790 :事件は青い城で踊る:2008/05/31(土) 23:02:09 ID:yxCxj9rW
「暑い…」
夏が過ぎて、秋が来たとは言え流石にこの格好は無いと思う。
仮縫いの白いドレスがバーン!と私の体で存在を主張しているのに思わずうんざりしてしまうのは、暑さのせいだけだろうか。
せめて半袖にならなかったのかと、今更ながらそんな事をごちる。肩から胸元は大胆に開けているのに、他の布地は手首までしっかりと覆われているのはおかしくないかしら?
「やっぱり小山内さんは体のラインが綺麗ねー…」
そんな私の気をよそに衣装担当の子はほぅ、溜め息を吐き、私はハァーッと長く吐いた。ちらりと黒板に目を向ければ「シンデレラ」とデカデカとした文字が否応なく私に現実を突き付けてくれる。
目を逸らせば楽しそうに傍から私を見守る綾代の姿。
「梢子さん、良く似合ってますわ」
今の私からは悪魔の微笑みにしか見えない美しい笑顔。
思わず頭を抱えた私は事の発端に意識を沈めた。
791 :事件は青い城で踊る2:2008/05/31(土) 23:08:33 ID:yxCxj9rW
文化祭まで後――日。
出し物決めの日にクラスというクラスが大いに踊り、その熱は当然私達のクラスからも発せられていた。
メイド喫茶。
執事喫茶。
コスプレ喫茶。
その他なんとか喫茶が挙げられたが、あまりにも俗すぎると嘆いた先生に却下され、ならばベッタベタのベタでどうだ!。
と、そうやって出されたのが演劇・シンデレラ、これには先生も二つ返事でOK、だがとある問題があった。
王子と姫、この二大頭角の役をどうするか…である。
まず王子役に私が挙げられ、姫役に綾代が挙げられたのだが…その綾代によって爆弾が投下されてしまった。
「それではあまりにもベタ過ぎるので、梢子さんがお姫様というのはどうでしょう?」
盛大に椅子からこける私。
そしてわき上がるクラスメイト達。
「ちょっと!なによそれ!!」
「ふふっ真っ赤になった梢子さんを見るのは久しぶりですね」
「あ、あやしろーっ!」
悪魔がいる、優しく微笑む悪魔が。
「じゃあ、王子役は綾代ちゃんに大!決!定!」
二の句が継げない私をよそに、ワーッと話は先へ進んでいく。
って、私が姫でいいのみんな!?
792 :事件は青い城で踊る:2008/05/31(土) 23:13:44 ID:yxCxj9rW
「やっぱり部長と副部長のオシドリカップルっていいわね!!」
「このどことなく下克上チックな配役が更ににいいわぁ…」
「小山内さんが虐げられるお姫様…おおっと鼻血鼻j」
「綾代さんが王子様かー旧家の御曹司ぽくアレンジとか…うはww夢が広がりんぐwww」
…。
……。
…………ここ、お嬢様学校……よね。
救いを求めるように先生に目を向けると、宝塚っぽくていいわねぇ…と大変にこやかだった。
ブルータス、お前もかあっー!!
「梢子さん、頑張りましょう」
ぽん、と綾代が手を肩に置いてとてもとても綺麗に微笑む。
悪魔、いや、物語に出るような意地悪な魔女がそこにいた。
私に残された道は…がっくりと肩を落として詳細が決められていくのを眺めることだけだった。
その後、いつの間にかドレス姿を携帯で撮っていた綾代が画像を保美、百子、汀、なっちゃん、コハクさん、ナミに送って大変な事になるのは別のお話。
…という事にしておいてちょうだい。
終劇。