汀と再開した剣道全国大会からはや数ヶ月、季節は夏。

 彼女と連絡を取り合うようになった私、小山内梢子は午前中の部活を終えて家に帰るためにショッピングモールを歩いていた。

土曜日の午後というだけあって多くの人が休日を楽しもうと思い思いに行きかいちょっと騒がしい。

 人が多いのは少し苦手だ。

早く帰ってシャワーでも浴びよう。

と、そんな事を考えているとふと目に付いたものがあった。

普段なら気にも留めないだろういかにも高級そうなブランドものの店なのだけれど、ウィンドウに展示されている一組の黒い服が私の心を掴んでいた。


「なっちゃん…。」


ウィンドウの前でひたと足をとめて呟く

あの夏の合宿で会ったなっちゃんが着ていた黒のスーツ、細部までを憶えているわけじゃないけれど、

襟のラインや全体のシルエットが似ていて私の目を引くくらいにはそれで十分だった。


私は夏姉さんを都合二度失くした。

一度目は記憶の曖昧な幼少の頃に

そして二度目は記憶に新しい一年前に

どちらも私の目の前で


「汀…。」


何故かは分からないけど自分でも不思議と彼女の名前が口から出ていた。


喜屋武汀


夏の合宿で初対面のわたしに あいそわるっ と言い放って出会い

今では連絡を取り合うまでになった彼女

あれから一年連絡のとれない日が続いたけれど

それでも全国大会で会いにきてくれた彼女

夏姉さんを切った、喜屋武汀

鬼切りの仕事をしているというどこか掴み所の無い、そんな汀

そんな汀のことを…、私は




ぶぃぃぃぃぃぃぃぃぃ




突然の携帯の振動にはっとして、私は慌てて鞄から携帯を取り出す。

液晶の表示ディスプレイには喜屋武汀の文字

さっきまで夏姉さんのことで汀に気をやっていたその複雑な胸中のまま人気の少ない路地に入って通話ボタンを押した。

 

「もしもし、汀?」


ちょっと声が沈んでいたかもしれない


 「…っ。。。」

「汀?」


電話越しに汀が息を呑む様子が伝わってきて、私は少し違和感を覚える。

いつもの汀ならきっと矢継ぎ早に話をしてくるはずなのに…

どうしたんだろう?電話口からはいつもの汀の声は聞こえてこない。

 「汀?聞こえる?」

なかなか話しかけてこず、いつもと違う様子に戸惑って不安感の出てきた私は汀の声が聞きたくて声をあげる。

 「汀?」

 「あっ、オサ…。」

そうするとしばらくして今度はちゃんと汀の声が聞けたので、私はほっと胸をなでおろす。

 「汀、さっきは声が聞き取りづらかったけどどうかしたの?」

 「えっ、あ、あぁ、ちょっと今駅にいて。それよりオサは今日これから時間ある?」

そう応える声にはいつもの汀の快活らしさは無く、心なしかどこか遠慮を含んでいるように感じられた。

ほんとに今日はどうしたんだろう?

 そう疑問に思いながらも今日のところは予定はもう無かったので

 「私?部活も終わったし今日は大丈夫よ。」

と、そう応えていた。

「よかった。それじゃあオサ、駅まで迎えに来てくれない?」

 「迎え?私が?誰を?」

 「オサが私を。」

返事をもらってから段々と普段通りの雰囲気になってきている汀に疑問を感じながらも、まずはこちらの疑問を尋ねることにした。

 「汀をって、もしかして汀こっちに来てるの?」

 「そうそう、だからオサが迎えに来てよ。あたし道とか迷いそうだし。」

何回か遊びに来てるじゃない、と言いたくなったのだけれど汀の連絡はいつも突拍子もないので

 「いいけどね、汀が突然なのはいつもの事だし。すぐ行くからちょっと待ってて。」

と心持ちが嬉しくなるのを感じつつも、なるべく早くお願いねーという汀の声を聞きながら、それを悟られたくなくていつもの調子で返事を返したのだった。

汀に会うなら一度家に帰ってシャワーを浴びてからにしたいのだけれど、それでは時間がかかり過ぎるだろうし何よりすぐ行くといった手前すぐ行きたい。

そんな見栄と意地を天秤にかけながらも、どうせ汀は家に泊まることになるのだからと、私はその足を駅のほうへ向けて歩き出したのだった。



「……。」


あたしはついさっき切れた携帯のディスプレイを見つめていた

視線の先の足元にはこっちに来るときにぞんざいに荷物を放り入れたドラム缶バッグがある。

画面には通話、2分43秒、小山内梢子の文字

鬼切りの仕事で連絡先を幾度となく変えるあたしが何度携帯自体を変えようと必ず登録する唯一の名前。


「小山内梢子…オサ。」


何とはなしにその名前を口の端にのせてみる

呼ぶと口にした言葉が霞んでどこかへ消えてしまいそうでちょっと怖い。

実際はそんなことないのよねーと分かってはいても気分的にはそうだったんだから仕方ない

堅物なのにあれでいて可愛い所のあるオサならきっと分かってくれるだろう。

そんなことを呟きながらあたしは駅のコンコースで壁にもたれかかり


「オサ、早く来てよ。」


とずるずると座り込み膝を抱えながら小さく消入るように呟いていた。




汀はどこに?

駅まで歩いていた私は目的の姿を探そうときょろきょろする。

汀くらい容姿が目立つのならすぐに見つかるだろうと高をくくっていたのだけれどどうもそうはいかないらしい。

時間としてはさっきの電話から30分とたっていないので、汀が痺れを切らして他の場所へ行ったりだとかはないように思う。

携帯に連絡してみようかとも考えたけれどやっぱり自分で汀を見つけ出したくてそうはしないことにした。

「駅周りの外にいないとすると、きっと中ね。」

おそらくコンコースあたりにでもいるのだろう。

私は今いた場所を離れて足早に汀がいるであろう場所へ向かった。


それにしても汀が来るときの最寄り駅であるこの駅は大きい。

今日は休日ともあって人が多いはずなんだけれど、歩きづらさを感じるほどにはなっていないのがいい証拠だろう。

そう考えながらとつとつと歩いて私は目的地であるコンコースへ来ていた。

「さて汀は。」

駅の外にいたときと同じようにきょろきょろと汀を探す。

まばらに人が居てすこし見えにくい、それでも大体の周りを見回すと汀らしい姿を目に映すことが出来た。


「…みぎ、わ?」


一瞬私は息を呑む。

 その姿を見て私の口からふいに出た言葉には明らかに動揺の色が混ざっていた。

目にしたそこには膝を抱えてうつむいている汀がいて、彼女の背には私の家に来るときによく使っているドラム缶バッグが置いてある。

傍から見れば多分疲れて待ち合わせの途中で寝てしまった風にも見えるのだろうけど、

汀の目の前を行きかう人が誰もその様子を気にかけずに通り過ぎていく光景を見て

その中で膝を抱える汀がどうしてか弱々しく今にも消えてしまいそうな位に私には映ってしまって……

たった一瞬頭をよぎったそれだけの汀の姿に顔を歪ませる程に泣きそうな気持ちを感じた私は、気付いたときには汀の傍へと駆け出していた。


汀、汀っ


急に走り出した私の事をみて不審な視線を向けてくる人もいたけれど、

今まで汀の様子に見向きもしなかったその人たちにちりちりと焼ける様な不快感を覚えて、

そんなこと知るものか、あっちへ行け、私と汀の間にこれ以上入ってくるな、と駆けながら心の中で毒を吐いていた。

「汀、私、梢子、迎えに来たわよ。聞こえる?」

普段からは考えられない汀のその姿に負担をかける様な事はしたくなかったので、

 感情のままに肩を揺さぶることはせず背と肩にそっと手を添え、私は制服が汚れることも気にせず膝立ちで汀に問いかける。

いくら汀の髪が短いからと言ってもうつむいてしまっている今はその表情を窺がうことが出来ない。

見えない、分からないというそのことが私の不安を否応も無く掻きたてる。

声を聞かせてよ、汀……

「あっ…、オサ、よかった。」

そう応えた汀の表情に私は全身が総毛立つような感情の揺れを感じた。

汀が泣き顔にも似た表情で笑っている。

汀が見せたその初めての表情、一体どうしたらこんな風に笑うことが出来るのか、

 今までの汀にも、他の誰からも見たことが無い表情、

 余りに無防備な汀のその顔に、今までに無い彼女の大切な部分の端に触れられた気がして、私は早なる心臓の鼓動を抑えることが出来ない。


「みぎわ…。」


そんな様子に私は何を言って良いのか分からなくなって、汀の名前をただ口から漏らす。

不謹慎にも初めて見た汀の表情に静かな興奮を感じていたのかもしれない。

そんな考えに耽っていると袖をくいっと引っ張られる感覚があったので、そこに目をやると汀の手が私の服を掴んでいて


「オサん家、行きたい。」


と言われて

汀の口から出たその言葉に今の私は逆らえなかった。


汀のことを考えて家まではタクシーを使うことにした。

今私の横には汀が座っていてタクシーの振動に揺られるようにして所在なさげにしている。

タクシーの窓から外をみやればいつも通りの変わらない風景が軒を連ねていた。

人もその町並みも全てがいつも通りで、ただ動きにそってゆっくりと流れていく。

そんな様子を窓から見ていると汀と私のいるこのタクシーの中だけがまるで取り残されてしまったかのような錯覚を覚える。

それと同時に汀が急にぽふっと肩に頭をあずけてくる感触があったので、

 その頭をこわれものを触るようにクシャっと撫でてから、汀の身体をよりかからせるようにしてこちらに引き寄せた。

汀も抵抗せずに私に身体をあずけてくれる。

そうやって私の為すがままになっている汀の様子に、ひどく弱ってしまった人の刹那的とも言える儚さを感じてしまって、

 このまま汀が居なくなってしまったらどうしよう、という胸の奥から締め付けられるような感情の揺れを覚えさせられたのだった。


汀から携帯に連絡がかかって来た時から様子のおかしさは感じていたけれど、

 駅からの汀の様子を考えるとそんな事を今聞く事も出来ず、早く汀を休ませたくてきゅっと汀を抱く腕に力を込める。

早く着け、早く着けと祈りながら。




「2740円になります。」

汀に肩を貸したまま私は料金を支払った。

「3000円お預かりの、260円のお釣りね。」

言われるままにそのお金を受け取って私は汀を促すようにして車外へ出る。

まだ夏というだけあってやっぱり暑い、うだるような暑さだ。

そんな暑さから逃れるようにドアを閉めようとすると

「君たち姉妹?具合悪そうだし今日は暑いから気を付けなよ。」

という声を運転手にかけられて、姉妹と言われた事に微かに違和感を覚えた。

汀と私が姉妹?いいや違う、汀と私は姉妹じゃなくて、そう、汀と私は、私と汀は、汀は私の……


「私の、彼女です。ありがとうございました。」


と言って私たちはバタンとドアを閉めたのだった。




部屋に入って汀をベッドに横にしたところで私は一声汀にかけた。

「汀、私ちょっとシャワー浴びてくるから。一人で大丈夫よね?」

ほんとは傍に居たかったけれど汀も少しは一人でいる時間が欲しいだろう。そう思って

「あ、うん…。」

という声を聞いた私はそっと部屋を後にしたのだった。




ぱたんと閉じたドアをオサのベッドの上で横になりながらあたしはぼーっと見つめていた。

何回か来たことある部屋だけど、どうしてかあたしはここが一番落ち着く。

多分オサがいるからだと思う。

鬼切りの仕事が終わっても私は守天の実家よりもここへ戻って来たい。


突然来ちゃったけどちゃんと迎えに来てくれたオサ

タクシーでちょっと格好よかったオサ

あたしを目標にしているという女の子


あたしなんてほんとはそんなにいい女じゃないのに、ばかよね

と自嘲の呟きをもらしながらも、オサから向けられる好意は心地よくて、その想いを離したくなくて、独占したくて……

それでももしかしたらオサに心のどこかで恨まれているんじゃないかと考えると怖くて……


でも

好き、なんだと思う

私はオサが好き、多分誰より

だからかな、オサに嫌われてたらって考えるとすごく怖い

だってあたしは剣鬼を……


とそこまで考えてその先を考えたく無かったあたしはオサのベッドの枕に顔をうずめてぽつっと呟き目を閉じた。


「はやく戻って来い、オサ。」




ちかちかと目に眩しいものを感じてあたしは目を覚ます。

起き上がって手で光を遮りながら外に目を向けるとぼんやり夕日が傾いているのが分かった。

「寝てたのかあたし。」

そう言いつつ窓に視線を落としていると

「2時間位ね。気分は持ち直した?」

と横合いから声が聞こえてきてびっくりした。

「オ、オサ。いつからそこに?」

「シャワーを浴びてからずっとね。気分はどう?」

「あっ、うん、大丈夫。」

いつもの様にぶっきらぼうな話し方でも、言葉の端々からあたしのことを気遣ってくれているのが寝起きの頭でも分かって、それがちょっと嬉しい。

「そう?それなら良いけど、今日はどうしたの汀?」

答えにくい質問にちょっと声がつまった

「っっ。えっと、オサん家にちょっと遊びに。」

あたしが苦し紛れにそう言うと

ギシっという音がしてオサがベッドにあがって来た

「様子もおかしかったし、そんな訳ないでしょ。」

そう言うとオサはあたしをしなやかに押し倒してきて肩口に両手をついていた。

見下ろされるような体勢になったあたしはオサにじっと見つめられている。

オサのこちらを気遣うようであっても、問いただそうとしてくるまっすぐな瞳にあたしは目を合わせられず、伏し目がちにして視線をふっとそらした。

するとオサは


「私を見なさい、汀。」


と言ってあたしの頬に手を添えてくっと正面を向かせてきた。

「オサってばけっこう強引なのね。」

「何があったの?」

からかいの言葉にも動じてくれない

「オサ…。」


「吐け、全て。」


「…。」

そんなオサとの根比べに負けてあたしは観念したように恐る恐る口を開いた。


「話しても、オサはあたしのこと嫌いにならない?ふむっ…。」


不意打ちだった。

あたしが喋った途端にオサが唇を重ねてきた。

普段はしてくれないオサからされたという事実にあたしの鼓動が高鳴る。

「話す気になった?」

今日はオサに頭が上がりそうにないことが分かったけど、それをオサに知られたくなくてあたしは形だけはちょっと拗ねた態度を取る事にした。

「顔見ながらだと恥ずかしい。」

ぷいっとそっぽを向いて言ったけど、さっきのキスできっと耳まで真っ赤になっているだろうから、オサにはきっとばればれだろう。

「しょうがないわね。」

ぱふっと顔に柔らかい感触を感じるとオサの胸に抱きすくめられていた。

「これなら話せるでしょ。ね?」

「う、はい…。」

こんなに優しい声でこんなに優しくされたらあたしにはもうどうしようもない。

掠れて震えそうになる声をさっきのオサの優しさを拠り所にして何とか紡ぎだす。

「オサはさあたしが鬼切りの仕事してるのって知ってるでしょ。そういう事してると切った鬼の関係者からけっこう恨まれる訳だ。」

大丈夫、声は震えていない。

いつも通りのミギーさんだ。


「そう。」

「前は割り切ってて全然そういうの平気だったんだけどさ、この前の仕事でずっとこのままなのかなぁとか考えちゃって。」

「そう。」

「あたしってばオサと会った合宿で剣鬼を…、その切った、訳じゃない?

  それでいつも怨嗟の声を上げてくる人たちがもしオサだったらって考えて…、それで、それでっ。」

あれ?あたし泣いてる?何で。いつも通りにしようとしてるのに。

「うん。」

「っっ、、、それでっ、それでオサにも嫌われてたらっ、どうしようって、思ってっ…。」

「うん。」

「あたしオサに嫌われたくなくて、考えたらっ、足元無くなったみたいに怖くなって、それでっ、それでっ、いてもたってもいられなくなってっ。」

「それで来たの?」

「オサの顔っ、ふっ、見たくなって、携帯だけじゃ嫌でっ、でも怖くてっ。もしっ、どうしようって。。」

オサの服にしがみつく自分の手が震えているのが分かる。

もう泣いている事なんてオサには気付かれてしまっているだろう。

それでも見ないフリをして話を聞いてくれるオサが好き、だいすき。

「そう。頑張ったね。汀。」

そう言ってさらにぎゅっと頭を抱きしめてくれたオサにあたしはもう我慢出来なくなった。

「うあ、うあぁ、おさ、おさぁ、ごめっ、ごめん、嫌わないで、おさぁっ。」

オサに話して何が何だか分からなくなってしまったあたしは、よりいっそう深くオサの胸にうずくまって涙が枯れるまで泣きはらすのを止められなかった。






「うー、恥ずかしい。」

ベッドの上でオサと二人一緒に横になっているままに呟く。

「そう?私に縋ってる汀は可愛かったわよ。」

「オサの意地悪。」

「汀って、可愛いわね。」

「んっ、んぅ、んむぅ。」

また、キス。

ずるい、これじゃあオサに文句なんて言えないじゃない。

「ねぇオサ、聞いてもいい?」

「何よ?」

「あたしの事、恨んでる?」


なっちゃんを切った鬼切りの汀

恨んでいるかどうかは自分でも分からないけれど

なっちゃんを切ったのが汀だという事実はまだ私の中でわだかまっている気がした

でも、私はさっきの汀を知った

汀が何を考えているのかを知った

だから……

ごめんねなっちゃん、私は汀が好きです。

嫌われるかもしれないって考えるだけで私に会いに来て、あんなに弱々しくなって取り乱す汀が好きです。

そんな汀を私は好きになりたい。

今私の傍にいる汀を大事にしたい。


「恨んでる、って言ったら汀はどうするの?」

私がそう言った途端にびくっと震える汀。

ごめんね意地悪な事を言って、でもこんな事を言うのはこれが最後だから。

「それは、えっと…。」

すっかり怖がっている汀に心の中でごめんと謝って、彼女の頭を抱えて額をつき合わせる。

「嘘。好きよ、汀。」

「あっ、うあ、うあぁ、オサぁ。」

顔を歪めて泣く汀が愛しい。

「汀このままえっちしてもいい?」

「うん、うん、いいよ、おさ、おさぁ。」

「ありがと。」

言って私は汀の首筋にそって唇を這わせる。

「ふっ、あぁ。」

ふふ、可愛い

「気持ち良い?汀?」

「うんっ、うんっ。」

キスで喘ぐ汀の声をもっと聞きたくて、彼女の身体を舐めるようになぞってショーツの中に手を入れてさすった。

「んっ、ゃ、あぁっ。」

思ったとうりに喘ぐ汀の脳をくすぐるような声に私も興奮を隠せない。

汀の声が頭に響いて汀のことしか考えられなくなる。

「ふぁっ、ぁ、おさ、おさぁっ。」

汀の背中にまわされた手が私にもっとと言うように強く抱き寄せてくる。

その行為が汀の欲情に直に触れられたような気がして濡らしてしまう。

汀が私を欲しがっている

それを考えただけでたまらない。

「汀、私のも触って。」

そうすると汀の方から私の性器に手を伸ばして触れてきてくれる。

私も随分と興奮していたのか触れられただけでイキそうになるくらい感じていた。

「汀っ、みぎわっ、好き、んっ、んぅ。」

汀の唇に自分の唇を押し付けて舌を絡め合わせる

汀からも積極的に舌を絡めてきてお互いの体液を交換する。

「おさ、おさっ、あたしもういくっ、いくっ。」

「私もっ、もう、すぐっ。」

汀のその声を聞いて私はクリトリスへ最後の刺激を与える。

汀が太股を閉じて、手にきゅうきゅう吸い付いてくるのを感じるのと

汀の手が私と同じような動きをして、私がじんわりとした快感を身体の中に広がるのを感じたのはほぼ同時だった。



「はぁっ、はぁっ、オサずるい。」

行為の終わった荒い息のままで汀はそんな事を言って来た。

「どうしたのよ汀?」

いろいろと疲れた私は眠気を感じながら答える。

「オサはシャワー浴びてたけど、私は寝汗とか掻いてからシャワー浴びてないわよ。

なんかそういうのってずるい、というかあたしが恥ずかしい。」

「気にはならなかったわよ。」

睡魔の誘惑に瞼が下がり始めるのを自覚して汀にそう言う。

今日は汀に甘えていなかったので汀の首に手をまわして甘える体勢を作ろうとする。

「オサがそう思ってもあたしの気持ちの問題。

 その、オサとする時は身体は綺麗にしておきたいし。って、うわぁ、オサ!!?」

意識が落ちていく中で汀の素っ頓狂な声が聞こえる。

何だかそれがとても心地よかった。

「私もう眠いから寝るわ。汀も……、そうでしょ。」

そう言いながら私は眠りについた。

今日は疲れた。

今は汀に甘えさせて貰おう。

恋人なんだからそれくらいは許される筈だ。

「好きよ汀、んむ。」

「っっ。…やっぱりオサってずるい。」

でも今日くらいはいいかと思い

あたしは自分の短い髪をかきあげてオサの頬にキスをしたのだった。



エピローグ


メール着信のバイブが鳴ってあたし喜屋武汀は目を覚ます。

隣にはあたしのことを彼女だと言ってくれた小山内梢子がまだ寝ている。

よかった、起こしてはしまわなかったみたいね。

安堵した私はかしゅっと携帯をスライドさせてメールを確認する。

「鬼切りの仕事か…。」

党からの命令であるなら行かなければならないので、そっとオサの腕の中から抜け、服を着替えて出発する準備をする。

いざ出発という時になって、持ってきた荷物をどうするか逡巡してすぐに決断を下した。


「それじゃオサ、いってきます。」


とオサの額の髪をかきあげておでこにキスしてからオサの部屋を出た。



私は汀が出て行ったドアをぼーっと見つめている。


「ばか。起きてるわよ。」


言うやいなや私はメールをカコカコと打って送信ボタンを押した。

送信完了の表示を確認して私は枕に顔をうずめてまた一言


「ほんと、ばかなんだから。」



   早く帰ってきなさいよ。



開けっ放しの窓からは淡い月の光が差し込んでいて


 部屋の隅には見慣れた汀の黒いドラム缶バッグが置いてあった。




fin