「梢子さんの下着をいただけますか?」

 綾代のとんでもないお願いに、目が点になる。

「下着って綾代、そんなものどうする気なのよ?」

「もちろんわたしのコレクションに加えるんです。ちゃんと真空パックにするんで安心し

てください。」

 なにをどう安心しろというのか。

「いままでだって梢子さんにいただいたものは、みんな大切にとってあるんですよ。ボー

ルペンとか、ハンカチとか、てぬぐいとかも。全部わたしの宝物です」

 まて、なんかあげた覚えのないものまで混じってるわよ。このうえ下着まで渡すのは非

常に危険なことをやるような気がするのだが、存分に痴態を見せてしまった上で、なんで

も言うことを聞くと約束したてまえ、断りづらいのも事実であるわけで。約束は約束だし。

「仕方ないわね。下着ってブラも?」

「はい。お願いします」

 そんなに朗らかな顔をしないで欲しい。親友の変態っぷりにこっちが情けなくなる。い

や、私だってそうじゃないかといわれたら言い返せないかもなんだけれども。

「それじゃあ、ちょっとまちなさいよ」

 もともと半裸だったので、そこから手早く下着だけを脱いでいく。う、結構湿ってる…

…ホントにこんなもののどこがいいのか。

「このビニール袋のなかにお願いしますね」

 さすがにそういうものは用意してくれていたのね。というかずいぶん用意がいいじゃな

い。まったく。

 綾代の用意したビニル袋に下着を入れ終わると、私は自分の着衣を整えにかかった。は

ぁ、今度は下着すら無しか……。




「それじゃあ、わたしは教室に戻りますね」

「うん、ありがと綾代。私もすこし休んだら戻るから」

 保健室の前まで綾代についてきてもらったところで、お礼をいって別れる。あのまま教

室にもどっても問題はないけれど、怪しまれる可能性もあるので一応保健室には来ておく

事にしたわけだ。

 保健室に入り、ひととおりの手続きをして、ベッドに横たわる。

 スカート脱がないとしわになるかしら? でも今脱ぐわけには……このさい無視するこ

とにしよう。

 清潔なシーツに横たわっていると、心も落ち着いてくる。ここ最近は環境の激変に振り

回されてたから、こういう落ち着いた時間は久しぶりなような気がする。

 それにしても……、先ほどの行為をおもいだして、顔が熱くなる。綾代とそういう関係

になることを予想したことがなかったわけではないが、それにしたって学校の、まして授

業中にだなんて、これで私は何人と関係を持ったんだろう? えーと、なっちゃんでしょ、

ナミでしょ、それに今日の綾代で、3人か……直接行為はしてないけど、やらしい場面見

られたりした人数はもう数えたくもない。

 本来はああいったことって恋人としかしないものだと思うのだけれど、じゃあ私はいっ

たい誰が好きなんだろう?

 なっちゃんは……昔からの憧れの人だ、お嫁さんになるとか言った事もある。ナミは…

…もしかしたら混沌の底でずっと一緒だったかもしれない相手だ。少なくともあのときは

ナミとずっと二人でもいいと思ってた。綾代は、この学校に入学したときからいつも一緒

の、親友。どちらか、といえば、好き。百子や保美だってかわいいし、部員達のことも好

きだ。

 ……私って、気が多いほうだったのかしら。とりあえず現状では、誰かと恋人になると

いう気はあまり起きなかった。いずれは、だれか一人に決める日がくるのだろうか。

 つらつらと考えるうちに、私は眠りに落ちていった。




「皆そろったようね、それじゃ準備体操から念入りに行くわよ」

 袴姿の居並ぶ部員を前に号令を掛ける。ジャージ姿の葵先生も見守る中、我らが青城女

学院剣道部の面々は、仲良くペアを作っていつもどおり念入りな柔軟運動から練習に入る。

 さて私はっと、

「保美ー!いつものように補助おねがーい」

 私はこういうときは大抵あまるので、保美に相方を頼むのが常になっている。

 保美は以前のように時折からだの調子が悪くなるとかはないようで、本人もマネージャ

ーとしての仕事に触らない程度には練習に参加したりもするようになってきた。なのであ

まった私の相方というのは、間違いなのかもしれない。

「では先輩、お願いしますね」

 かわいらしく微笑まれて、こちらまで釣られて微笑んでしまう。

 まずは私の柔軟から、足の先から、胸の筋肉、肩や首までしっかりとほぐしていく、し

っかりとした準備運動はその後の筋肉の働きまでに及ぶのだ。

 十分に私がこなれたところで、保美に代わり、私が補助につく。

 夏合宿のころは硬かった保美の体も最近ではずいぶんと柔らかくなった。これも連日の

練習の成果というやつだろう。聞くところによれば、百子と寮でもお風呂上りにやってる

とか。熱心で何よりだ。

 つらつらと考えながら、前屈する保美の背に胸をのせ、ゆっくりと息を吐かせながら体

重を掛けていく、ピクリとわずかに休みに緊張のようなものが走ったように感じた。あれ

? まだ保美の限界ではないはずなのだけれど。

「先輩、もしかして、クスッ」

 はっ、背中というのは人にもよるが意外に敏感なものだ、先日だってナミに……その…

…されて気持ちよかった、じゃなくて、これは多分気づかれた。まあ、保美だしこの際も

ういいか。

 あきらめのような悟りのような心境共に、気づかれたことは無視して保美の補助をつづ

けることにする。




 柔軟体操も終わり体も十分ほぐれ……やすみの「クスッ」で硬くなったような、いやい

や十分ほぐれたので、いよいよ防具をつけて、竹刀をもって素振りに入ることにする。

 竹刀を正眼に構え、足を前後に開いて、裂帛の気合を込めて掛け声と共に一気に振り下

ろす。

「!!!!」

 むねが……いたい。比喩的表現ではなく本当に。あー、よく考えたらブラしてないんだ

った。思いっきり揺らしたからそりゃ痛いはずだわ。うーん、どうしたものか。

「梢子先輩。大丈夫ですか?」

 部員の中からも心配する声が上がる。

「あーごめん、ちょっとストレッチが甘かったみたい。綾代、悪いんだけどちょっと走っ

てほぐしてくるから、みんなの練習見といてくれる?」

「はい、いいですよ。いってらっしゃい」

 なんとかごまかせたと痛む胸をなでおろし、部員を頼れる副部長の綾代にあずけ、仕方

なしのロードワークに出かけることにした。

 思いっきり走ると胸が痛いので、非常に軽めにしたジョギングで学園の周辺を走る。

練習を休むと体がなまってしまうけれどもこの際は仕方がないか。

 たまには体を休めるのもいいだろうと思い直し、散歩のような気分で適当に走ることに

する。買い食い、はまずいだろうけど、ちょっと先まで足を延ばしてみようか?ふとそん

なことを思いついたので、どこへ行こうかといくつか候補を頭に思い浮かべる。どうせ、

今日はまともな練習などできないのだからいいだろう。私は学校から遠ざかるほうへ体を

向けると、ゆっくりとしたペースを保ちながら再び走りだした。




 ここらへんで折り返そうか。思いついた辺りにたどり着いたので、そろそろ戻ろうかと

きびすをかえす。空の色もなんだか暗いし、潮時というやつだろう。

 ポツン……ポツン

 ん? 頭に当たる冷たい感触にふと空を振り仰ぐ。

 ポツン、ポツン、ポタ、ポタ、ポタ、パラパラパラ

 空を向いた顔に次々と水滴があたる。まずい、雨だ!

 当然のことながらか傘なんてもっているはずがない。とにかく急いで帰ろう。

 最初の予定よりずいぶんと遠くに来てしまっているが、悔やんでも遅い。

 体に降り注ぐ冷たさはとりあえず無視し、ペースを速めて走ることにする。

 あいた! 痛い!

 速く走ったせいで、胸が揺れて痛い。しかし、とまるわけにはいかない、痛い、とまれ

ない、痛い、早くもどりたい、痛い、あー、もうどうしょうもない。

 人より長く続く息を最大限に活かし、とにかく全力で疾走する。それでも、はぁ、はぁ

と息は激しく、苦しくなるし、チクン、チクンと胸は痛い。ああ、なんだか責められてる

みたい。ちょっと、私、なによ、気持ちいいとか思ってるんじゃないでしょうね。

 胸が弾んで、乳首が胴着に擦られる感覚が、私の脳みそを断続的に刺激する、そのたび

に私のそれは硬く尖り、ますますその感覚を鋭敏にし、伝えられる刺激は鋭く、甘くなる。

 揺さぶられる胸は、まるで誰かにつかまれて、好き放題振り回されているようで、その

痛みが私の被虐感をどんどん高めてゆく。それと同時に、もっと自分を追い込みたいよう

な自虐的な誘惑が心のそこから手招いているようにすら感じる。

 ますます、勢いを強める雨雫の中を、顔を上気させ、荒い息を吐き、体を大きく上下さ

せながら、ひたすら走る私は、どんなに見えるのだろうか?しかし、突然の雨に戸惑う人

の中、私の様子を気に留める者などいないだろう、幸いなことに。

 体から沸き起こる、電気のような、官能にさらされながら、私は学校を目指して走った。




 ようやく、視界に剣道場を視界に捕らえた、あそこまで行けば、このなんだかわからな

い、性感に炙られつつのマラソンもおわる。とにかく、体力の消耗が激しい、気力も大き

く低下している。肉体的にも精神的にも消耗を強いられるロードであったことは間違いな

い。

 私は、最後は亡者が聖者につかみかかる勢いで扉の取っ手をつかみ、ガッと開けて、た

をれ込むような勢いとともに、板張りの床にひざを着いた。

「はぁ、はぁ、だれかタオル……持ってきて」

 周りも見ずに、手を着いたうちの片手をあげて、髪やらを拭くタオルを要求する。

「梢子先輩、どうぞ!」

 元気な声とともにフェイスタオルが差し出されたのでまずは顔と神を吹いて髪の先から

雫がたれるのを防ぐ。垂れていた前髪を払い、膝立ちから立ち上がる。全身どこもかしこ

もぐっしょりだ。

「梢子先輩、とても素敵……」

「! 保美、それってどういう……」

「濡れた胴着に、先輩の肌の色が、きれいに透けて見えます」

「! 透け……」

「鏡で見てもらったほうが、小山内さんにはよくわかると思うわ。こっちへいらっしゃい」

 呼ばれた声のほうに顔を向けると、花子先生がかぶせ布つきの鏡台を置いて道場の真ん

中辺りに立っていた。

 手招かれるままに保美とともに、鏡の前に立つ。

「では、ご開帳〜」

 声とともに鏡面を覆う布を巻き上げ、私の前に私の姿が現れる。

「!?」

 想像よりも壮絶な姿に声を失う。上半身の胴着は濡れて張り付き、その下にある肌の大

半を半透過させている。腕や肩はもとより、胸の辺りもその下の形がわかるどころか、色

までわかる。ほとんど半裸を人前にさらしているに等しい。あまりの恥ずかしさに胸の前

で手を組んで、その場にへたり込んでしまう。

 カシャリ

 音がした、機械の動作する音が。

「小山内さんの、艶姿、きっちり納めたわよ」

 えっ、えっ、えっ?

「ふっふっふー。突然の天候急変で濡れ透け上体で帰ってくるオサ先輩。そんなおいしい

シチュエーションをわれわれが逃すわけがないじゃないですかぁ」

「急ぎでしたけど、きちんと準備しておきました。人払いも完璧です」

「カメラなんかは最近は常備だしね」

 私の周りに壁のように群がった部員の手には、すでにそれぞれ違った形の、しかし画像

を記録するという一点ではおなじ機械が握られていた。

「どうです、オサ先輩、360度あらゆる角度から撮影可能です」

 うそ、これだけの、カメラからいっせいにフラッシュが放たれ、撮影音が沸き起こると

いうの?一斉に向けられる機械の視線の予感にゴクリとのどが鳴る。

「うーん、やっぱりというか、袴はあまり透けてはくれませんねえ。ではこれを使うこと

にしましょう」

 そういって、百子が取り出したのは、紺ではない白の袴、ふだん綾代とかが身につけて

いるのと同じようなやつだ。

「これに穿き替えてください」

 私が受け取るまでもなく、保美と綾代が私の袴を脱がせて、新しい白袴に着替えさせる。

下着をはいてない私のあそこはわずかに外気にさらされるけれども、二人とも気にも留め

ずあっさりと穿き替えさせてくれたのだった。

「これに、何の意味が?」

すこし、冷静になって問いただす。まあ乾燥した袴に替わって気持ちはいいけど。

「へっへー、さらにこれです。オサ先輩。じゃーん」

「……きりふき?」

「そーです。この霧吹きでもって、こう!」

 きゃっ、つめたい。霧吹きで水分を与えられた箇所が濡れて肌に張り付く。とうぜん下

の肌は透ける。百子の霧吹きを皮切りに、ほかの部員の何名かからも水が吹きつけられる。

 少しずつ、少しずつ、私の肌は透けて露出していく。その様子を、何台ものカメラがフ

ラッシュを焚き、シャッターを響かせて、あらゆる角度から私の姿を納めていく。

 雨よりも激しい光のシャワーが、私の羞恥心を連続して刺激し、全身を貫く興奮を喚起

する。カシャリ、カシャリと微妙に異なるシャッターの音の重奏が、私の脳内に快感のス

パークを引き起こす。冷たさとともに徐々に露出していく肌に、熱い興奮の色が走る。

 鏡の中の私の乳首は、もう、ごまかしようがないほどその存在を誇示し、白の中に朱を

主張している。

 すっかり袴がぬれそぼり、どこを隠して、どこを隠さないかなど、選ぶ自由は私からな

くなり。私は、鏡に映る自分の媚態に興奮し、フラッシュはそのたびに嗜虐的な快感を与

え。響きわたるシャッター音は、私の理性の鍵を打ち壊してゆく。ハァ、ハァ、と荒い息

を吐いているのは果たして私なのか、誰かなのか。

 逃げ場のない中で、周囲の視線にさらされ続ける行為に、意識は甘く霞んでゆく。

 次々と様々に与えられる刺激が、私の何かを高みに高みに押し上げて行く。もはや論理

的な思考はまるでできず。与えられる快感を精一杯享受することのみが脳内を占めている。

 感じる快感の間隔は短くなり、より鋭いモノへとなっていく。幻想の針で全身を刺され

たところから、快楽が噴出すような錯覚さえある。

 恥ずかしい、恥ずかしい、気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい!

 気持ちいいという感覚すら、言葉ではなくもっとダイレクトなものになる。それがます

ます私を追い上げて、引き上げていく。最高点に達し、光がはじけて、音もなにも聞こえ

なくなり、私は意識を失った。ああ、イク!




「無事に梢子さんを保健室のベッドまで運んできましたよ。百子ちゃん」

「お手を煩わせてすみません。姫先輩」

「いいんです。梢子さんにこういうことするのは私の役目ですから」

「それにしても、梢子先輩を水で脱がそうなんてよく思いついたね、百ちゃん」

 心底感心した様子で、保美が言う。

「いや〜、あたしもまさか自分で濡れて帰ってくるとは意外でしたけどね」

「でも、それ以外ではほとんど計画通りでしたね」

「この調子で次回もがんばるですよ!」

 おー!というきれいにそろった声が委員会の面々から上がった。




あとがき

 4からのつづきのオサM5話です。非常にお待たせしました。すみません。ちょっと今

回は原点に返ったシチュエーションで書いてみましたいかがでしたでしょうか?

 ひきつづき、オサ先輩のM性を開花させる委員会では作戦募集であります。どしどしご

応募ください。


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             作者はHPとか馬鹿なことを考えているらしい、みんなのき

             つい一言で思いとどまらせよう!