「――なっちゃん!なっちゃんッ!」

「梢ちゃん。私はここよ、ここに居るわ」

「ああ、なっちゃん……なっちゃん……」


夏姉さんと一緒に卯奈咲から戻った私は、しばしば悪夢にうなされるようになった。

おそらく八年前の記憶を取り戻したせいだろう。

夏姉さんが斬られた記憶。赤く染まった胸元と、哀しそうに微笑む夏姉さん……。

夏姉さんが戻ってきたというのに、深く深く、水底に沈めていた記憶が、

代わりに夏姉さんを奪うとは、まったく皮肉な話だ。


そして心配した夏姉さんが、一緒に寝てくれることになった。

高校生にもなって恥ずかしい話だが、背に腹は代えられない。

一時の恥より、恒久的な安眠だ。朝練もあるのにこれじゃ、部長として示しがつかない。

八年分甘えるのも悪くないだろう。うん、全然わるくない。頑張った私への、当然のご褒美だ。うん。

お祖父ちゃんには、まだまだガキだとせせら笑われたけれど。


「それじゃおやすみなさい、梢ちゃん」

「おやすみ。夏姉さん」

そして今夜も床に着く。

まだまだ暑いのに悪いと思うが、仕方ないよね。

しかたないしかたない。



う〜ん、眠れない……。梢ちゃんと一緒に眠れるのは嬉しいけれど、興奮してどうにも寝付けない。

暑さも一役買っている。梢ちゃんは気にならないようだけれど、私はとても気になる。

暑い中、タイマーをセットした扇風機だけで、一晩を過ごす。

一人でも暑いのに、二人となったら更に倍だ。二人して汗だくの肌を絡みつかせて……

あっと、いけない。

勿論、全然悪くない。お風呂に入っていい匂いの梢ちゃんと、毎日干している布団の匂い。

でも、しっとりと湿った胸元や二の腕、その他諸々が……。

ああ、また余計な事を。こんな時は冷静になって、ドイツ語で素数を数えるんだったか。


梢ちゃんにとって、私は昔そのままの懐かしい鳴海夏夜だが、私の方はそうはいかない。

昏睡から目覚めた人のように、私の意識では一年と経っていないのだ。

隣には、幼い梢ちゃんの面影を残した女の子。あんなに小さかったのに、すっかり成長してしまって。

――色々と。

だから、意識するなと言われても無理。

この身が鬼であるのも理由の一つかもしれない。鬼と人との違いに比べたら、性差など些細な事だ。

断崖絶壁と垣根くらいの差はある。あって欲しい。

つまり、なんというか、私はこの子を。異性として意識しているのだ。

――いや、同性なんだけれども。


だからそんなにひっつくのは止めて欲しい……。ああ、私の胸に梢ちゃんの顔が……。




最近、夏姉さんの様子がおかしい。

私の方をちらちら見たかと思うと、あらぬ方を見たり、顔を赤くしたりして。

ドラマに出てくる恋をした女の子みたいで、こっちまでどぎまぎしてしまう。

――全く。なんなのよ一体……。

そういえば、保美も似てるわね。


悩みに悩んだ末、誘惑してみる事にした。


些か飛躍しすぎかもしれない。いいや、些かどころでなく飛躍し過ぎなんじゃないかな?と、思ったり思わなかったり。

でも他に良い方法も思いつかないし、百子が読んでいた漫画にもそう書いてあったのよ。

とにかく、言い訳を十ほど並べ、自分を納得させた。


衣装は保美に押しつけられた、ジーンズのタイトスカート。短すぎて、箪笥の肥やしになっていた物だ。

これに黒のオーバーニーソックスを併せる。よくわからないが、絶対領域がどうのと百子が言っていた。

ショーツは、綾代の家へ泊まりに行った時に貰った物。

水色のボーダーなんて子供っぽいんじゃないかとも思ったのだけれど、

かといって、おしゃれな下着を持っているわけもなし……。

姿見で確認したところ、スカートの丈は股下5cm。膝上じゃなく、股下5cm。

保美はこんな短いスカートで表を歩かせようと思っていたのかしら。

ああ、考えただけで頭がくらくらしてきた。

でも確認しておかなきゃ。そ、その……夏姉さんが、私のことを、意識しているのかどうかを(性的な意味で


よし、夏姉さんがいた!茶の間でテレビを見ている。

小さくガッツポーズ。

八年振りのテレビは大層楽しいらしく、あの人が消えた、有名になった。ハゲた。

などと、楽しそうに話してくれる。

剣鬼として走り回っていた間は、娯楽など考えもしなかったそうだ。

猪突猛進な夏姉さんらしい。私ならきっと、旅先のホテルでテレビを観てるわね。


「なにか面白いでも番組やってる?」

「今、警視庁二十四時を見てるわ。警官だった頃を思い出して、面白いのよ。ああっ、ガサ入れ懐かしいわ〜」

えいやーと、腕を振り振り武勇伝を語る。

「へ、へえ〜そうなんだ……」

私にはよくわからない世界だ。

それにしても、位置取りが難しいわね……。うまく夏姉さんから見られる場所に。見らみら……あっ!あー!アッー!

「どうかした?梢ちゃん」

「へ?う、ううん。なんでもない。です。ちょっと考え事〜」

ぱたぱた手を振って、適当に誤魔化す。

少し冷静になったら、すごく恥ずかしくなってきた。私は一体何をやってるんだ……。


――いや、大丈夫大丈夫。問題ない。

女同士じゃない。下着くらい、着替えの時にも見られているんだし、今更見せたところでどうという事もない。

それに……夏姉さんの心も知りたいし……。

ええい!剣道部主将、小山内梢子!こんな事で狼狽えてどうする。やってやろうじゃない!

都合のいいことに、挙動のおかしな私が気になるらしく、夏姉さんが番組の合間にチラチラとこちらを窺っている。

私もテレビを見る振りをして、よいしょっよいしょっと姿勢を変える。

あの位置からなら……。


あ、夏姉さんの足の親指が、ピクッと動いた。

目を合わせるわけにもいかないので、手足の先に注意を向けているが、なんだろう……。

第三の目というか、気配というか。見ていなくても、なんだかもの凄い視線を感じるんですけど。目から出るビームみたいな。

うわ、これはちょっと危険だ。夏姉さんやばいよ。

いま目を合わせたらどうなるんだろう。恐くて見られないけど。


また姿勢を変えて、スカートの下を隠す。

あ、視線が消えた。ふぅ。


ちらっ。

ビクッ。

ちらっ。

ビクッ。


なんだか楽しくなってきた。ふふ、夏姉さんったらおかしい。

お気に入りのおもちゃを見つけた子供のように、私はこの悪戯に夢中になってしまった。

後々、あんな大惨事が待っているとも知らずに。




なんだか梢ちゃんの様子がおかしい。

妙にスキンシップを図ってくるし、とても色っぽい。言葉は悪いけど、まるで発情期の猫みたい。

これはひょっとして、何かのサインかしら。私のことが好きなのかしら。

夜の事もあるし、私の忍耐ももう限界よ……。



「夏姉さん、お風呂空いたわよ〜」

バスタオルを巻いた私は、禅の真似事をしている夏姉さんにお風呂へ入るよう勧める。

お祖父ちゃんはまだお客さん相手に碁を指して、うんうん唸っていることだろう。はしたないと怒られる心配はない。

「はーい」

私の姿を認めてちょっと動揺した風だったが、何気ない所作でそのままお風呂場へ向かおうとした。

禅が聞いてあきれる。あれじゃ、佑快和尚に一撃入れられるわね。

そのときに、事件は起きた。


「あっ」

湯船でうとうとして長湯したせいか、立ち眩みを起こして、膝が崩れる。

慌てて手を伸ばすが、襖の縁はちょっと遠かった。

襖に手を突くわけにはいかないし、幸い、床は畳だ。古き良き日本家屋に感謝しつつ、受け身の要領で身体の力を抜く。

しかし、夏姉さんが血相を変えて飛び込んできた。

飛車の二つ名に相応しい速さで、こんなときだというのに見惚れてしまった。

くるりと私との位置を交換して、夏姉さんは畳に。私は夏姉さんの上に倒れ込む。


「大丈夫?梢ちゃん」

「うん、ありがとう。私は大丈夫。夏姉さんこそ大丈夫なの?」

二人分の体重で、この方が脊椎や腰を痛めるんじゃないだろうかと、心配する。

「ええ。……?」

夏姉さんが私をまじまじと見ている。

……?

気づけば、巻いていたタオルははだけ、一糸纏わぬ姿で夏姉さんと抱き合っていた。


思考停止はどのくらいだったろうか。

私の頭に、ぷつんと何かが切れる音が聞こえた気がした。

またくるりくるりと位置を変え、今度は私が下に。夏姉さんが上に。

「梢ちゃん!梢ちゃん!私、私っ…!!」

「キャッ!ちょっと、なっちゃん!なっちゃんストップ!止まってなっちゃん!」

摩多牟みたいな夏姉さんに、貞操の危機を感じた私はじたばたと身体を揺らす。

夏姉さんには、活きがいいまな板の鯉に見えているようだが。赤いから茹で蛸かな?頭の片隅でそんな事を考える。

「梢ちゃん、私が嫌い?私の事嫌い?」

「なに訳わかんない言ってるのよ。そんなわけないじゃない。そんなことないから、どいて!」

――恐い。夏姉さんが恐い。底光りする赤い瞳が、<<剣>>に憑かれた剣鬼カヤを想起させる。

ともすれば、その瞳に竦んでしまう。肌が粟立つ。

がこん。と、思わず膝蹴りをお見舞いしてしまった。

「ぐぅっ」

たまらず身体をくの字に折り曲げる、夏姉さん。

「うわっ、ごめん夏姉さん。大丈夫?」

取りあえずさすってみる。

「うん……。大丈夫。ご免なさい、梢ちゃん……」

うわ〜。凹んでる。おもいきり凹んでるよ。

そりゃ可愛がってた従姉妹を押し倒しちゃショックよね。

拒絶されたし。

でもどちらかと言うと、私がショックを受ける場面なんですけど。


人生終わった様な顔の夏姉さんを見てたら、ついつい余計な事を言ってしまった

「もう、そんなに落ち込まないでよ。物事には順序ってものがあるのよ?そういう事は、また日を改めて……」

幽鬼のようだった夏姉さんの瞳に、光が戻る。

「日を改めるって、どういうこと?何時?ねえ!何時ならいいの!?」

そう言って、私の肩をがくんがくん揺する。

取り消そうにも、もうこうなったらあとの祭り。

うわ、夏姉さん必死……。なんて格好悪いのかしら。

なんて可愛いのかしら。


「ど、土曜。今度の土曜日なら」

頭をがっくんがっくん揺らしながら、何時ならいいんだろう。朝練のある平日は駄目よね。

と、頭の中で今週のスケジュールを紐解いていたら、自然ぽろりと口から零れた。

別に今週じゃなくてもよかったのに。私の馬鹿。

「土曜日!分かったわ!土曜日ねっ!!」

失意のどん底といった顔が、喜色満面、向日葵のように咲いていた。

これが、泣いた烏がもう笑う。か。




――全く。勢いに任せて、なんだかとんでもない約束をしちゃった。

夏姉さんは朝からご機嫌で、我が世の春って感じだったな……。

あれだけ喜んでくれたら、悪い気はしないけど。でもそれが、私の貞操と引き替えじゃ……ね。

「はぁ〜」

おかげで授業にも身が入らない。

帰ったら復習しておかなきゃ駄目かな。

とりあえず。


「綾代、ちょっといい?」

「はい。なんでしょう、梢子さん?」

綾代が可愛らしく小首を傾げてくる。

「今日、剣道部の練習が終わった後、付き合ってくれないかな」

「お買い物ですか?」

「ええ、当たり。ちょっと、下着選びを手伝って欲しいんだけど……」

「下着、ですか?」

不思議そうな顔で見返してくる。

まあ当然だろう。そんな女の子らしいお出掛けなんて、私から持ちかけたこと無いし。

「わかりました。かわいらしいのを見繕ってさしあげます」

全てお見通しですとでも言わんばかりの笑顔で、頼もしく頷いてくる。

やっぱり頼んで良かった。こんなとき綾代は、話が早くていい。

保美に頼めば、理由を知りたがった上に、セットで百子も着いて来かねない。

あの子はああ見えて、妙に押しの強いところがある。

百子一人でももちろん却下。理由は言わずもがな。

夏姉さんの影響か、誤魔化すのはどうも苦手だ。特にこの手の事は。


学校帰りという事もあり、また綾代が遠回りにならないように、繁華街は避けて駅周辺で探す事にした。

「ではどこから回りましょうか。どこか行きたいお店でもありますか?」

「正直、どこなら良い物が置いてあるのかわからないわ。サイズと着け心地くらいで、見た目とかはあまり細かく選んだ事ないから……」

「確かに、そんな感じですよね」

うふふ。と、綾代が笑う。

海ぶどうは私も後悔してるわよ。もう、そんなに笑わないで。

「そうですね……。それでは、私のお薦めのお店を一通り回ってみましょう。予算はお幾らですか?」

「えっと、一万円」

なけなしの小遣いだ。

「わかりました。それでは行きましょう」

綾代に手を引かれ、お勧めだと言うランジェリーショップへと向かった。


「これなんて如何です?」

「うーん。ちょっと派手すぎない?」

「そうでしょうか。梢子さんによく似合うと思うのですが……」

あれでもないこれでもないと、店員と取っ替え引っ替え、まるでお人形の様に試着させられる。

色々見ている内に感覚が麻痺してきて、どれがいいのかわからなくなってくる。

最初から分かっていないという意見は無しよ。


「ふう。梢子さんにも困ったものですね」

「そんなこと言われても……」

途方に暮れる。

「もうこうなったら、私が選びます。サイズもフィッティングの好みもおおよそ理解したので、私だけでも大丈夫ですよ」

「いや、大丈夫ですと言われてもね」

「店員さんが裏でお茶を出してくれるそうなので、お話でもして待っていて下さい」

「あっ、ちょっと」

もう言う事は言ったとばかりに、さっさと下着選びに戻ってしまう。――全く。

しかし綾代の言うとおり、私に任せていたんじゃ、いつまでも終わりそうにない。

ここは綾代に任せてみよう。元々、綾代のセンスも込みで連れてきたのだ。


お店の人とたわいないお喋りをして待つ事、十数分(私の重い口相手に、よく頑張ってくれた)

「お待たせしました。お会計は済ませましたので、もう出ましょうか」

「ありがとう。代金は後で渡すわね。それで、一体どんな下着にしたの?」

私が覗こうと手を伸ばすと、すり足でススッと躱されてしまう。

「帰ってからのお楽しみです」

ニコニコと、駄目ですよと言ってくる。

まさか、私が返品でもする様な代物を選んだりは、してないでしょうね……。


今日のお礼にと、ハックへ誘ったのだけれど

「せっかくですけど、門限も近いですし」

と、辞退されてしまった。まだ明るいけど、もうそんな時間か。

残念。それじゃまた次の機会に誘うとしよう。

「今日は助かったわ。ありがとう」

「いいえ。私も梢子さんを着せ替え出来て、楽しかったですわ」

駅で綾代を見送ってから、帰途に着いた。


土曜まであと三日か。短いような長いような。

でもそれとは関係なく、今夜も夏姉さんの腕の中で眠るのだ。

安眠のためだから仕方ないのよ。

もう百も呟いた言い訳を、誰にともなく言い聞かせる。

一緒に寝てわかってしまった。

夏姉さんの腕の中は落ち着く。もう一人では眠れなくなってしまう……。

ちょっと、いや、かなり暑いが。



木曜日。約束した日時まであと二日。と、十時間。

指折り数えてしまう自分が嫌だ。

遠足の日を心待ちにする子供か、はたまた歯医者の日を、まるで死刑囚のように待つ子供か。

私は一体、どっちだろう。

……え、遠足。かな?

つい一人顔を赤くしてイヤンイヤンしてしまった。

だ、誰も見てなかったわよね?



ニュ、ニュース!ニュースですよ!あのオサ先輩が身体をくねくねさせてました。こわっ。オサ先輩こわっ!

――見られてました。




今夜も梢ちゃんで。いや梢ちゃんが、マッサージの相手をしてくれていた。

私は相変わらずの不器用者で、また悲鳴をあげさせる。

「おめえはちっとも上達しねえなぁ……。頭だけで覚えるんじゃねえ。感じろ。棒振りと一緒だ」

「梢子の身体を揉んで、経路図通りにその位置にあるのかどうか、ちゃんと感じ取れ」

「はい!」

仁之介さんは口が悪いのでよくへこまされるが、真剣に教えてくれているのが判るので、やりがいはある。


上から下まで、隅から隅まで梢ちゃんの身体を確かめる。

別に邪な気持ちなんてない。これは勉強。勉強なのよ。土曜日までの我慢。

「んッ。夏姉さん、くすぐったい」

私が触れる度に、梢ちゃんが反応してくれる。楽しい。

「我慢してね。その代わり、ちゃんと覚えるから」

おかしな触り方にならないよう、努めて事務的に、けれど色んな事を考えつつ、細心の注意を払って揉んでいく。


「ん。そろそろ切り上げるか。佐々木の爺さんが来る頃合いだ。梢子も疲れただろ。ちょっと待ってろ、俺が揉んでやるから」

「お祖父ちゃん、針はいいからね。針は」


仁之介さんがなんだか失礼な事を言っている。

――すいません。全くもってその通りです。


梢ちゃんの身体は、私に揉まれたお陰ですっかり汗だくになっていた。

仁之介さんに言わせると、下手だからだそうだ……。夏の暑さも手伝って、まるで稽古の後みたい。

梢ちゃんはお風呂へ。

私もお風呂へ。


「夏姉さん、なんで着いてくるの?」

「私も汗かいたから、ついでに入ろうかと思って」

「うちのお風呂は咲森寺と違って、二人して入れるほど広くないんだけど……」

「知ってるわ」

じろりと見つめる梢ちゃんを尻目に、手早く脱ぐ。

梢ちゃんはどんな表情でも可愛いわね。

ため息一つ、梢ちゃんも観念して脱いでいく。うん、いい子いい子。

まだ湯を張っていなかったので、梢ちゃんを胸にシャワーを浴びる。

「ふう、気持ちいいわね……」

「本当に。これで誰かさんが居なかったら、もっとのびのび出来るんだけどね〜」

梢ちゃんが憎まれ口を叩く。

「そんな事言わないの。髪洗ってあげるから」

互いに髪を洗いっこして、ついでに身体も洗いっこ。梢ちゃんは恥ずかしがってたけど。

ああ、あの時の悪夢が嘘のようだ。

今、梢ちゃんが私の胸に抱かれている。二度と離したりしない。絶対に。


「うん?どうかした?」

梢ちゃんが私の胸を見ている。

「傷」

「ええ」

「お風呂に入ると、赤く浮き上がるのね」

そう言って、傷跡に指を滑らせる。

多分、マッサージの頃から浮き出ていたと思うけれど、黙っておく。

「気になる?」

「うん。私を守る為についた傷だもの……」

「名誉の負傷だもの。私は別に気にならないわよ」

嘘だ。これは梢ちゃんを守れなかった証。

お互い今こうして生きているのが、不思議なくらいなのだ。

ヤスヒメサマが居合わせなければ、きっと……。感謝してもしたりない。不甲斐ない私の代わりに、よくぞ救ってくれた。

「夏姉さん、くるしい」

「あ。ごめんなさい」

考え事をしていたら、強く抱きしめてしまったようだ。慌てて力を緩める。

「なんか難しい顔してた」

「うん」

梢ちゃんこそ難しい顔してる。

「もう出よっか」

身体を抱くようにして拭いてあげる。

人によくクールだポーカーフェイスだなどと言われるけれど、梢ちゃんは私の表情を簡単に読み取ってくる。

梢ちゃんに言わせれば、分かり易い位に解りやすいと言うことだが。不思議な子ね。


今日は疲れたと言うので、明日の事を考えて、早めに寝る事にした。

梢ちゃんの寝る時刻が、私の眠る時刻だ。寂しい思いをさせた分、側に居てあげたい。側に居たい。

早いもので、もう明日が約束の日……。

そわそわして落ち着かない。きっと梢ちゃんもだろう。

身体は疲れているのに、目が冴えて眠れない。

「――夏姉さん……まだ起きてる?」

「――起きてるわ。眠れないのね」

「明日ね」

「そうね……」

私としては飛び上がる程に嬉しいのだが、梢ちゃんはどうなのだろう。

やっぱり勢いで言って、後悔してるんじゃないだろうか。少し不安になってきた。

「後悔してる?」

後悔してるなら諦めよう。走り始めたら、きっと抑えが利かない。梢ちゃんに嫌われたくない。傷付けたくない。

「ううん……。約束したもの。明日、私を……」

「ええ。明日、梢ちゃんを私のモノにする……」

びくんと梢ちゃんが震えた。恐怖からかそれとも歓喜からか。私にはそのどちらとも判らなかった。

しかし、それでも。

「――おやすみなさい」

おやすみなさい、梢ちゃん。




明けて翌日、天気はあいにくのどしゃ降り。家に籠もるには丁度良い天気と言えた。

雨の日は飛び入りの客が来ないので、お祖父ちゃんは暇そうだ。

夏姉さんと私と三人で、益体もない話で時間を潰す。やはりどうにも空気が空々しい。

お祖父ちゃんは喧嘩でもしたのかと勘違いして、さっさと部屋へ戻る始末。手信号で仲直りするように言われてしまった。

そんなんじゃないのに……。


「雨が凄いわねぇ」

「そうねー……」


――うむむ。話が続かないわ。

「えっと、夜だから」

「え?」

「だから、夜だから。その、アレは」

「あっ、はい。うん。分かりました」

ぎくしゃくとしたまま、時間が遅々と過ぎてゆく。頷く夏姉さんの首の動きもぎくしゃくとしてる。

うう、こんな事なら、いっそ早く夜にならないかしら。と、つい空恐ろしい事を願ってしまった。

逃げるようにして午後からの部活へと向かう。

何故こんな雨の日に、学校へなんて行かなくてはならないのだろう。

こんな時は寮住まいの保美と百子が羨ましい。


「よしっ!」

気持ちがゆるんで怪我をしないように、気合いを入れる。

「はーい!それじゃストレッチ始めるわよ!手近の子と組んで〜!」

バレー部は休みにした様で、本日はバスケット部のみ。お陰で体育館を広く使える。

うちにも柔剣道場があったらいいのに……。

インターハイで優勝したら、ご褒美に建ててくれないだろうか。

建てるにしても、使えるのは百子の時代だろうけれど。


「オサ先輩張り切ってますねー」

「梢子先輩はいつも頑張ってるよ〜」

「じゃあ、ざわっちも頑張って股割りやろうね〜」

「やぁん。百ちゃん、優しくね?」

(うおおおおぉ!なに言ってくれちゃってますか!ざわっちはもぅ〜)

張り切ってる部員がもう一人。



「ただいま〜」

本日の稽古終了。やれやれ。

まだ今日はやっかいな稽古が残ってるんだけどね。

「おかえりなさい梢ちゃん。叔父さんと叔母さんは今日も遅くなるそうよ」

はいはい、いつものことね。

「それじゃこれからご飯の準備するから。待っててね」

「ごめんね、梢ちゃん。私がお料理できればいいんだけど……」

そう、すまなそうに言ってくる。

「いいのよ。夏姉さんの不器用は今に始まったことじゃないんだから」

「それに、夏姉さんに私の料理を食べて貰えて嬉しいのよ?」

「おいおい、俺だけじゃ不足かい」

お祖父ちゃんも出てきた。

「お仕事はもうお終い?」

「予約があと二件だな。んん……一時間で空くだろ」

「じゃ、それから夕飯にするわね」

夏姉さんが居てくれるお陰で、作りがいがある。


本日の献立は、カツ丼と、山芋とおくらのサラダ。それにあさりのお吸い物。

あさりはお祖父ちゃんのお客さんが潮干狩りで取ってきたものだ。

栄養満点、精力満点。いや、別に変な意味はないのよ?本当に。

でもお祖父ちゃんが重すぎると言うので、仕方なくお祖父ちゃんのメニューだけ卵とじ丼に変更した。

……私も卵とじの方が良かったかな。脱いだ時にお腹がぽっこりしていたら嫌だな。


夕飯を食べてお喋りをして、うたた寝をしたら、もう夜更けだ。

「夏姉さん。そろそろお風呂に入ってきたら?」

「了解。それじゃ、先に入らせてもらうわね」

よし。今の所は予定通り。

寝室へ向かってお布団を敷く。

夏姉さんがお盆に使う提灯を出したみたいだが、それは隣の部屋へと押し込む。

提灯を一体どうするつもりだったのだろう。にぎやかし?

蝶や彼岸花が壁に舞ったとしても、とてもムードが出るとは思えないんだけど……。

でも灯り全開なんて事も困るので、勉強用のスタンドライトを枕許へ置く。

もっとムードのあるライトがあればいいんだけど、無い物ねだりしても仕方ないわね。


「暑いわね……」

なんだかわたし一人やる気満々みたいで、急に気恥ずかしくなった。


夏姉さんが上がったので、私もお風呂へ入る事にした。

「それじゃあ、行ってきます」

「はい、ごゆっくり」

夏姉さんも気の利いたことは言えないみたいだ。お互い意識し過ぎよね……。


いつもより念入りに身体を磨く。

歯磨き粉は迷った末、いつもと違う物にした。

少し甘い、子供向けみたいな味。気に入ってくれるといいんだけど。

キスする瞬間を考えて、意識が飛ぶ。

――我に返った。はぁ。もう上がろう……。


少し火照りを冷ましてから、下着を着ける。

綾代が見立ててくれた物だ。

黒のシンプルで、セクシーな下着。

さらさらとした手触りで、生地はどうやらシルクっぽい。シルク製品なんて初めて持つけれど、なんだか良いものだ。

ショーツのサイドは、細いリボンで括られている。まさか夏姉さんが脱がせやすいように……などと考えて選んだわけじゃないだろうが、ちょっと大胆かも。

夏姉さんがリボンを解くところを想像してみる。

……また意識があっちへ行くところだったわ。

概ね問題ない。さすが綾代。私の好みから、更に一歩突っ込んだ物を選んでいる。

私ではきっと、大胆過ぎるといって買わなかっただろう。

さて、概ね気に入るという事は、つまり懸念もあるという事だ。

……股上が短すぎる、低すぎる。これではお尻の半分ほどが見えてしまう。

ローライズと呼ぶらしいが、これは恥ずかしすぎる。横紐がいつもより下にあり、なんだか頼りない。

ブラも併せて布地が少ない。普段使うブラに比べたら、半分にも満たない。

こちらもリボンで脱がせ……いやまぁ、ここはいいわ。

とにかく、総括すると、恥ずかしすぎて夏姉さんに見せられない。という事だ。どんな目で見られるか。

はぁ……。全く。

綾代に呪詛を送りながら、覚悟を決める。


下着を身に着け、そのまま浴衣に腕を通す。

下着のことにばかり気を取られて、その上に着る物まで頭が回らなかったのだ。

ついでにパジャマも選んでもらえば良かった……。

でもそんな予算は無いし、現実的じゃなかった気もする。

いつまでも過ぎたことを考えても仕方がない。浴衣も悪くない。これはこれで色っぽいと思う。

きゅっと帯を締めて、気合いを入れる。

よっし。出陣だ!



ノックして自分の部屋へ入る。

「お、おまたせ……」

もじもじと、入り口で馬鹿みたいに突っ立つ私。

「ああうん……」

夏姉さんも緊張してるみたいだ。

これからどうすべきか少し考える。夏姉さんは脱がせたいタイプだろうか……。

少し迷ったが、締めたばかりの帯をするすると解き、裾を落とす。

折角買ったのだからと、下着をこれ見よがしに晒す。

恥ずかしくて夏姉さんの顔を見られない。きっと全身紅潮していることだろう。

夏姉さんが息を呑む。見られてる、見られてる……っ。

――えっと、もうそろそろいいかしら。黙ってないで何か言ってよ……。


「梢ちゃん、こっちへ……」

ようやく声を掛けてくれた。ホッとして、夏姉さんの元へ向かう。

よたよたと、足下がおぼつかない。今にも膝が崩れそう……。

そのまま抱きつくように、夏姉さんの胸へと倒れ込む。

「梢ちゃん」

ゆっくりと押し倒される。そして、顔が近づいてくる。

でも待って。


「夏姉さん。ちょっとストップ」

「えっ?」

夏姉さん、おあずけを喰らったような顔してる。

「その前に何か言うことがあるんじゃない?」

「え?」

「いい?物事には順序があるのよ。私はまだ大事なことを聞いてないんだけど……」

夏姉さんの目をジッと見つめる。

しばらく考え、ようやく合点がいったようだ。

「……えっと、梢ちゃん好き……」

「もう一声」

「……梢ちゃん大好き」

「あとちょっと」

「ううん……梢ちゃん、愛してる!」

「えーい、持ってけドロボー!」

私はバナナの叩き売りか。

でもちゃんと聞いておきたかった。私だって一応、花も恥じらう乙女なのよ。

「私も愛してる!なっちゃん大好きっ!」

首に手を回して、私の方からキスをする。

我慢してたのは私だって同じなのだ。


「んっ……はむっ…んんちゅっ……」

最初はついばむようなキス。でもすぐに深いキスへと変わる。

なっちゃんの舌が私の口腔をまさぐる。なっちゃんの舌気持ちいい……。

上顎のくすぐったい部分に触れられて、鳥肌が立つ。

「んちゅ…ぢゅるっ……んくぅ」

お互いの唾液が行き来する。なっちゃんの唾液おいし。

段々と、頭に靄がかかってきた。キスがこんなに気持ちいいなんて……。

肺活量に自信があるのが徒となった。

鼻で呼吸するまでもなく、浅い呼吸のまま何時までも続くキス。

キスだけで、すっかりとろとろに融かされてしまった。

「ハッ、ハッ、ハッ……はぁッ……ん……はぁ……」

やっとキスから解放され、息をおもいきり吸い込む。

すこし落ち着いてきた。


「あの、なっちゃん」

「なあに?」

「その、恥ずかしいから、電気消して……」

何時消そうかずっと気になっていたので、ここぞとばかりに切り出す。

「あ、その事なんだけど……。実は、今の私は夜目が利くの。だから……」

言いづらそうに答える。

「点いてても消えてても、あまり変わらないというか……」

「えっ!?そ、そんな……」

不意打ちだった。冷や水を浴びせられたように、惚けた頭が一気に覚める。

「な、なっちゃん、そんなのズルい〜〜」

羞恥で涙目になってしまう。

「ええっと……どうする?」

心情的には消したい。いくらあちらからは見えているといっても、やはり心理的なものは大きい。

けれどここへきて、私のなけなしのプライドがむくむくと主張し始めた。

そんな不公平な事ってない。私だってなっちゃん見たい!

「じゃ、じゃあ、このままで……」

「わかったわ」


実のところ、いくら夜闇が見通せるとは言ってもそれはスターライトスコープの様な物で、色を正しく認識出来る程ではない。

やはり光には負けるのだ

だがそんな事を知るはずもなく……。


また口づける。

飽くことなく舌を絡め合う。

ん……なっちゃんが胸を触ってくる。気持ちいい。

そのまま下着の下に手を入れられて……。敏感な部分を指の間に挟んでこねくり回す。

「あっ、なっちゃん……なっちゃぁン……」

私はうわごとの様になっちゃんの名前を呟く。

キスとは違って、電気みたいなモノがビリビリと走った。

「梢ちゃん可愛い。もっと見せて。もっと……」

耳を甘噛みしながら囁かれる。なっちゃんの低い声にぞくぞくする。

耳から首筋そして鎖骨へと、舌が好き勝手に蠢く。その度に私は甘い声を漏らしてしまう。

「うん……みてえ……梢子をもっと見てぇ……」

催眠術にでも掛かったみたい。なっちゃんの言葉は魔法の言葉。なんでも言うことを聞きたくなってしまうの。

自分からリボンを解いて、胸を露わにする。

「梢ちゃんの胸、綺麗……。食べちゃいたい」

「あっ!んっ…!あああっ」

今度は指だけでなく、舌でも苛められてしまう。

赤ちゃんが乳首に吸い付くように、ちゅぱちゅぱとなっちゃんが吸ったり舐めたり、噛んだり……。

両手で鷲掴みにされ、お餅でもこねるように蹂躙される。

「んああっ。……ぅあっ!ひああっ……」

気持ちよくてどうにかなってしまいそう。

なっちゃんの頭を抱いて、荒波を懸命に耐える。

なっちゃんが片手を引きはがして、そのまま指を絡めてくれる。

こんな時でもちゃんと見ていてくれる。嬉しい……。身体の気持ちよさとは、また別の部分が暖かくなった。


なっちゃんの舌が、私の身体を段々と下っていく。

お腹を滑りおへそを舐めて、そして――

恥ずかしい。きっともう濡れてる。

このままなっちゃんの目に晒されるのを覚悟したのに。

なっちゃんがまたキスを求めてきた。勿論イヤなんかじゃない。でも……。

焦らされてるような気分になっていたら、なっちゃんの右手がショーツに触れてきた。んんっ。

どうやら感じる私の顔を見ていたいらしい。なっちゃんの意地悪……。

指が、最初は軽く。そして少しずつ、私の奥へ潜り込むように深く浅くと滑らせてくる。

くちゅくちゅといやらしい音がする。うう、やっぱりもうあんなに……。


ずっと気になっていた事がある。私が目を開けると、なっちゃんとよく目が合うのだ。

なんか……なっちゃんずっと私を見てる?

初めて押し倒された時には恐かった瞳も、今では甘い媚薬にしかならず……

あの赤い瞳で全てを見られているのかと思うと、ぞくぞくしてくる。なっちゃんの目に犯される……。


しばらく指で私を楽しんでいたなっちゃんだったけど

「梢ちゃん、見せて?梢ちゃんの大事なところ……私に見せてちょうだい」

そう言って、ショーツのリボンをするするとほどく。

リボンを片方だけ残すところに、なっちゃんの性癖をみた気がした。なっちゃんいやらしいよぅ。

片方だけが繋がったショーツをゆっくりと降ろしてゆく。

私は恥ずかしさに目を瞑る。

なっちゃんが息を呑むのがわかる。ああ、恥ずかしい。そんなに見ないで……。

う゛う゛、脚を開こうとしてる。

思わず閉じようとするが、そんな事はお構いなしとばかりに、脚と脚との間に身体を入れ、腕で膝を割っていく。

あっ、もうダメ……諦めて力を緩める。そのままぺたんと、限界まで脚が開かれた……。

はぁ……なっちゃんに全て見られてしまった。視線が熱い。

しかしあろう事か、それだけに留まらず、なっちゃんは私のあそこを指で開いた。

「ああイヤっ…。なっちゃん見ないでぇ……ンンぅっ」

見られているのに、とろりと蜜が零れるのが解って恥ずかしい。

これじゃまるで、なっちゃんに見られて感じてるみたいじゃない。


脛、膝裏、そして内腿。まるで焦らすように中心には触れずに、周囲に口づけてゆく。

そして。

「梢ちゃんのここ……かわい。ちゅっ」

「ひゃんっ」

焦らしに焦らされ、遂にそこへ触れてくれた。はしたないけど仕方がない。ずっと触って欲しくて堪らなかったのだ。

それまで焦らしていたのが嘘のようにじゅるじゅると、舌と指で執拗に犯される。

「あっあ!ひゃんっ!う゛あぁっあう゛ぁっ」

腰が勝手にうねる。それまでのものとは段違いの快感に、私は甲高い声で啼いた。

私はまるで、ひとつの楽器だった。なっちゃんはそんな私を思う存分掻き鳴らす。

唐突に快楽が止んだ。

「なっちゃん?」

涙に濡れた目でもっととねだる。

なっちゃんが私の耳元に口を寄せてきた。

「梢ちゃんの純潔が欲しいの。梢ちゃんの純潔……私にちょうだい?」

勿論、答えなんて決まっている。

「うん。いいよ…………梢子の純潔……貰って下さい……」

「ありがとう……」

嬉しそうな笑顔を見せて、またなっちゃんが私のあそこへ顔を寄せる。

一体どうするのだろう。異性との場合は私も知識として持っている。でも女性とする場合は?

なっちゃんは、私の想像を超えていた。

「へ?んひゃぁああっ」

舌が私の中へ潜り込んでくる。舌で処女膜を奪うつもりらしい。

私のあそこへ吸い付くようにして、固く力を入れた舌をずるずると挿入する。

これも鬼の力なのだろうか?人の舌とは思えないくらい深く伸びて、遂に私の純潔を散らした。

「痛っ!」

これが破瓜の痛み……。なっちゃんの舌が傷口をぬぐうように動く。

しかしこれだけでは終わらなかった。私はまだまだ想像が足りていなかったらしい。

なんと、なっちゃんはそのまま啜ってきたのだ。私の分泌した涎と、破瓜の血を飲もうと。

「やっ、うそっ!?そんなのっ」

なっちゃんが血を飲むことは知っていた。

だがまさか破瓜の血を飲むなんて事は、およびもつかなかった。誰もそんな事思わないだろう。

あああ、なっちゃんが私の血を飲んでいる。喉を上下させて、破瓜の血を飲んでいる。

「あっ!あああああなっちゃん!なっちゃん!いっちゃう、私いっちゃうぅう!」

飲まれている。そう思った瞬間に、私は達してしまった。

腰をなっちゃんに押しつけて、びくりびくりと身体をくねらせる。

――なっちゃんはそのまま舌で、飽きるまで凌辱した。


「――はっはっ、ハァハァハァ、ハァ……」

ようやく呼吸が落ち着いてきた。もう……おしまい?

ふと、なっちゃんを見やると、瞳が爛々と輝いている。

「まだ……するの?」

「まだまだこれからよ?朝まで抱いてあげる……」

鬼は、血を飲んで力を回復させるのだ。

なっちゃんズルイ……。

でも私だけ達してしまって、なっちゃんはまだだし。私もなっちゃんを感じさせてあげたい。

「なっちゃんのエッチ。もう、好きにして。……私はなっちゃんのモノだもの」

「私は梢ちゃんのよ?」

ふふふと笑ってまたキスをする。

そうして朝まで、二匹の蛇は絡み合った。



「ん……」

目が覚めた。なんだか身体がだるい。

時計を見ると、もう昼近い。お祖父ちゃんは朝ご飯をどうしただろうか。

自分の身体を見下ろすと、そこには椿の花弁がいたるところに散っていた。

饐えたような臭いもしているし。

昨夜のことを思い出すと、顔から火が出る。比喩でもなんでもなく火が出そうだ。

失禁までしてしまった。お手洗いには事前にしっかり行ったのだが、さすがに朝までとなると保たないわよ。

しょっぱいとか言って舐める人までいるし……。

一晩でずいぶんと開発されてしまった気がする。

なっちゃんは変態だ。あんなの変態に決まってる。でもこのままだと、私まで変態の仲間入りをしてしまいそう……。


隣では私の愛しい人が、のんきな顔で眠っている。

幸せそうな顔しちゃって。

むかついたので、頬をつついてやる。

「ん− んむぅ……」

とっととシャワーでも浴びて身体を綺麗にしたいのだが、なっちゃんが目を覚ますまでは居てあげよう。

こんな身体では、午後の稽古は無理だろう。後で先生と綾代に連絡してずる休みをしなくては。

ずる休みなんて初めての経験だ。あーあ、なっちゃんのせいで不良になっちゃうぞー

私はなっちゃんの頬を飽きもせずつついていた。


「大好きよ、なっちゃん」