963 :梢子×七夕×ミギー:2008/07/07(月) 23:37:13 ID:lwo+ESsQ

「七夕、か。」

遠くの祭りの喧騒が微かに部屋まで聞こえてきた。

私、小山内梢子は一人、部屋の窓辺でそれを聞く。

涼しげな風に仰がれてカーテンが波打ち泳ぎ河になる。

それに合わせて翻る髪にくすぐったさを感じながら、私は束の間夜風を楽しんだ。

「織姫と彦星が年に一回逢えるかどうかの日か。」

そんな日に家に一人で居る私。

本当はお祖父ちゃんに祭りに行かないかと誘われたけれど、私はその誘いをそれとなく断った。

自分で認めるのは悔しいくらいに理由は分かりきっていた。

「汀……。」

口をついたそんな言葉。

ここに居もしない人の名前が自然と口に出た事に頬の紅潮を感じた。

「もぅ、ばか。」

少し悔しくて窓辺に顔を突っ伏した。

そのまま視線を左へ向ければ私の机、机上におわすは二体の折り紙。

私が作った織姫と彦星。

それを見て恥ずかしくなった私はまた顔を突っ伏した。

「うー、うぁあ。」

と恥ずかしさによる謎の呟きを吐きながら。


とはいえいつまでもそうしている訳にも行かないので、私はもう一度机上に視線を向ける。

突っ伏した体勢の関係で二体の折り紙が妙にいつもと違って見えた。

波打つカーテンが途切れ途切れに折り紙を隠しては現す。

それを見て、机上に並ぶ二体にすっと私は片手を伸ばした、私の腕を支点にしてカーテンの遮りはもう意味を成さない。

「何やってるんだろう、私。」

そう口に出す私の顔は無表情、微かに聞こえる楽しげな喧騒、遠くで上がった打ち上げ花火。

祭りの喧騒さえ遠いこの部屋で、私はぴんと中指を弾いた。

あっけなく倒れる彦星の折り紙、そんな様子が何故だか少しおかしくて、くすりと小さく表情を変えた。

七夕に逢いたいなんて恥ずかしくて汀には言ってないけれど、ほんとは汀と今日逢いたい。

約束なんてしてないけれど、自分勝手に私は逢えると期待する。

だって今日は七夕なのだから、そんな風に期待して私は汀を待っている。

何て勝手なんだろうと思ったけれど、思う自分に歯止めが効かない。

「これは……。」

汀にメルヘンさんと言われても仕方ないわね、少し悔しいけれどそう思った。

「分かってるんなら、逢いに来なさいよね。」

囁く私に風がそよめき髪をさらっていく。

「ほんと、ばかなんだから。」

果たしてそれは誰に対してだったのか、そんな疑問を打ち消すように私の携帯が着信を告げた。

期待のままにそれを手にとり、はやる気持ちを抑えて真っ先に見るはディスプレイ。

表示されるのは相手の名前。

見るや否や私の顔は破顔した。

「やっぱり、ばかなんだから。」

果たしてそれは誰に対してだったのか、私は笑みを浮かべたままに通話のボタンを押していた。