782 :一期一会の夏の夜:2008/05/31(土) 11:58:57 ID:uTL3/RwL

旅行で皆の団欒のひとときは、トランプがいいと人の言う―


私たちの合宿は新たな出会いの数々で、ナイスバディな南国美人に海から流れ着いた乙姫様と

不思議な出会いも沢山あったのだけど…


そんな不思議な人達とこうしてトランプを勤しんでいる私たちもなにやら不思議な面々なのかも…


そして、白熱したトランプも飽きの出てきた夜遅く―

「それじゃ私、ナミを布団で寝かせてくるから―…

あー、やっぱり私も上がることにするわ。もう結構な時間だし。」

負け越しのオサ先輩は、眠ってしまった乙姫ことナミーともう休んでしまうと言い出した。

「あなたたちもそこそこで切り上げなさいよ。

特に保美は病み上がりなんだから早めに休みなさい」

「あ…はい」

オサ先輩がざわっちを心配するのもいつものことで―

「ざわっちもオサ先輩とナミーの部屋に寝かせてもらえば?」

「…ちょっと、百ちゃん!」

私がざわっちにオサ先輩とのラブラブを促すのもいつものこと。

「それじゃ、私もお先に失礼しますね。」

姫先輩も続いておいとまするようだけど…

「………」

ミギーさんだけは、まだ夜更かしをするようで。

「ミギーさんはどうします?もうお開きしちゃいますか?」

「いや…あたしは……そうね、百ちーがよければ、ちょっと百ちーとお話したいかな?」

「お?ミギーさん、ナンパですか?」

「そーいうわけでも…あるかもね。」

私も旅行先の人と話すのは好きだし、ミギーさんのことにも興味があるので―


しばらく他愛のない話をしていたけれど、自然と好きな人の話になるのも旅行の性なのだろうか。

「ねぇ、百ちーはやすみんと同室なのよね?

何か進展あったりしたぁ〜?」

冗談めいた顔でニカニカ笑うのは、彼女の特徴なのかもしれない。

私も結構話や雰囲気が合う人だと思ってはいる。

「いやいや進展だなんてそんな〜…

それにざわっちがラブなのは、オサ先輩のほうですし―」

「…ふーん」

思いの外、冷めた反応。時々何を考えているのかわからない所も、私と気が合う所以か。

「百ちーは、やすみんの事をどう思ってるの?」

…どうしてこんな話の流れになっているのかわからないけれど…

「どうってそんな…そりゃあざわっちは才色兼備な良妻賢母ですし

私も大好きですけれど―

ざわっちはオサ先輩の事が大好きですから、私はさしずめ、恋のキューピッドな役割でしょうか」

そう、ざわっちにとってオサ先輩は特別なのだ。


783 :一期一会の夏の夜:2008/05/31(土) 12:01:20 ID:uTL3/RwL

だからこれは、私自身の出る幕ではない。

「………」

急に、無表情になるミギーさん。

…私はなにかおかしな事を言っただろうか?


「嘘、ね。」

「…は?」

「少なくとも、恋のキューピッドってあたりは」

なぜかギクリと、弱点を突かれたように固まる私。

「な、なにをおっしゃるミギーさん!私はあくまでざわっちの事をですね―」

「………」

まただんまりだ。…正直、やはり彼女の事はよくわからない。

「ねぇ、百ちー」

「……なんですか」

「百ちー、あんたは他人どころか自分を偽ったままで…ホントにいいわけ?」

彼女の真剣な眼を見たのは、初めてかもしれない。

「そう仰られましても〜、口八丁手八丁がお得意なミギーさんには…」

「ま、それがあたしの専売特許だし?」

へらへらと笑う今の彼女は、やはりいつものミギーさん…

「でもね」

…と、彼女は急に先程の真剣な表情に変わって

「あたしは嘘をつくのは得意だけど…、自分自身に嘘をつくのは大嫌いよ」

そう言った彼女の眼は、先程よりも固く鋭く、まるで蛙を睨む蛇のように冷たくて。

「端から見ててもまるわかり。…百ちー、あんたやすみんのことが好きなんでしょ?

でも、やすみんはオサのことが気になってる。…百ちーはそれを応援してあげたいって、自分に嘘をつき続けて…

自分自身が苦しんでるのにすら、気付かないでいる。」

これには、流石の私も驚きを隠せなかった。

確かにポーカーなどでは、自分に良い手が来ると顔に出ると、注意されたりしたけれど…

出会って数日も経たないミギーさんにすら、こうも見抜かれているなんて。


そして私は、どうしようもないやるせなさにまとわりつかれて

…それはミギーさんに対する、怒りへと変貌してしまった。


784 :一期一会の夏の夜:2008/05/31(土) 12:02:59 ID:uTL3/RwL

「そっ…そんな、わかったようなこと言わないでください!

たかだか数日の付き合いなミギーさんに私の何が―」

「ええ、わからないわ。」

冷たい声。気付かないうちにミギーさんに酷いことを言ってしまった気がして

私はまた肩をすくめてしまった。

「わからないから勝手に言わせてもらうけど―」

私の罵倒など気にしていないかのように、彼女は続ける。

「百ちーのしてることって…あたしから見たら、自分で自分を苦しめてるようにしか見えないのよ。

嵐の海の中、自分自身が溺れてしまいそうなのに、愛する人を先に助けて沈んでいく―」

「そんな事をされて、残された人はどう思うのかしらね?」

耳が痛い。

「素晴らしい自己犠牲の精神?そんなもの、勝手に死なれて迷惑なだけ。」

自分に嘘をつき続けることが愚かしいと―

「あんたが本当にやすみんの事を想うなら…

自分自身に素直になったほうがいいんじゃないの?」

出会って数日も経たないミギーさんに、ここまで見破られているのだ。

ずっと一緒に暮らしてきたざわっちが、私の気持ちに―

私の行為の意味に気付かないはずがないと彼女は言う。

「面と向かって、ホントの気持ち伝えてみたら?きっと、やすみんだって…待ってるわよ」

何故だか涙が溢れてきた。…私の気持ちに、私の想いに…

ミギーさんに、気付いてもらえたから、だろうか

「けど、ざわっちはオサ先輩のことが…っ……それに、オサ先輩だって…」

「…いつもの百ちーらしくないわね。」

「…私だって、本当はセンチメンタルな女の子なんですよぅ…」

どうしよう、らしくない。こんなにも悲しいような、嬉しいような気持ちが混ざり合って

悲しいのか、嬉しいのか、よくわからない涙が溢れ、流れてくる。

「…しょうがないわね。」

うつむいていた私を、急にあったかい感触が包んだ。

…ミギーさんに抱き締められているのに気付いたのは、少し経ってからだった。

「百ちー、…よく頑張ったね。…ホントは誰かに気付いてほしかったんだね。」

さっきまで冷たい、蛇のような印象のあったミギーさんだったけど。

優しく抱き締めてくれる今の彼女からは、まるでお母さんに抱き締められてるような…

胸の奥からあったかいものが溢れてくるような気分がした。

「…みっ……ミギーっ…さん…」

暖かいさざなみに揺られて、私の涙腺ダムはついに決壊した。

「…ふっ…ぐす、……ミギーさぁん……」


785 :一期一会の夏の夜:2008/05/31(土) 12:03:56 ID:uTL3/RwL

…私が泣き止むまで、彼女はずっと抱き締めていてくれた。

「―ああ、私ったらみっともない醜態を…」

「ふふ、結構可愛かったわよ。百ちーの泣き顔」

「かっ、からかわないでくださいよぅ!」

これもまた、彼女なりの励まし方なんだろう。

彼女の皮肉ですら有り難かった。

「…それじゃ、もう夜も遅いのでおいとましますね。

おやすみなさい、ミギーさん」

部屋から出て行こうと立ち上がると

「うん、…頑張れ、恋する乙女」

オサ先輩は、ミギーさんが苦手だって言ってたけど―

「…いい人…かも」


あれ?なんだか私、ミギーさんのこと意識しちゃってるような―