部活が終わった後、汗をかいたので折角だからとシャワールームで汗を流す。
ガヤガヤと騒がしい場もやがては一人、二人と人が減っていき…。
「オサ先輩、お先失礼しまっす」
「梢子さん、戸締りお願いできますか?」
「うん、わかった。お疲れ様」
綾代と百子が出て行った時には私一人になっていた。
ザー…。
シャワーの水が体を叩く。少し冷たいが部活で火照った体には丁度良い。
今日は後輩の指導で延々とかかり稽古の相手をしていたから流石に疲労が強い。
水が流れる。激しい運動で体温が上がった体が冷えていく。
「…ん、これ以上は駄目ね」
しかし流石に冷やしすぎるのも体に良くないとぬるいぐらいに温度を調節した。
と、その時である。
ぬるま湯が出始めた瞬間、ガチャリとドアが開く音が聞こえた。
部活が終わった他の部員が入ってきたのだろうか。
いや、でも確か最後に終わったのは剣道部のはずだし――。
ひたひたと近づく気配。その気配は何故か自分の背後で止まった。
「…オサ」
「み、汀!?」
突然、聞き慣れた声がして慌てて振り向いた。
そこには汀が居て、じっとシャワーを浴びている私を見つめていた。
「ど、どうしたのよ。今日は鬼切りの仕事で休んだんじゃ…」
そう、確か昨日メールで「仕事いってくるわー」と書き残して今日は休んでいたはずだ。
だからここに汀が居るはずないのに――。
「うん、仕事の方は終わった」
いつもの軽い口調ではない事に違和感を感じた。
表情も少しうつむき加減で元気がないように思える。
「…汀、本当にどうしたの?」
「ん、ちょっと…オサに会いたくなってさ」
ついつい学校へと足を運んでしまったらしい。
しかし時間も時間で部活はとっくに終わっており――。
「姫さんに途中で会って、オサはシャワールームにいるって聞いたから来ちゃった」
「そ、そう…」
顔をあげて笑った顔が何故か痛々しい。身体的な疲れの他にも、精神的に疲れているらしい。
そのまま少しの間沈黙が流れる。シャワーの音だけがこの部屋を満たしていた。
…そして、今さらながら自分の状態を思い出す。
そう、今の私は裸で、しかも汀にじっと見られているのだ。
「ちょ、ちょっと待ってね。話すならちゃんと服着るから――」
「…やだ、待てない」
急に恥ずかしくなって慌ててシャワーを止めようと思った時、汀が個室に乗り込んできた。
驚く私を汀は抱きしめてきて、頭が真っ白になる。
「ななな、何を――」
「オサ…」
ぐっと更に強く抱きしめられる。いつもとは違う汀の様子に離れろといえなくなってしまう。
汀は服を着ていたから当然のように服までびっしょりなのだが、濡れるのを特に気にしていないようだった。
…いや、気にするほどの余裕もないという事か。
「オサ…あたし、あたしね…」
耳元で聞こえる声が震えていた。
何を怖がっているのか…。
確りと話を聞くためにシャワーを止め、汀を強く抱きしめ返して耳を傾ける。
「仕事で…鬼を切ったんだけど…」
「うん」
話を促すように汀の頭を優しく撫でる。
「その鬼が……オサに少し似て、て…」
その時のことを思い出したのか汀の体が微かに震えた。
汀が何を言いたいのか、何を怖がっているのか分かった気がした。
「それでも、あたし、その鬼を切って…そしたら、もしこれがオサだったらって考えちゃって…」
汀は自分自身が怖くなってしまったのだろう。
鬼を切る、それが鬼切り部。それが例え肉親や大切な人であっても――。
「あたし…多分、オサでも切る…鬼切りだから…。でも、切った後…どうなっちゃうかわかんない…」
「汀…」
「オサが居なくなった後なんて考えられない!割り切る事なんてできない!あたし、きっと…あたしじゃなくなる…!!」
汀が怖がっているのに、何故か私は心が暖かくなるのを感じた。
それだけ汀が私の事が好きなんだと…それだけ、汀にとって私の存在が大きいのだと分かってしまった。
「オサ…あたし…」
「大丈夫、私は鬼にはならないわ」
抱きしめている手を離して、汀の両頬に手を添えた。
額をあわせるように見つめると不安げな汀の瞳と視線がぶつかる。
「それに、汀になら何されてもいいもの」
「オ、オサ…」
「…好きよ、汀。私は…ずっと汀の傍にいたい」
例え鬼になって汀に切られたとしても、あなたが望むなら魂だけになっても傍にいる。
一人になんてさせない。させたくない。
「私は…汀のものだから…」
「…オサ…ぁ…ありがとう」
ぽろぽろと汀の目から涙が流れはじめた。愛する人の綺麗で愛しい泣き顔。
そのまま汀の顔が近くなって、私達の距離はゼロになった。
「ん…ふ…」
柔らかい唇。じんわりとお互いの熱が溶け合う。
付き合い始めてから、何度もキスはしたけれど、やはりこの感覚は心地いい。
「オサ……もう、無理…」
「…汀?」
唇が離れて呟かれた言葉に首をかしげる。何が無理なんだろう――?
「我慢できない…オサ…オサぁ」
「え、えぇえ!?ちょ、ちょっと!」
徐に汀が服を脱ぎだして焦る。
いや、シャワールームなんだから服を脱ぐのは当たり前なんだけど――!!
「だって、オサ裸だし…」
「シャワー浴びてたんだから当たり前でしょ!!」
「可愛いこというし…」
「か、かか可愛い事って…」
裸になった汀を見ないように顔をそらして考える。
私、何か言っただろうか――思い返してみて、思い当たる言葉達。
『それに、汀になら何されてもいいもの』
『…好きよ、汀。私は…ずっと汀の傍にいたい』
『私は…汀のものだから…』
「う、うわぁぁあ…」
何を口走っていたんだ自分は!!
今さらながらに耳まで赤くなった私を見て汀が笑った。
それはいつもの意地悪な笑顔だった。
「ねぇ、オサオサー」
「あ、うぅ…」
汀が私を呼ぶ。
からかう様な声。だけど何処か優しい、暖かい声。
恥ずかしさと緊張で硬くなっている私に汀の顔が近づいてくる。
「み、汀…その…」
「オサ、今さら「待った」は無しよ?」
にやりと再び意地悪な笑顔。猫の様に細められた目に私は魅入られる。
そのまま私は汀に壁に押し付けられ、唇が重ねられた。
いつもしている様なキスではなく、初めてする深いキス。
「んぅ…ふ…ちゅ…」
「…ふぁ、むぅ…ぁ…」
唇を食むように何度も何度も求められる。
段々と力が抜けてきた頃を見計らって、汀は私の中に舌を侵入させてきた。
初めての感覚に逃げようとする体を強く抱きしめられる。
「んぁ!ちゅ…ぁむ…ふぁ…」
舌で口内を犯される感覚に背筋がぞくぞくと震えた。
頭の中も段々真っ白になってきて、ただその感覚を追う事に集中してしまう。
「ふぁ、みぎ、わぁ…」
「ぷぁ…オサ…可愛い顔してる…」
唇を離したのに、二人を繋ぐ糸が引かれて胸が熱くなる。
「汀…汀ぁ…ぁ!!」
「オサの胸、柔らかくて気持ちいい…」
汀に胸を触られ、頬が赤くなるのを感じる。
「や…ぁあ!ん、ぁ…!」
「もう硬くなってきた…オサも気持ちいいんだ」
そのまま指で胸の先を擦られて体の奥がじんっと熱くなる。
にんまりと笑う顔が恨めしい。恥ずかしくなって顔をそらすと今度はねっとりとした感覚が胸を襲った。
「ひぁ、や、汀ぁ!」
「んふ…オサ、ほんと可愛い…ちゅっ…」
胸を舐められ、吸われ、歯を立てられて…汀に好きなように蹂躙される。
びくびくと体がはねるのを止められない。体の奥が既に燃えそうなほど熱い。
その後、胸を思う存分弄った汀は、そのまま下へ下へと頭を移動させていく。
そして――。
「…凄い濡れてる」
「っ!ば、ばか、何言って…!!!」
力の入らない足をそのまま開かれ、自分の大切な場所が露にされる。
じっと汀に見られることに耐えられなくてぎゅっと瞳を閉じた。
濡れているのはシャワーを浴びたから水で濡れているのであって、感じたから濡れてるのでないと自分で言い聞かせる。
「オサのここ、綺麗…ヒクヒクしてる」
「――っ!!」
指で開かれる感覚。とろりと何かが自分の中から溢れるのが分かって耳まで赤くなる。
ふるふると羞恥で震えていると、今度は強く抱きしめられた。
暖かい体温に思わず目を開けると真剣な汀の顔が見えた。
「汀…?」
「オサ、嫌だったらやめるから…」
自分の大切な所に添えられた指の意味を知って一瞬体が恐怖で震えた。
―――それでも。
力の入らない体に苦労しながらも汀を強く抱きしめ返す。
「汀、大丈夫よ…」
「オサ…」
「言ったでしょ…私は汀になら何されてもいいって」
汀が私を求めている。私も狂おしいほどに汀を求めている。
熱に浮かされた体は既に汀を受け入れる準備は整っていて――。
「私を…本当に汀のものにしてくれていいから…」
「うん…オサ…いくよ」
汀の言葉と同時に、自分の中に異物が侵入してくる感覚がした。
指は細いとはいえはじめてなのだ、中で感じる圧迫感に息が苦しくなる。
「いっ…ぁ…!!」
「オ、オサ…?」
「だい、じょうぶ…」
不安げな汀を安心させようと笑顔を浮かべる。
大丈夫、怖がらないで…私をあなたのものにして。
「オサ…苦しかったら、爪立ててくれてもいいから」
「つ、め…?」
背中に回している手のことだろうか。
しかし、幾ら綺麗に切りそろえられた爪とはいえ力を入れて立てれば傷ついてしまう。
「いいの。それでオサが楽になるんだったらそれぐらい…それに」
「ふぁあ!」
ぐちゅり、と指が不意に大きく動いて思わず汀の言うとおりに背中に爪を立ててしまう。
「っ…傷ついたならついたで…それはあたしがオサのもんだってことの証になるでしょ?」
ぐちゅり、ぐちゅりと容赦なく攻め立てる指に翻弄される。
全身を駆け巡る快感にわけが分からなくなってガリガリと立てた爪で汀の背中を引っかいた。
「…オサ…っ…かわいいっ…」
「んぁ、汀、やぁ…あぅ…!!!」
引っかかれる度に痛そうに少し顔を歪ませる汀が見えて引っかくのをやめようとするけども、攻め立てる指がそれを許してくれない。
水音が妙に頭に響いて恥ずかしい。
「ね、もっと乱れて…あたしに痕をつけて…」
「汀、みぎ、わぁ…!!」
いつの間にか増やされた指で更に私を追い立てる。
頭はもう何もまともに考えられない。ただ汀が欲しくて欲しくてたまらない。
汀を私のものにしたい。
私を汀のものにされたい。
ただそれだけが頭の中を支配する。
汀から与えられる快感が体が支配する。
「も、もぉ…イッ…ぁぅ!!!」
「オサ可愛い…イッて…可愛い顔もっと見せて…」
限界まで追い詰められた私を更に追い立てる。
初めて達するのが怖くて強く背中に爪を立てると、汀は優しくキスしてくれた。
「ふ、ん、ぁ、あああああ!!」
それで安心したのか、一気に快感が体を駆け巡って――私は達した。
ぐったりとした倒れそうになった体を汀が抱きしめてくれる。
「オサ…好き。愛してる」
「…わた、しも…」
優しく微笑んでくれる汀に胸が熱くなって甘えるように擦り寄る。
二人の体温が溶け合って心地いい――。
そのまま暫く二人の時間を味わっていると、少し寒くなってきた。
寄り添っているとはいえ二人とも裸なのだ…しかも濡れてる。
「汀、そろそろ出よう…?」
「そうねー…って、やば…」
…何がヤバイのだろう。
汀が向けている視線を追うとソコには――。
「服、濡れたままだった…」
そりゃ服着たままシャワー室に入ってくれば濡れもするだろう。
完全に自業自得である。
「そうみたいね…それじゃ私は着替えてくるから」
「え?」
個室の扉にかけられていたタオルを取りながら汀に笑いかける。
まだ体はふらふらとするけれど歩けないほどではない。
「ちょ、オ、オサ?」
「だって私の服は濡れてないし。汀は乾くまでそこに居れば?あぁ、閉じまりもお願いできる?」
「ままま、待って!それはいくらなんでもないんじゃない!?」
体を拭きつつ汀の泣き言を聞き流す。
汀が困っていると何故か楽しいと感じる自分はなんだかんだいって頭文字Sなんだなと再確認。
「そんなに置いていかれるのが嫌?」
「イヤデス」
「でも服濡れてるでしょ?」
「…うー…」
困ったように汀は身をくねらせて悩む。
その時、私がつけた背中の傷が目に入り、思わず魅入ってしまう。
赤く何本も引かれた線――私がつけた、汀が私のものである証。
「しょうがないわね…私のジャージ貸してあげるわよ」
「え、い、いいの?」
「いいわよ、ほら体拭いて。そのままだと風邪ひくわよ」
だからだろうか、愛しい感情が沸いてきてつい助け舟を出してしまった。
ジャージで帰るのも恥ずかしいとは思うが、まぁ一人で放置されて乾くまで濡れたまま過ごすよりはマシだろう。
「オサオサー」
「何よ?」
体を拭いた汀が服を着ている私に擦り寄ってくる。
…ぴったりとくっつかれると着るのに邪魔なんだけど。
「背中が痛いんだけどさー」
「……そ、それが?」
「あとで痛い所、舐めてくれる?」
ニヤリと笑いかけられて顔が真っ赤になるのが分かる。
もしかしてさっきの仕返しか…。
「ぅー…」
「オサがつけた傷でしょ?責任とって貰わないとー」
何が責任だ、自分で立てていいって言ったくせに。
むぅっと拗ねた様に黙った私を満足そうに見て、汀は私に背を向けて借り受けたジャージを着始めた。
だから――。
「……ぺろ」
「うひゃああ!?」
赤くなっている背中の引っかき傷をひと舐めした。
汀が素っ頓狂な叫びをあげて私を見つめるが、私はそれを無視してさっさと服を着る。
「オ、オオオ、オサ?」
「はやくしないと置いてくわよ」
「あ、待って、すぐ着るから!」
扉に手をかけた私を見て焦ってジャージを着る汀が面白くてつい笑ってしまう。
ジャージを着込み、濡れた服を絞って鞄に突っ込んだ汀と一緒にシャワールームを出る。
戸締りをして後は鍵を返して帰るだけ。
外はすっかり暗くなっていたが、一人で帰るわけではないから良いとしよう。
「それじゃ、行きましょうか」
「うん、一緒にね」
歩き出した二人。
自然に繋がれた手。
離れないように、離さないように確りと――二人はこれからも共に歩んでいく。