「やっ遊びに来たよーオサ」

「・・・汀っ!?」


それは大会が終わった日の晩のこと。

私たちは会場の近くに取っていたホテルにもう一泊してから、明日の昼頃ここを発つことになっていた。

だいたいの学校は会場近辺に宿を取っていて、それは汀の所も例外ではなく。

一応互いの宿泊先を教え合ったりしたのだけれど、まさかこんなに早く来るなんて。

シャワーを浴びたばかりの私は髪を乾かすこともせず、だらしなくベッドに横たわっているところだった。


「ノックぐらいしなさい!」

「なに、オサお風呂入ってたの?うあー失敗した!もうちょっと早く来るんだったなー」

「不吉な予感しかしないわね・・・」


汀はへらへらと笑いながら、何の断りもなく向かいのベッドに腰掛けた。

それがいかにも彼女らしくて、思わず頬が緩みそうになるけれど、しかし先刻の試合のことをまだ

完全に整理しきれていない私は、素直に笑いかけることができなかった。

せめて「来てくれてありがとう」くらいは言っておくべきなのだろうけど。


「学校の子達と祝勝会とかするんでしょ?主役がこんな所にいていいわけ?」

口を突いたのはそんな言葉。それも、思っていた以上に硬質で無愛想な声で。

「オサんとこはどうなの?同室の子とかいないみたいけど」

「私たちはこれからよ。皆別の部屋に集まってるわ」

ただし青女は祝勝会ではなく打ち上げだけど―――と言いかけ、なんとか思い止まった。

違う。私が言いたいのは、こんなことじゃない。


「まさかこっちに交ざるつもりじゃないでしょうね?」

「それもいいけどさ、鬼部長がいたんじゃあアルコールなんて出なさそうだしー」

「当たり前でしょう」

実際、百子が持ち込もうとしていたのを阻止済みだったりして。

「ていうか、いやいや、あたしだってその辺の空気くらい読めるって。昨日の敵は今日の友とか言うけど、

大会があったのはまだ今日のことだし?あたしは優勝かっさらっていった悪役なわけだし?」

肩をすくめ、冗談めかしてそう言う汀は本当に一年前と変わらない。

「どちらかといえば、昨日の友は今日の敵――の方でしょ」

一年前を昨日とするには、いささか遠すぎるとは思うのだけれど。

それでも、あまりにも相変わらずで余裕綽々な汀の態度を見ていると、あの合宿が昨日のことのように思えてしまう。


それでは、駄目なのに。

あの時と同じにならないために、私はこの一年努力してきた。

汀に追いつき、隣に立つことばかり考えて竹刀を振ってきた。

次に会ったときには驚かせてやろう、目に物見せてやろうと。

・・・なのに結局驚かされたのは私の方で、負かされたのも私だった。

悔しいし、腹が立つし、顔を合わせたくなくて、でもこうして会いに来てくれたのが嬉しくて―――

どんな顔をすればいいのか分からないほど複雑な私の心境を、汀は全く分かっていないのだ。


「オサ。おーさー」

「・・・・・・」

「ねぇオサってばー」

「・・・・・・・・・」

「・・・うりゃっ」

返事をしない私に業を煮やしたのか、汀がいきなり抱きついてきた。

覚悟していなかった彼女の感触に、私の心臓が大きく跳ねる。


「オサ、こわい顔してる」

そりゃしかめっ面にもなるだろう。

「オサ、怒ってる?」

それが分からないから汀は馬鹿なんだ。

「オサ、あたしの目を見てよ」

言われて初めて、私はその事実に気が付いた。

そうだ、汀がこの部屋に来てから、私はまだ一度も彼女の目を見ていない。

その理由は何となく分かっていたけれど、指摘されて尚目を逸らし続けることはできなくて――私はのろのろと顔を上げた。


そこにあったのは、思いがけない汀の真顔。

いたずらっ子のように細められた目も、いじわるく上げられた口角もなく、蛇でも邪でもない真摯な視線に

私の体は動かなくなってしまった。


「ちゃんと言ってくれないと、なんにも伝わんないわよ」

「わ、私・・・私は・・・」

言いたいことは山ほどあったはずだ。

繋がらない携帯を握り締め、空に放った言葉があったはずだ。


「汀が・・・悪いんだから・・・」

声が、震える。

「勝手に番号変えるし・・・連絡、くれないし・・・っ」

止まれ、止まれ。汀に弱いところなんか見せられないんだ。

「写真も何も、汀のいた証拠も・・・何も・・・」

物理的なものは何もなく、あるのはこの胸に抱きしめた思い出だけで。

それすら嘘だったのではないかと、時折、揺らぎそうになって。


落ち着こうと大きく息を吸った私の頭を、汀が優しく撫でた。

「うん、ごめん」

―――だめだ、視界が、歪む。

「・・・なのにいきなり現れて、にやにや笑って、相変わらずの口八丁手八丁・・・」

「んー、ごめん」

「それなのに私より――強くて」

「あ、それは仕方ない」

あたしにだって譲れないところがある、と汀は口の端を歪めてみせる。

「うるさい馬鹿。私は・・・汀が忘れちゃったんじゃないかって」

「オサ」


間近にあった汀の顔がさらに近づいてきて、やわらかな唇が、言葉ごと私の口を封じ込めた。

夢にまでみた温もりで、決して夢じゃない感触だった。

心臓が早鐘のように5回鳴り響き。

汀は唇を離し、照れ笑いを浮かべた。

「これでチャラってことには・・・ならない?」

「私の一年は、そんなに安くないわよ」

そう、一年。一年だ。私がどんな思いでいたか、たっぷりと思い知らせてやる。




私は汀を力尽くで押し倒し、噛み付くようにキスをした。

うすく開いた隙間に舌を差し込むと、汀は抵抗もせずにすんなりと受け入れてくれた。

皮膚じゃない、互いの中身が直に触れ合い絡まって、これまで感じたことのない感覚が

震えと共に尾てい骨から脳にまで駆け上がる。

歯茎をなぞり、舌を絡めとり、呼吸すら奪おうとひたすら貪欲に汀を求めた。


「はあっ・・・ん、んぅ・・・」


合間に漏れる汀の艶やかな吐息が、私を溶かして溢れさせる。

私は唾液を汀の口内に流し込み、彼女が嚥下するのを確認してから、ようやっと唇を離した。

ねっとりと、一つだったものが二つに裂けるように私たちは離れ、間を名残の糸が伝う。

熱に浮かされ、頭がクラクラする。きっと汀もそうなのだろう。

荒い息をつき潤んだ瞳で私を見上げるその表情は、いつもの本心を隠す笑顔の仮面などではなく。

余裕も何もない、彼女の素だった。


私は視線を下ろし、ピッタリとした服の上から分かる汀の体の線を追う。

以前いっしょに風呂に入ったことなど思い出し、裸なんて何でもないと言い聞かせながら―――

けれど一瞬、躊躇してしまった。

こんな経験どころかキスだって汀としかしたことのない私には、これからどうすればいいのかなんて皆目見当も付かない、

いや、いくら堅物と言われる私だって、その、そういった知識の少しくらいは持ち合わせているけども―――


「えいっ」

「――えっ!?」

何が起こったのか分からなかった。

いきなり世界が回転し、気付いたときには汀にマウントポジションを取られていて。

・・・形勢逆転・・・?


「こんなにえっちぃチュウしといて今更ビビるなんて、オサってやっぱヘタレよねー」

「なっ・・・ちょっと、どいてよ汀!」

「やーよん。不覚にも先手は取られたけど、元々奇襲はあたしの十八番だし・・・やられっぱなしは性に合わないし?」

「みぎ――ぅあっ」

汀が服の上から私の胸に触れる。思わず声が漏れ、私は歯を食いしばった。

「へぇーオサってそんな可愛い声出すんだ」

「お、驚いただけよ!」

言いながらも汀の手は止まらない。

シャワーを浴びたばかりだった私はTシャツとスパッツのみという格好で、下着は着けておらず――いや、さすがに

下の方ははいているけども。


布越しに感じる汀の手が、熱い。

「んんっくぅ・・・み、ぎわ・・・」

優しく表面をなぞるように触れたり、痛いほど乱暴に揉みしだいたり。

緩急をつけたその動きに私の意識は囚われそうになるのだけれど、―――ただ一つ。

私たちを隔てているその存在が、私に正気を保たせている。

あまりにももどかしい快感に、私はイヤイヤと首を振った。

「みぎわ・・・もっと、ちゃんと・・・」

「ちゃんと・・・なーにー?」

「〜〜〜〜〜〜っ」

そう来るだろうと予想はしていたものの、素直に要求するのはやはり恥ずかしい。

それに、にやにやと返事を待ついたずらっ子を喜ばせてやるのは悔しい気がして。


私は汀の手をつかみ、服の中に招き入れると、直に手の平に押し付けた。

「ちゃんと、しなさいよ・・・」

あれ、もしかしてこっちの方が恥ずかしくないか?

汀は驚いた顔をして、次に「ずるい」と口をとがらせ、そして笑った。

結局は喜ばせてしまったみたいだけど、まあ、悪い気は全然しない。


汀は私のTシャツをまくり上げ、そのまま剥ぎ取ってしまった。体が火照っているせいか寒さなどはない。

スパッツにも汀の手がかかる。

「やっ、ちょっと」

「・・・いや?」

「――っ」

そんな不安そうな顔で見上げられて・・・断れるわけ、ないじゃない。

「汀も・・・脱ぐのなら」

汀は首肯するのももどかしいというように、私が言うとすぐに衣服を脱ぎ捨ててしまった。

なんだろう、思い切りがいいというか、肌をさらすことに抵抗がないのは南方系の特徴だったりするのだろうか。

私よりも豊かな胸を堂々とさらすその姿を見ていると、恥ずかしがっている私の方が変みたいだ。


スパッツごと下着をおろす汀の手を、もう止めることはできない。

熱を持った部分が外気にさらされて、一瞬体が震える。

・・・いや、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。というか、ただ脱ぐだけとは状況が違いすぎる。

足を閉じようとしたのだけれど、私の足の間にはいつの間にやら、ちゃっかり汀が納まっていて。

彼女は私の内腿を撫でながら、嫌な感じに笑った。


「うわっこんなに濡らしちゃって・・・ビチョビチョじゃない」

「な・・・っ」

カッと顔が熱くなるのが分かった。

手を顔に当てて冷やそうとしたけど、だめだ、体中が熱くてどうにもならない。

「みるなっ」

「見なきゃできないもーん。それに、あたしのせいでオサがこうなったって思うと―――」

「ひあっ」

今まで他人が触れたことのない場所を、汀の指がゆっくりとなぞる。

「・・・痛かったらちゃんと言ってね」

溝に沿って、下から上へ、上から下へ。

先程言われたとおり相当に濡れていたのか、粘着性のある水音がやたらと耳に付く。

「うぁ、あっ・・・く、ふぅ・・・んんっ」

食いしばった歯の間から、こらえきれない声が漏れる。

ここから逃れたくて、でももっとして欲しくて――私は無意識に身をよじる。


「ねえオサ、そうやって声抑えられちゃうとさ」

汀が私のヒダを押し開く。最も敏感な芽が露出させられたのだろうとは思ったけど、下を向いて

確かめるなんて、とてもじゃないが出来やしない。


「あたし、余計に興奮しちゃうのよね」

確かめられないけれど、そこに汀の視線を感じる。

汀が見ている、見られている―――

意識すればするほど私のそこは熱くなり、次から次から溢れ出すのを止められない。


「わ、オサのここ、すごい・・・きれいなピンク色で、どんどん大きく・・・」

「じ、実況するなっこの変た―――ぁぁああああ!」

不覚。汀は私が口を開くのにあわせて、そこを擦りあげた。

私の口から、私のものじゃないような、高くかすれた甘い声が出る。

一度開いてしまったものはもう戻らず、私はだらしなく口を開けたまま、あられもない嬌声を上げ続けた。

「んああっあぅ、ひああぁっ、は・・・あぁんっ」

汀の指が円を描き、こすり、弾き、押しつぶし――その度に私の体は素直に反応し、意思を無視して顎が上がり、腰が跳ねる。


「みぎ・・・ぃあっ、ん、ふぁ・・・みぎわぁっ」

私の中に、下腹部に、熱い熱い塊がある。蓄積された熱がある。

爆発しそうなその熱を、早く外にかき出して欲しくて。

私は腰を動かし、汀の手に自らを擦り付けた。


「オサ・・・」

私の意図を理解した汀は、そっと中指を入り口にあてがう。

「・・・汀?」

そこから動かなくなった彼女をいぶかしみ、問うと。

普段の汀からは想像もつかないような弱気な顔で、私を見上げていた。

「あの、もし痛かったら・・・ああ、でも、それでオサが・・・嫌になっちゃったら・・・」

泣きそうな顔で、そんなことを言う。


ああ、汀が、怖がっている。私を傷付けることを恐れている。

長いまつ毛を震わせて、私以上に私のことを心配してくれている。


「オサ、今日は初めてなんだし・・・また、」

「―――汀」

そっと汀に口付ける。

あの日汀が私にしたような、触れるだけの軽いキスを。


「私は汀になら――汀だから、してほしい。・・・あなたは?汀は、どうしたい?」

「・・・あたし、あたしは・・・もっと色んなオサが見たい」

汀は幼い子供のように、私の胸に顔をすり寄せる。

「誰も知らない姿を、声を、オサを―――もっと教えてほしい」

「ええ、いいわ」

彼女の短い髪に指を絡める。意外なほどに柔らかい、女の子の髪だった。

「汀の好きにして・・・」



「んん・・・く、いつっ」

「オサ!?」

「だい、じょうぶ・・・大丈夫だから、続けて・・・」

第一、第二間接と過ぎ、汀の中指が全て私の中に収まる。

充分に濡れていたおかげか、想像していたような痛みはなかったが

「やっぱ、キツ・・・」

体は初めて侵入してきた異物を押し出そうと、抵抗をしている。

その固さを少しでもほぐそうと、中で汀が動くのだけれど、あるのは圧迫感ばかりだ。


「ひぐっ・・・う、はぁっ・・・」

「オサ、あたしの目を見て」

「え―――」

「力を抜いて、あたしを感じて・・・」

言われたとおり視線を合わせ、深く息を吸い、ゆっくりと吐き・・・

呼吸のリズムを彼女と同じにする。

汀は頷くと、顔を動かし、私の胸の先端を口に含んだ。


「―――っ!?」

「だめ、オサ・・・ちゃんとあたしを見て」

「ん、んぅ・・・あっ」

目と鼻の先で、汀が私の胸に吸い付いている。温かくぬめり、ざらついた舌が硬いしこりをこねる。

その映像と感触が連動して、私は再び高いところへ押し上げられていく。

顔を覆いたくなるほどの羞恥心が、私の昂りを煽り、煽ぎ、燃え上がらせる。


「んふぅっ、は・・・あ、れ・・・?」

いつの間にか汀が指の動きを再開し、内壁を探るように擦っているのに気が付いた。

しかし先程のような圧迫感は消えていて、いや、それどころか、これは、何、かが・・・

「ああっなに、これ・・・や、変・・・ッぁぁあああっ」

汀の指がどこか一点をかすめた時、電撃が体の中心を駆け抜けた。

これまでとは比べ物にならないような、とても強く、激しく、けれど甘い―――


「ここ?ねえオサ、ここがいいの?」

「ひあぁっ、だ、め・・・そこ、やぁっ・・・」

言葉なのか喘ぎなのか、区別のつかない声が出る。

汀はいつの間にか指を増やし、ばらばらに動かしながらも執拗に一点を攻めてくる。

ひとの弱点を狙い撃ちなんて、いかにも彼女らしいなどと溶ける頭のどこかが考えていることに驚く。

「やあっも、らめ・・・っえ、ぁあ、もっ・・・と――」

「だめ?もっと?どっち?」

耳元で汀が低くささやく。頭の中で響いて弾けて、それ以外何も考えられなくなる。


ほしい、ほしい。汀が欲しい。

二人このままずっとこの時間が続くなら、他には何も必要ない。


熱に浮かされ全く働かなくなった頭は、普段ならば絶対に言えないような言葉を私に言わせ、

何度も何度もうわ言のように、私は汀を求め続けた。

汀の片手は私の中に、私の片手は汀をかき抱き。

空いた片手を重ねあわせ、指を絡めて、強く、強く、一つになる。


汀が中をかき混ぜるほど、私の脳もぐちゃぐちゃになる。

「あぁ、オサの中・・・すごく熱い。キュウキュウしてて、指、食べられちゃいそう」

「みぎわぁっ、も、わた・・・んああっ限、か・・・っ」

「オサ、オサ、かわいいオサ。もっといっぱい、あたしに見せて・・・

「あ・・・ぁあっ・・・んあ、ぁあああああッ――――――――」




目を開けると、汀がいた。

どうやら私は意識を手放してしまっていたらしいけど、それは恐らくほんの一瞬。

その証拠に、私の呼吸はまだ荒いままだ。

汀は私に覆いかぶさり、私の頬に片手を添えて微笑んでいた。

それは一年前、二人して溺れかけた後の水際で、私に見せたのと同じ顔だった。

ああ、汀がここにいる。汀はここにいる。触れられるほど、すぐそばに――

触れられるほど――触れて―――触れたまま――――――?


違和感を覚えて視線を下げると、汀の手が私のそこに、つまり、その、さっきまで汀がさんざん

いじり倒していたその場所に―――今も触れているのに気が付いた。

「ちちちょっと手、手はなしてよ」

今また刺激されたりしたら、どうなってしまうか分かったもんじゃない。

すると汀は途端に表情を崩し、いつもの悪戯子猫のような顔に戻った。

「だってさ、オサのここすっごく可愛いんだもーん。イッちゃったあとにビクンビクンって」

「は・な・せっ」

さっきのことを思い出すと、ああ、うああ、どうしよう。

私は汀に何を言った?私は汀に何をされた?

「・・・うわあああぁ・・・」

真っ赤になった顔を両手で覆い、何とか熱を吸い取ろうと試みる。


汀が私の前髪をかき上げて、ちゅっと口付けた。

「さて、さっき入ったばっかのとこ悪いけど、も一回お風呂いっとこうか」

「・・・は?」

「や、このあと打ち上げするんでしょ?さすがにこのままじゃヤバイって」

何を言ってるんだ、こいつは。

「ちょっと汀、あなた私をこんな目にあわせといてタダで済むと思ってるわけ?」

起きかけていた汀を再びベッドに沈める。

気だるい体に鞭打ち汀の上にまたがって、目をパチクリさせている可愛い彼女を見下ろす。

「え?・・・え?」

「あなたにも恥ずかしい思い、してもらうから」

それに、元々は私から仕掛けた行為だったはずなのだ。

「ええ!?い、いやでもほらオサってばかーなりお疲れみたいだしー・・・」

「私の体力なめないでよね。それに―――」

私は彼女の真似をして、意地悪く目を細め口角を上げる。

「やられっぱなしは性に合わないの」



第二ラウンド/(^o^)\



さて、まずはどうしてくれようか。

汀のモデルじみたプロポーションを上から下までなめるように見ていると、

彼女の白い内股を流れるものがあることに気が付いた。

「私まだ何もしてないのに、どうしてこんなに濡れてるの?」

つっと指でそれを拭い、彼女の眼前に突きつける。

さあ反撃開始だ。

「ひゃっ、だ・・・って、しょうがないじゃん、オサのあんな姿、みたら・・・」

朱に染まった顔でプイとそっぽを向く汀が、どうしようもなく愛しい。


だから私は、彼女の赤い頬にちゅっと音を立てて口付ける。

反対側の頬にも、小さな額にも、眉間に、両のまぶたに、全てが愛しいと告げるように。

汀の耳に舌を伸ばし、くぼみをなぞり、外から道に沿って曲がりつつ中心へと向かっていく。

「うひぁっ、ちょ、くすぐったいって」

「ん・・・ぴちゃ・・・」

「あっ、んん・・・ふぅっ・・・」

耳朶を甘噛みし、耳の裏、付け根にまでねっとりと舌を這わせる。

私が息をつくたびに、びくりと背中を震わせる汀がおもしろくて。

吐息と共に、彼女の名を呼ぶ。


「みぎわ・・・」

「―――っ!な、に・・・」

「なんでもないけど」

「う、この・・・オサのくせにっ」

「汀、気持ちいい?」

「ふぁっ、ん・・・さい、あく・・・」

どうしよう、止まらない。さっきの汀もこんな気持ちだったのだろうか?


無防備にさらされた首筋に触れると、ドクンドクンと命の脈動がした。

最も強く脈打つ場所を唇で探り当て、そこを思い切り吸い上げる。

「いっつ、オサ何やって・・・そんなとこ、跡ついたら」

私は無視を決め込んで、鎖骨にも赤い跡を残す。

「そ、こもダメだってばぁ・・・っ」

汀の服装なら、絶対に見えてしまうような位置にあえて赤い跡を残す。

私の証をつけていく。

「・・・汀の周りには、私の知らない人がいっぱいいるから」

学校、剣道部、鬼切部。

その中に、彼女を好きになる人がいるかもしれないと考えただけで―――


汀が私の頭を抱き、大丈夫だとでも言うようにポンポンと軽くたたいた。

「だからオサはヘタレなのよ。もっと自信持ちなさいって」

「・・・っ」

子供じみた嫉妬心だ。

それを分かってくれたのが嬉しくて、恥ずかしくて。

目を合わせられない私は、汀の柔らかい胸に顔を埋める。

「・・・一年もほったらかしにしたくせに」

乳房に、みぞおちに、下腹部に、太ももに。

にぶく赤い点が灯る。

下へ下へと、椿の花が落ちていく。


「汀、足あげて」

引き締まった形の良い脚をなぞり、足首に手をかけて持ち上げる。

訝しむ汀の視線を受けながら、私はその親指を口に含んだ。

「お、おおおおおおおおさ!?」

唾液を絡め、吸い上げ。

「や、やだっ何で、そんな、足・・・ひあっ」

指と指の間、肉と爪の隙間まで。

「何でって・・・さっきの仕返し」

「あ、あたしこんなコトしてないし!?」

一分一厘残さずに、汀を喰らい尽くしてやりたい。


嫌がる言葉とは裏腹に、昂る汀の鼓動が伝わる。

私は彼女の足を下ろし、ずいっと体を前に進めた。

「じゃあ汀が私にしたことなら、いいんだ?」

汀の脚をぐっと左右に開かせる。単純な力比べなら敵わないかもしれないが、

踏ん張りの利かない今の彼女にならば余裕で勝てる。

私はそこに顔を埋め、彼女の脈打つ秘所に舌を這わせた。

「ひぁあっ、ちょ、なん・・・んああぁっ」

逃げようとする汀の腰を引き寄せ、いっそう強く唇を押し付ける。

「だ・・・から、なん、そんな、なめるのぉ・・・そんなとこ、やだぁっ・・・」

「ん、ちゅ・・・汀がおいしいから」

「おいしく、ないっ・・・ひ、ぅあ・・・お、おさの犬!おさ犬!」

汀の体中を味わう私が犬なら、さっき私にあんなことをした彼女は手癖の悪い猿といったところか。


それにしてもこんな状況で挑発してくるなんて、頭文字Mは伊達じゃないなと思いつつ

倍返しにしてやろうと考える私の頭文字はSで。

「知らないの?こんなにおいしいのに」

とめどなく溢れ出す汀の蜜を舌ですくい取り、口に含む。

そのまま身を乗り出し、背けられていた汀の顔を両手で挟み固定して

「え、ちょ、まさか、待っ―――」

私の口から汀の口内へ。

汀の一部だったものが私と交わり、舌と舌とに絡まりながら口いっぱいに広がって、喉の下へと落ちていく。

汀の中へと還っていく。


「ちゅ・・・ん、くちゅ・・・っはぁ・・・」

互いを味わい唇を離すと、唾液よりもずっと粘着質な糸が二人をつなぐ。

おいしかった?と首を傾げる私に、汀は息も絶え絶えに

「ぜったい、おさのが、へんたい・・・っ」

それでもまだ、そんなことを言う。

私は再び脚の間に顔を寄せ、今度はもっと直接的に刺激してやろうと、秘裂の上を左右に押し開く。

露出された蕾は赤く充血し、膨れ、ひくひくと震えて。

私に触れられるのを待っている。


「あっはあぁっ、うあ、んん・・・ふぁああっ」

高くかすれ、色付いた甘い声。

自分のはひたすら恥ずかしかったのに、汀の声だとゾクゾクしてもっと聞きたくなってしまう。

「おさ、お、さ・・・んあ、あたし、ね、おさぁ・・・」

たとえ命乞いされたって止めてやるものか。

そう思って返事をせずにいると


「あたし、ね・・・けーたい、きしゅへん・・・したの」


「え?」

きしゅへん――機種変更?

いったい何を言い出すんだと、思わず口を離してしまう。

「やっ・・・おさ、やめないで。もっと、して・・・」

汀に甘ったるく懇願されて、脊椎のあたりがビリビリした。

どういうつもりか知らないが、ならばと私は裂け目に舌を差し込み、切れ切れの言葉を拾うことにする。


「でも、前のケータイ、ずっと・・・持ってて」

あの夏に彼女が持っていた、赤い携帯電話。

機種変更したのなら、もう電話もメールもできないだろうソレをどうして。

「あたし、仕事、あんなだし・・・っ連絡、なんか、できなくて・・・」

舌の先で、腹で、蕾をねぶると汀の声が一際高くなる。

こんな状態で話してきちんと呼吸できるのかと心配になるが、これが汀の望むことならば。

「でも、だめで、あたし、やっぱり・・・ダメで。だから、けど、もし―――普通の女子高生なら」

普通の女子高生として、鬼切りでもなんでもない、ただの一般人として偶然会うだけなら。

「だから剣道、でも、やっぱ、すぐ・・・すぐに、おさに」

精一杯しぼり出すような声。

これはきっと汀にとって、今でなければ言えないことなのだ。

私は彼女の秘裂を舌で割り、奥へ奥へと進めていく。

波打つ彼女の命が、熱い。


「だから、そんなときは―――メッセージ、きくの」


何度も抜き差しし、内壁を探り、汀の一部を飲み下す。

「ふぁ、あっ、あんっ・・・ひあ、あぁっ・・・」

日本語よりもなん語に近いような、喘ぎ声の割合が高くなっている。

汀が張り詰めていくのが分かる。

語り終えるのが先か、果てるのが先か――

私は口付けたまま、話の続きを促す。

「メッセージ?」

「はぅっ、ん、留守電・・・卯良島、での・・・っ」

ああ――それは、あの時の。

綾代に汀の番号を聞き、儀式について伝えるために、あの赤い携帯電話に残した私の声。


「はやくちで、愛想も、なにもなくて・・・」

鼻の奥がつんとして、眼球が後ろから圧迫されるような感覚。


「もうちょっと、かわいく言ってくれたって、いいのになー・・・って。

でも、それがすごく―――オサっぽくて」


だめだ、もう、私の方が耐えられない。

お願いだからそれ以上言わないでと、汀の口を封じるために、極限まで張り詰めた蕾を甘噛みした。


「んぁああっおさ、おさぁ!あいた、かった・・・ずっとずっと、会いたかった!」

「―――汀!」


捕らえるように、すがるように、もう二度と離れないように――

強く強く抱きしめて、深く深く口付けて、境も水際もなくなってしまえと、ふたり、波にのまれるように。

汀が泣いている気がした。それは私かもしれなかった。


汀に最後の一滴を、海の向こうの楽園に、限りなく近づけるように。

もっともっとひとつになれるように。

呼吸を奪い合い分かち合いながら、そっと汀の中心に手を伸ばす。


「―――――――――――――――」




汀の腕の中で、穏やかな鼓動を聴く。

海に浮かぶような、羊水につかるような、満たされた沈黙。

眠りへ至る舟をこぐ私に、汀が囁きかける。

「オサは強いね」

私は一度だって汀に勝ったことがないのに。

「オサは強いよ。一年前だって、あたしよりずーっと強かった」

何でだろう、よく分からない。

けど、そうだ、次は絶対に負けないから。

くすりと笑う汀の吐息が髪に触れる。

「なに?もう一回したいの?」

ばか、そうじゃなくて、試合の話よ。


でも今は――ああ、もう眠ってしまおう。

目を閉じたって、汀がいなくなることはないのだから。








・・・なにか忘れている気は、するのだけれど。







「――――おそい」

「え?」

「おそいおそい遅すぎます!せっかくの打ち上げに主将不在たァどういう了見ですかね!?」

「百子ちゃん、梢子さんは汀さんとお話中ですし、先に始めてしまっても・・・」

「いーえダメですね許せませんね締まりませんね!アルコールは没収されたとはいえこれは立派な宴会!

音頭をとるべき人がいないのに始めるなんてそんな真似は――」

「梢子先輩を待つのには賛成だけど・・・あ、もしかして百ちゃんお腹すいたの?

じゃあほら、これを」

「そーゆーんじゃないのだよモグざわっちモグモグ!こうなったら、ひとっ走りしてケツひっぱたい」

「たたくの!?梢子先輩のおおおおおおしり叩くのっ!?」

「い、いやさすがにそんな畏れ多いってか後が恐いことなんて頼まれたってしやしませんけど・・・

とりあえず、ちょっと行って呼んできま」

「だめです」

「え――」

「だめですよ」

「ひ、姫先輩?」

「いま行けば・・・きっと後悔します」

「え、なん、姫先輩、ちょいと近―――」

「それでも、どうしても行くというのなら・・・」

「や、やだ姫セン、ざざざわっち助け・・・アッ――――――」


「先に打ち上げ、始めましょうか」




おわれ