672 : ◆mTj9hjLz9w :2008/05/27(火) 00:14:34 ID:rEZIbp+C

 相変わらずこの秋田百子さんは、ざわっちラブです。

 じゃなくて。

 今、あたしは一人で部屋にいる。

 何故一人なのかと言うと、部活中に怪我をして、休まされているのである。怪我の捻挫自体はそんなにひどい痛みではなかったのだけれど、大事を取って、だ。

 本当はテーピングと湿布を貼って、体育館で見学してもよかったのだけれど、寝不足が祟ってなのか、ふらついてしまっていた。

 姫先輩とオサ先輩、ざわっちに諭され、やむなく休むことになった。

 ……静かすぎる医務室は、なんだか落ち着かなくて、部屋に戻ってきてしまったけれど。

 部活のない放課後。ざわっちのいない部屋。それだけであたしの人生は欠けてしまったような気がした。

 あたしはCDを流し、ヘッドフォンを装着した。ベッドに横たわって、既に読み終わった音楽雑誌をぱらぱらとめくり……

 ざわっちのことを考えた。

 あれからもざわっちは普段通りに接してくれる。

 それは同情なのか、ざわっちの裏のない優しさなのか、恋人としての対応なのか、あたしには知ることが出来ない。

 今更掘り返すのも頂けない気がする。

 前にも言ったようだけど、あたしはざわっちが好きだが、それ以上にざわっちの笑顔が好きなのだ。

 彼女の全てを――笑顔を奪ってまで、欲しくはない。もとより、こんなことを言うのは遅かったのかもしれないけれど。

 もう忘れてしまった方がいいのだろうか。

 和尚さんではないけれど、雑念を払って目を瞑る。

 しかし、すぐにざわっちが浮かんできては……消えた。そして全ての音が――思いが零になり、あたしの意識は暗闇に飲まれた。


673 : ◆mTj9hjLz9w :2008/05/27(火) 00:17:05 ID:rEZIbp+C

「メエーーーン!」

 竹刀同士がぶつかり合う大きな音と、先輩たちの声が体育館に響き渡る。

 十数人の部員……。

 今日は複数の人が部活を休んでいるからか、体育館がとても広く思える。

 ……百ちゃんたった一人がいない所為かもしれないけれど。

 先輩たちの稽古をぼうっと眺めながら、わたしはストップウォッチを握りしめていた。

 百ちゃん、大丈夫かな?

「……み」

 わたしは医務室にいる百ちゃんのことを考えた。百ちゃんには少し合わない場所が、妙にわたしを心配させる。

 百ちゃんはわたしのことを――

「保美!」

「――はいっ?!」

「ストップウォッチ、鳴ってるわよ」

 突然の声に少しびっくりする。はっと我に帰って声の主を見ると、梢子先輩だった。

 そして、自分が握りしめていたストップウォッチを見た。

「あっ! すっ、すみませんっ!」

「保美、あなた、百子のことが心配なんでしょう? 医務室行ってきなさい」

「あ……うー……でもー……」

「行ってきなさい。暇をもてあまして何してるか分かったもんじゃないわ。練習ももう少しで終わらせないといけない時間だから、これくらいなら綾代と私で事足りるわよ」

「……はい! ありがとうございますっ!」

 わたしは梢子先輩の優しさに甘え、さっさとジャージから制服に着替えた。

 そして医務室へと急いだ。

『次はーペアを組み換えて――』


 医務室のドアをなるべく静かに開けると、

「え……?」

 百ちゃんが横になっていたはずのベッドは、もぬけの殻だった。

 他のベッドも見てみたけれど、誰もいない。どうして? もしかすると体育館に……いや、寮にいる可能性もある。わたしたちの部屋へと足を運ぶことにした。

 早めに歩いて、部屋の前で止まる。

 何故か、開けづらい。何故かは分からないけれど……。


674 : ◆mTj9hjLz9w :2008/05/27(火) 00:20:51 ID:rEZIbp+C

 いや、開けよう。

 カチャッ……

 ……いない?

 いや、二段目の自分のベッドで寝ているのかも。

 わたしはベッドの梯子に足を掛けた。

「――あ」

 そこにはすうすうと眠っている百ちゃんの姿があった。

「くすっ……こんなのでよく眠れるなぁ」

 ヘッドフォンからは音漏れがしていて、相当な騒音の中で眠っていることは明白だった。

 わたしは百ちゃんのベッドに入って、ヘッドフォンを取ってあげた。百ちゃんにとっては取らない方がよかったのかもしれないけれど、やっぱり睡眠をとるときは静かな方がいい。

 ――百ちゃんの穏やかな寝顔の裏に、寂しさがあることをわたしは知っている。

 わたしなんかよりずっとずっとずっと……。

 わたしは百ちゃんの頬にキスをした。わたしは百ちゃんの寝顔に誘われるように、そのまま眠りに落ちていた。


 んっ……ふぅ……。

 あたしは目が覚めた。隣にある温もりが心地いい。

 ――温もり?

 寝返りを打ってみると……。

「ざ、ざ、ざわ、ざわっちー?!」

 あたしは隣に寝ているざわっちに驚愕し、上半身を起こした。

 わ、幸せそうに寝てるし、どうしよう?

 ……もう少しだけこうしているくらい、いいだろう。

  規則正しく上下する胸、温かい身体、少し紅色に染まった頬、波打つ髪、やわらかな唇――

「んんっ……」

 ……はっ。ざ、ざわっちが目を覚ましたーッ?!

 無意識の内にざわっちの唇に触れてしまっていた指を、急いで引っ込めた。

「お、お……グッモーニンざわっち!」

 多少噛んだ気はするけれど、知らない、知らない。あたしは知りませんよーっ。

「おはよう百ちゃん……今、何時……?」

 時計を見……ようとしたが、目覚ましが見当たらなかった。

「わ、分かんない……」


675 : ◆mTj9hjLz9w :2008/05/27(火) 00:24:55 ID:rEZIbp+C

「あー! 百ちゃん、もう九時ー!」

 ざわっちに指された自分の腕時計を見る。本当だ。

 ……そうだ。腕時計があったのか。動揺し過ぎて、何が何だか分からなくなってきた。

「晩御飯は……後でいいよね」

 いや、あたしとしては肉を食べまくりたい訳なのですが……

「心配してたんだよ……ん……ちゅっ……」

 ……へ。

 あたしの身体はざわっちによって、再びベッドに――いや、ざわっちの上に重なることになった。

 首に絡まる細い腕と、唇に伝わる温かな感触。それはあたしの脳を蕩けさせるほどに甘く。

「遠慮なんか、いらないんだからね……わたしの恋人≠ヘ百ちゃんなんだから……」

 その声は、キスより甘かった。

 ……これで理性を保てる人間の方が可笑しいのだ。

 あたしは思うがままにざわっちを求めた。

 ざわっちは寮に戻ってきてから着替えていないのか、まだ制服のままだった。ネクタイを外し、衣服を脱がせて行く。徐々に肌の露出は多くなる。

「や……百ちゃん……」

 少なからず拒否され、あたしも少なからず戸惑う、が……自分から『遠慮なんかいらないんだからね』なんて言った子に、拒否権などないのだ。

「こっちも『や』だよ、ざわっちー……」

 潤んだ瞳であたしを見上げるざわっち。

 ――ゾクゾクする。

 もっとすがるような目で、あたしだけを見て……。

 はだけながらも衣服を身につけると、全裸よりもいやらしく写る気がする。

 両手で直に胸を乱暴に揉んでやると、ざわっちは苦しそうな、切なそうな表情をする。これはこれでいいかもしれない。

 胸の中心にある尖起には触れずに、あたしは人差し指で円を描くようにして愛撫する。

「んんっ……触っ……て……」

 あたしは要望に応えるべく、人差し指と親指を舐めて、胸の先端部分をクリクリと刺激した。

「ひゃっ! あっ! ん……」


676 : ◆mTj9hjLz9w :2008/05/27(火) 00:25:45 ID:rEZIbp+C

 悲鳴にも似た喘ぎ声は、あたしを興奮させる。

 同じことを繰り返していると、ざわっちはあたしの服を脱がせ始めた。自分だけ弄られているのがいやなのだろうか。そう思いながらも自然と笑みがこぼれてしまう。

「……む」

 少し睨まれた。ざわっちってばかわいいなぁ。

「うあっ?! ちょ……ざわっち……」

 急に背中を指でなぞられ、力が抜ける。

「えへへー。お返しっ」

 あたしは更にそれのお返しで胸に吸い付き、下部へと手を進めた。

 ざわっちの濡れそぼったそこは、とても熱かった。

 探るようにして中指を動かすと、ぬるっとした感触と共に、ざわっちが反応した。

「ざわっち、ここ気持ちいいの?」

「あっ! あぁっ!」

 とても小さい尖起を中指でグッと押してみる。すると、ざわっちの身体はビクンと跳ねた。

「も、百ちゃん……わたし……っ」

 ざわっちは自分の指をくわえ、快感によって出そうになる声を押し殺しているようだった。

 ちゃんと、声を聴かせて……。「いいよ。でも指、ダメだよ……ざわっち……」

 あたしはざわっちの腕を押さえて封じた。

「ふぁっ……! ダメ、百ちゃん、来ちゃうよ……あっ! あぁぁぁ!」

 ざわっちは身体をびくつかせて、目を閉じた。

 優越感にも近い幸福を感じ、あたしはざわっちの頭を撫でた。

「百ちゃん大好きだよ……」

「あたしもだよ、ざわっち……」

 照れながら笑うざわっちは、凄く愛らしかった。

 あたしの心は穏やかだった。

 ざわっちの笑顔があるからこそ、あたしがあることを知った。

 この笑顔が枯れないように守っていこう。

 ずっと、ずっと、ずっと。

 大好きだよ。ざわっち。