の物よね)

(姫さんの所有物よね、あれ。…仕方が無いか)

 梢子と汀はご飯を早く食べ、急いで海に向かった。

 その時、二人は同じ事を考えていた。

 

 美少女を釣り上げるという共通の目的が。


 汀が定位置である鬼の踏み石で釣り糸を何時もより気合を込めて遠くにぶん投げた。

「あの子まで飛んでけー」

 そう大声で叫び、少し勢いを付けて座った。

 その横に梢子も腰を下ろした。

「オサ、邪魔しないの。あっち行ったー、しっしっ」

 汀が唇を尖らせ、手を気合無く振るのを無視する。

「汀、どうせ貴女の事だから釣竿のスペア位あるんでしょ?貸して」

 オサが手を差し出すと汀はそれに一瞥をくれて再び地平線に目をやる。

「やだ。美少女横取りされたくないし。しかし、世の中は広いものねー

まさか美少女を釣り上げられる海があるなんて」

「貸しなさいよ」

 梢子は地平線を見詰める汀の目の前に手を差し出す。

「しつこいなー。じゃあ、オサが私を喜ばせたら貸してあげる」

「…汀が喜ぶ事って何よ?」

「ふかーい口付け」

 汀がニッコリ笑って答えると梢子は咳払いをする。

「汀、私が良いって言うまで目瞑ってて」

「おっ!」

 予想に反する返答をされて汀は驚いて梢子の方へ顔を向き釣り針を引き上げ、目を瞑った。

 10秒程経過して梢子が目を開けていいと言ったので目を開けるとそこには誰の姿も無かった。

「あれっ、オサどこー?」

 周りを見渡してもごつごつした岩以外は何も無い。う〜んと腕組みをし、今置かれている状況

を把握しようとしたその時。

「汀ちゃん、こんにちは」

 どこからか、聞き覚えのある声がした。

「オサ?」

「違うわ、オサちゃんじゃなくて日○のり子よ」

「えっ!あの有名な声優さん?うわー私芸能人にはじめて会うよー。

で、日○さんは何処にいるんですか?」

 汀が辺りを見渡す。

「汀ちゃん、声優の姿は透明と相場が決まっているのよ」

「声優さんが妖精だって噂は本当だったんだー」

 でたらめな返答と納得が交差する。


66 :海の主様釣り3:2009/01/11(日) 23:16:31 ID:DcfJlEl3

「あの、日○さんにお願いしてもいいですか?

 あの有名なアニメのキャラ、アンチョビの声いいですか?」

「それはあまり有名では…普通○ちゃんよね。いいわ…パーフェクトリバース!!」

「おお〜〜〜」

「汀ちゃん、今幸せ?」

「はい、とっても幸せです」

「釣竿貸して」

 梢子が岩陰から出て来て、汀に手を差し出した。

「はいはい…お茶目さんね、オサちゃん」

「黙りなさい」

 梢子が顔を赤くして釣竿を受け取った。


「でさー釣り上げたらなんて名付ける?」

 1時間程経過して退屈していた汀が梢子に話し掛けていた。

「海で釣れたんだからうみとかじゃない。ニックネームはウミーで」

「あ、その名前いいなー私もそれね」

「駄目よ。貴女はSEA、つまりシーちゃんで」

「嫌よ!なんか昔あったじゃないそんな赤ちゃんの人形!」

「あったわね。全裸で股間からオシッコを出す卑猥なおもちゃが」

「言い方の問題よ、オサ」

 数時間後。全く釣れ無い、釣れる気配すらない。

「あのさ汀…ひょっとして、保美が釣り上げたのってここの海の主じゃない?」

「奇遇ね。オサもそう思ったの?流石にこんだけ粘って少女のしょの字も見えないのはおかしい

と思ったのよー」

「「はははははははははー」」

 二人で笑った後互いに顔をショックで伏せた。

 梢子が釣竿を汀に返し、汀がそれを仕舞うと二人はその場から去っていった。


「ナミちゃん、こっちですよ」

 綾代がナミを部屋に招くと、小さな卓に麻雀牌が散乱していて、

その席には百子と部員A。それと部屋の隅に部員Bがいた。

「おお〜ナミーさっそく麻雀しましょうか!」

 と百子が言い、ナミを自分の上家(百子から見て左側)側に座らせる。

「……?」

「麻雀っていうのは牌を引いて捨てるを繰り返すゲームよ、ナミちゃん」

 簡単過ぎる説明を終えて、ナミと対面(反対側)に綾代は座る。

 残りの席を埋めるように部員Aが座り、見物人である部員Bはナミの後ろに座って見物した。

 3人が牌を掻き混ぜるとそれに倣いナミも掻き混ぜる。

 牌を積む事はナミには難しいと思った綾代はナミ側の牌も積んだ。

「起家は私でいいですか?」

 と綾代。

「誰でもいいですよー」

 と百子は答え、全員牌を自分の分取る。ドラは三のソーズ。

 綾代は額に人差し指を当てて。

「《トントン拍子》で良い牌がツモれるといいんですけどね」

 そんな事を言うと、ナミ以外の二人はその言葉に少しだけ反応した。

 綾代が適当な牌を捨てると部員Aが東を捨てる。

「ポン!」

 綾代がそれをポンして牌を捨てる。

「うーわー姫先輩初っ端からダブ東ニック確定ですよーちぇー」

 だがそれ程悔しそうな顔を百子はしていない。

「偶々ですよ」

 部員Aが再びツモって牌を捨てる。一方ナミは麻雀のルールを

まるで知らないので適当な牌を切る。

 五順目。綾代が牌を捨て。

「百子ちゃん、《虎の子》を隠し持ってそうですね…私ももう直ぐ聴牌ですから」

 綾代が額に人差し指を当てて言う。


67 :海の主様釣り4:2009/01/11(日) 23:17:07 ID:DcfJlEl3

「最初は出来る限り大きな手で流れを掴むのが私の麻雀ですから」

 百子がナミに見えないように綾代の足に触れると、次の百子はドラの三ソーを切って

リーチをかけて来た。

「イナズマリーチ!」

 百子の五順目。

 百子が気合を込めて言うと綾代がそれをチーして、危険牌であるションパイの中を切る。

 比較的早い順目のリーチ。どんな待ちでもおかしくは無い。

 一方の綾代は配牌で手が整っており、チーテンを果たす。

 が、綾代の待ちはションパイ北の単騎待ち。親とは言え、リーチに喧嘩を売るのは危険だ。

「おお、姫先輩やる気満々ですねー」

 百子が遅れてリーチ棒を出す。

「《来た来た》私も勝負に出ますよ」

 そう人差し指を額に当てて綾代は言う。

 勝負は開始早々白熱しているように見える。

 が、実はこの時の百子の手牌…バラバラ。

 詰まり、ノーテンリーチ。 

(北待ちですか、姫先輩…)

 百子がそう思うとナミの後ろにいる部員Bに目配せすると、手で○を作る。

 詰まり、ナミの手配に今、綾代のロン牌の北があるのだ。

(ナミちゃんは今適当に牌を捨てている。詰まり…北は何れ出る。)

 その綾代の目論見はチーテンして自分に回る事無く、あっさりと出る。

「ナミちゃん、ロンです。ダブ東ドラ一丁5800です」

 ルールを知らないナミはポカンとするだけだった。

(やれやれ…ドラ切りでも不自然で無いようにノーテンリーチ。姫先輩も随分手の込んだ

事をしますねー)

「そして直撃ボーナスの御褒美でナミちゃんの服を脱がしますよー。ふふふ、勿論合法です」

 無論、違法だ。

 綾代はナミに近づいて服を脱がそうとする。

「ふふふ…こんな可愛い子の服を脱がせられるなんて幸せです」

「「待ったー!」」

 ナミの着物がそこそこはだけたその時、ナミに透明の糸が巻きつく。

「梢子さんと汀さん!私の邪魔をするんですか?」

「残念だけど姫さん。世の中取ったもん勝ちだから」

 汀がそう言ってナミを担ぐと梢子もそれを手伝う。

「お互い仲良く食べる約束だからね、汀」

「へいへい」

 そう言って、あっと言う間にその場から去って言った。

「あ…」

 綾代が静かに膝を屈する。

「姫先輩…3人、いや4人か。ここまで協力し合ったのに肝心のナミーは取られちゃうし…

 ご愁傷様です」

 その言葉が止めになったのか綾代はうつ伏せに倒れた。

「何か言いたい事、あります?」

「小○生といちゃいちゃしたかった…です」

「…ざわっちーごはんまだー」

 百子は現実から逃げ出した。

おわり