297 :縮まる距離、繋がる手1:2008/06/14(土) 20:40:43 ID:ResX7Buv

 梢子ちゃんの家に住むようになってからはや何年。

 日は巡り、季節は廻り、時が経ち、わたしの目線も徐々に高くなった。

 それにともないわたしたちの距離も縮まってゆく。

 「ナミ、行こう」

 名を呼ばれ手を差し伸べられ――

 「はい、梢子ちゃん」

 それに答え、手を繋ぎ合う。繋がった手の先。伝わる熱。見上げると視界に入る梢子ちゃんの笑顔。

 それが最初のわたしたちの距離だったけれど。

 以前は梢子ちゃんの肩にやっと届いていた頭が何時しか梢子ちゃんのそれと近くなった時、手を繋ぐと

 自然と顔も接近し――やがて、わたしたちはほんの少し寄せ合っただけで容易く唇を重ねられる

ことに気づく。

 初めてのキスはそれからほんの少し後の出来事だった。梢子ちゃんの熱い吐息を今も覚えている。

 それからしばらくは啄ばむような軽いキス。それがまた時が過ぎるにつれ、次第に距離を狭めようと

舌先をつつき、絡み合い――

 わたしの背が伸びるにつれ 、わたしたちが繋がるところがより多く、深くなる。

 手から、唇へ――その更なる先もいずれ訪れることになるのだろう。


 そして――わたしは卯奈咲で再会した時のすみちゃんと同じ身長になった。


299 :縮まる距離、繋がる手2:2008/06/14(土) 20:41:58 ID:ResX7Buv

 間もなく冬至を迎えるある日の午後。朝からちらちらと雪が降り、空は暗く翳っていた。

 わたしたちは梢子ちゃんの部屋で窓越しに映る銀世界を見ていた。二人ベッドで腰をおろして外を

眺める。辺り一面が雪に包まれ真っ白になっていた。木々も、家屋も、道路も、全てが。色が抜け

落ちた景色にわたしは自身の姿を重ねる。

 「ナミのように白いわね」梢子ちゃんも同じことを考えていた。

 わたしの手に梢子ちゃんの手が重なる。あんまり白くて見失いそうだから――梢子ちゃんはそう

微笑んだ。

 「少し、寒いです……」

 そう言ってわたしは梢子ちゃんの肩に頭を置く。部屋は暖房が効いてむしろ体温の低いわたしには

心地よい程だけど。肌が白いせいで余計に目立つ紅い顔を隠す何かの口実が欲しかった。

 近づいた拍子に腕が触れ合い、わたしの髪に梢子ちゃんの息がかかる。鼻をくすぐる梢子ちゃんの

香りはわたしと一緒だった。同じお風呂で、同じ石鹸を使っているからそれも当然で。

 見上げると間近にあった梢子ちゃんの瞳とぶつかる。目線は近い。頬の暖かみが今にも伝わりそうで。

 視線をずらすと梢子ちゃんの唇が視界に入った。

 「……」

 梢子ちゃんの唇が近づく。わたしが寄り添ったのが先か、梢子ちゃんがわたしの肩を掴んで引き寄せ

たのが先か、そんなことは些細なことだった。

 唇と唇が触れ合う。柔らかな唇は互いのそれと重なり潰れて一つになる。湿った唇で僅かに隙間が

開いても、その間を熱い吐息が掠める。

 「……んっ…」角度を変えて唇の感触を楽しむ。時々場所を変えたりして――わたしが唇を梢子ちゃ

んの頬へ押し付け、梢子ちゃんの唇がわたしの額に滑ったり――お互いの顔の輪郭をなぞる。

 そしてまた唇同士が近づいて。おずおずと梢子ちゃんの舌がわたしの唇の間に割ってきた。それに

応えるようにわたしも舌で梢子ちゃんの舌を探り当てる。濡れそぼった舌が絡み合う。吐息を送りあい、

零れ出る唾液を飲み込んだ。

 「…ちゅっ……んっくっ……」

 何時の間にか背中に腕を回されて、わたしたちの身体はぴったりとくっつくようになった。感じられる

暖かい体温。どんどん腕に込められた力が強くなり、わたしはそれに押されるように後ずさり。

 「あっ――」視界が反転した。柔らかいベッドのシーツがわたしの背中を受け止める。

 目の前を覆うのは梢子ちゃんの作る影。その隅からちらりと天井が映る。

 梢子ちゃんはわたしから離れると、じっとわたしを見つめた。その表情は何時もと同じ仏頂面。それでも

何時もと違うように感じたのはわたしを射る真剣な眼差し故か、梢子ちゃんの頬を染める赤みのせいか。

 ――ああ。ふっと気づく。今がその時なのだと。

 しばらくは家中に誰もいない。二人以外は。

 「ナミ、その……」

 梢子ちゃんの瞳が揺れる。ここまで来てこの人は。その不器用さがとても愛しくて――

 敢えて言葉には出さず梢子ちゃんの頭を抱き、掻き寄せる。

 二人の隙間が埋まった。


300 :縮まる距離、繋がる手3:2008/06/14(土) 20:42:38 ID:ResX7Buv

 お互いの衣服を取り去り向かい合って横たわる。目の前には生まれたままの梢子ちゃんの姿。毎日

鍛錬を怠らない身体はとてもしなやかだった。くびれた腰。豊かな膨らみ。少しずるい。わたしも成長

してきたつもりだったのに。

 そういえばもうお風呂を一緒にすること自体も稀で、裸を曝すのが久しぶりだった。

 思い至った途端に居心地が悪く、とても恥ずかしくなりわたしを腕を回して胸元を隠そうとするも。

 それよりも早く梢子ちゃんの手のひらがわたしの胸を包みこんだ。

 「あっ…」

 「やっぱり背だけ伸びたわけじゃないのよね」

 「そ、そんなこと…!」

 抗議の声をあげる。大体わたしの下着を始めて見繕ってくれたのは梢子ちゃんのはずではないか。

梢子ちゃんはごめん、と囁いて手のひらの中でわたしの胸を円状に回した。

 「やっ……」

 梢子ちゃんの手によってわたしの胸は形を変える。少しぎこちない動き。敏感な先端が梢子ちゃんの

指の間に挟まって段々と硬くなっていくのを自覚する。

 胸を愛撫しながら梢子ちゃんの唇ともう片方の手は絶えずわたしの身体中を辿った。

 唇は耳たぶを甘噛みし、首筋に舌を這わす。手のひらで包まれていないもう片方の胸へたどり着いた時、

舌で突起を転がされ、甘噛みされた。突起の周りの輪にも舌のぬめりを残される。

 指はどんどん下降していき――脇腹、臍の穴、そして下腹へと。流れにそって下っていった。

 「はっ……ん…ふっ」

 迫ってくる快感。唇を結んでも漏れる声を止めることが出来ない。

 下腹の甘い痺れがわたしをくすぐる。わたしの肌に吹き込まれる梢子ちゃんの息はとても熱かった。


301 :縮まる距離、繋がる手:2008/06/14(土) 20:43:01 ID:ResX7Buv

 何時しか梢子ちゃんの指はわたしの脚の間へと伸ばされ、わたしの入り口に宛がわれる。

 「あっ――」思わず緊張で身体が硬くなってしまった。

 「力、抜いて」

 「は、はい……」返事とは裏腹にわたしは知らず知らず脚を閉じてゆく。こんなはずはないのに……

言うことを聞かない身体にわたしは焦る。

 すると、すっと梢子ちゃんの指が離れ、わたしの膝に手を添え宥めるように摩る。視線を移すと、

その先にいた梢子ちゃんは眉を八の字にしていた。

 「まだ怖いなら止めるわ」

 「でも……」

 「今まで待てたもの。これからだって」そう言って微笑む。

 「梢子ちゃん……」

 決定権はわたしにある。正直とても怖い。恥ずかしい。中止という選択があることに安堵を覚えている自分もいる。

 それでも、それでも――

 不安なのはわたしだけじゃない。わたしの膝に置かれた梢子ちゃんの指も微かに震えていた。

 梢子ちゃんも初めてで、わたしが拒絶することを恐れていながらも、それでも距離を埋めようとしてく

ている。わたしが受け入れられるまでずっと待ってくれていた。

 込み上げてくる様々な感情を堪えてわたしはゆっくりと脚を開く。

 「大丈夫、です」

 この日を待ち望んでいたのは梢子ちゃんだけじゃない。

 「その代わり、手を……」

 返事はなく、代わりに梢子ちゃんの右手がわたしの左手と重なり合った。伝わる人の肌の温もり。

今更ながらそこが鋭利な刃となってわたしが傷つけたりしないことに気づく。

 梢子ちゃんの熱でわたしの緊張の残滓は溶け落ちた。


302 :縮まる距離、繋がる手5(うおお前番号入れ忘れた):2008/06/14(土) 20:44:02 ID:ResX7Buv

 再び梢子ちゃんの指はわたしの入り口へ。耐えようとしたはずなのに思わず身体がぴくりと跳ねる。

 「な、なんでもないです」

 躊躇うように一瞬止まった手に言葉をかけると、また動き出す。

 そっと差し入れられる指。わたしから零れる液のせいでそれは濡れていた。

 細く硬い梢子ちゃんの指がわたしの中へと徐々に沈んでゆく。痛みは無い、けれど。深まるごとに

わたしの内から息が詰まるような何かが込み上げて来る。慣れない異物感への戸惑いか。忘れていた

恐怖心か。昇ってくる悦びか。判然とつかない疑問が――

 「全部入ったみたい……」

 その一言で氷解する。答えは涙という証になりわたしの頬から流れ落ちた。

 「ナミ、痛かったの?」

 「違います、違います」

 梢子ちゃんの気遣う声にただただ首を振って否定する。

 「嬉しくて」

 広がるのは解放感だった。長い不安と心細さへの。たったの指一本。それでも、ようやく受け入れるこ

とが出来た。わたしの身体はやっと梢子ちゃんとすみちゃんに追いつけることが出来たのだ。

 もう成人となった梢子ちゃんとの時の開きを閉じることは叶わなくても、身体の距離はどこまでも。

 「私も、嬉しいわ」共に待ち続けくれた梢子ちゃんが笑いかけてくれる。

 わたしたちは確かめるように更に身体を押し付け寄り添って距離を縮める。絡めあった手に力を込めて、

唇を重ねて、一つとなる。

 膨らみ同士が接するようになり柔らかい感触の中で主張する硬い突起の存在を感じ取るに続いて

梢子ちゃんの鼓動が聞こえてきた。とくんとくんとした心臓の音はわたしからも鳴り響きもう誰のものな

のかもわからなくなる。

 梢子ちゃんの指がわたしの中で大きく円を描く。そしてわたしの奥から掴んだ快感を掬い取っては

手繰り寄せて――液と冬の冷気を伴って押してくるのを繰り返す。指の数も一から二へとなり、段々と

激しくなる。

  「……っ!」声はもう出ない。吐息すら梢子ちゃんが呑みこんでいるから。

 代わりにわたしも片手を動かして梢子ちゃんの身体へ伝える。感謝を、悦びを、愛を。

 うなじに、背中に、臀部に線を引くと梢子ちゃんが震えた。わたしも梢子ちゃんに中を掻き乱されて、

時々敏感な部分を刺激されて震える。震えは波となり、わたしたちはその中をたゆたう。離れないよう、

きつくきつく手を握って。

 わたしの全身が、思考が一点の隙間もなく梢子ちゃんで満たされる。

 梢子ちゃん、梢子ちゃん、梢子ちゃん……


 ナミ――


 白く広がる闇の奥から聞こえる梢子ちゃんの声。

 落ちゆく意識の中、最後に感じたのは繋がった手の温もりだった。


303 :縮まる距離、繋がる手ラスト:2008/06/14(土) 20:44:43 ID:ResX7Buv

 汗ばんだ身体を湯で流し、湿りの残る髪がちょうど乾いた時に玄関の扉が開く音が聞こえた。

 「ただいま」夏夜さんの声だ。

 「間の悪い私にしてはいいタイミングね」

 梢子ちゃんと笑顔を交わせて夏夜さんを迎えに行く。

 「おかえり、夏姉さん」「おかえりなさい」

 「ただいま、梢ちゃん、ナミちゃん」

 夏夜さんはまだまだ若くて綺麗だけど、数年前に比べると年齢の重なりを感じさせた。鬼の身で

あっても夏夜さんも同じ時の流れに身を置いているのだ。

 「夏姉さん、お腹空いたでしょ。何か食べたいものある?」

 「そうね、こんなに寒い日だから暖かいものが食べたいわ」

 「シチューはどうでしょう?」

 「あら、素敵」

 それでは今から用意しようと台所へ向かおうとして――冷蔵庫の中身を思い出す。

 「牛乳がありませんでした」具はあり合わせで何とかなるけれど。

 「それじゃあ、しょうがないわね」

 残念そうな梢子ちゃんと夏夜さん。雪が降る真冬にシチューほど相応しいものはない。それを差し置いて

他のもので手を打つのも忍びなく。

 「今から買ってきます」

 「私も行くわ」と梢子ちゃん。一人で充分なのに。それでも一緒に歩きたくてついつい甘えてしまう。

 コートを着込み、靴を履いていると心配そうに夏夜さんが声をかけた。

 「二人とも大丈夫?道が滑って危ないわよ。車に気をつけてね」

 「もう、夏姉さんったら。子供じゃないんだから」

 苦笑する梢子ちゃん。今まで何度もあったやり取りだ。何時ものように『だって……』と答えるかと思うと。

 「そうね、もう二人とも大人だものね」予想と違い、夏夜さんはしみじみとした口調で呟く。

 思わず行為に気づいたのかと梢子ちゃんと揃って身体を竦ませるも――夏夜さんは再び元の調子で

話しかけた。

 「でもやっぱり心配。知らない人についていっちゃ駄目よ」

 「はいはい」ほっと胸を撫で下ろす。


 ――日は巡り、季節は廻り、時が経ち、わたしたちは変わってゆく。

 高くなった目線。縮まる距離。わたしたちを取り囲む環境もいずれ移ろうことだろうけど。

 それでも変わらないものがあるとするならば。

 「ナミ、行こう」名を呼ばれ手を差し伸べられ――

 「はい、梢子ちゃん」

 それに答えて、手を繋いだ。