「ねぇ、陽子はどうなの?好きな人っている?」

「えっ、あ、あたし?」

初秋の夕日に染まった放課後の教室。

当番のゴミ捨てに行った、はとちゃんを待つあたしは、居残った友達と雑談を交わしていた。

初めは嫌いな先生の愚痴とかだったが、そこは女同士の事、いつしか話が恋愛関係になるのは当然の流れで…。

何時もその方面の話題は、さりげなく避けて来たんだけど、今回ばかりは不覚にも指名を受けてしまった。

「あたしは、別に…」

「またまた…、いつもそんな事言ってるけど、本当はいるんでしょ?」

「陽子可愛いし、明るくて目立つから、町とかで声掛けられたりしてそうだよね」

二人掛かりで問い詰められては、流石に不利。

気づけば他の友達も、期待に満ちた目であたしを見ていた。

「残念だけど、好きな男なんていないわ。興味もないし」

誤魔化さずにきっぱりと言い切る。

嘘はついていないけど、色恋好きの女子高生という人種がこれで納得する筈がなく…。

「ふ〜ん、そこまではっきり言われると、逆にちょっと怪しいな〜」

「な、何が怪しいのよ」

友達の一人に、いきなり手を握られる。

「だから…陽子って、実は女の子が好きなのかなーなんて…」

その一言で心臓が飛び上がる。

ふざけてやっている事だと頭では理解していたが、それでも顔が赤くなってしまう。

「もう、そんな訳ないでしょ。単にあたしと釣り合う男がいないだけ」

平静を装いつつ、やんわりと握られた手をほどく。

時間が夕暮れ時で良かった、教室に差し込む茜色の光が…今の赤い顔を隠してくれている。

「ゴメン、ゴメン。そっかぁ、それは難しい問題だね」

「まったくよ。あぁ、美しいって罪…」

「あっはは、陽子ってば強気ー!」

わざとらしく溜息をつきながら、和んだ場の空気に内心ホッとする。

その後は誰と誰が怪しいとか、噂で聞いたんだけど…等のお喋りが続いていく。

女なのに、女の子を好きになる、そんな事…普通なら笑い話だろう。

けれどあたしには、笑うに笑えない理由があって…。




「陽子ちゃん、お待たせっ!」

待ちわびていた声が聞こえて、教室の入り口に視線を向けると、

急いで走って来たのか、そこには息を切らせたはとちゃんの姿があった。

「あれっ?みんな、まだ残ってたんだ」

「羽藤さんお疲れー」

友達の声が掛かる中、あたしは自分の鞄を持って席を立つ。

「何だ、陽子。もう行っちゃうの?」

「ゴメンね。これから帰って、はとちゃんと課題やらないといけないから」

友達には悪いけど、此処でまた恋愛の話を蒸し返されては、誤魔化す自信がない。

帰り支度を整えたはとちゃんに近づき、教室の出口へと促す。

「陽子ちゃん、もういいのかな?」

可愛らしく小首を傾げたその仕種に、一瞬目を奪われる。

「う、うん、OK。…それじゃ、行こっか」

意識しない様、返事をしたつもりだったけど、声が微かに震えてしまった。

「………?分かった。みんな、また明日ねー!」

「「また明日〜」」


学校を出た後も、あたしの胸中はざわついたまま…。

一応自然に振舞っているが、目だけは無意識に、はとちゃんの姿を追ってしまう。

どうして…?何時から…?きっかけは…?

分からない、でも、これだけは確かだ。

あたし、はとちゃんが…好き。

それが…友達に向ける感情とは違う物だという事に、あたしはもう気づいてしまっている。

はとちゃんの声を聞くと、心が落ち着いて、

はとちゃんの事を考えると、胸が切なくなって、

はとちゃんの笑顔を見るだけで、自分も嬉しくなる…けど、そこから先に道はない…。

あたしの気持ちに、きっと…はとちゃんは気づいていない、気づかれない様に今まで接して来た。

一番の親友でいたいから、ずっと一緒にいたいから…。

そして、行き場のない想いだけが、心に重く圧し掛かり、

それはもう…簡単な刺激で折れそうになっていた。




「……ちゃん、…陽子ちゃんっ!」

「…えっ、な、何?呼んだ?」

はとちゃんの声で我に返ると、何時の間にかアパートに到着していた。

「もう、呼んだ?じゃないよ。さっきからずっと黙ったままだから、どうしたのかなって…」

「あ、あははっ。ゴメン、ちょっと考え事してただけ」

頬を膨らませた、はとちゃんに謝る。

本人は怒っているつもりだろうけど、あたしから見れば愛嬌が増しただけで、

怒った顔も可愛いよ、そんな軽口が出そうになるのを何とか堪える。

「ならいいけど、陽子ちゃんがボーっとするなんて珍しいね。まだ十月だけど明日は雪が降るかも」

「まあねぇ、ボーっとするのは、はとちゃんの特権だけど、たまにはあたしが使いたい時もあるって事かしら」

そう言い返してやると、案の定。

はとちゃんの顔がまた、自称怒ってますモードに変わった。

「うぅ〜、私そんなに呆けてないもん。…陽子ちゃんの馬鹿、課題手伝って上げないよ?」

予想外の反撃に慌てる、これはもう刺激しない方が良さそうだ。

「おっと、そりゃ勘弁。あたしが悪う御座いました。どうか平にご容赦を〜」

地面に座り込み、南無南無と拝み始めると今度は、はとちゃんが慌てた声を出す。

「わっ、そんな事しないでよ!ほら、みんな見てるし。許す、許すから陽子ちゃん立って!」

…本当にからかい甲斐のある子だ。

笑いを噛み殺しながら、追い立てられる様にアパートの部屋へと移動する。

玄関の戸を閉めた所で溜息をつくはとちゃん、

此処で笑うと流石にマズイけど、疲労感の漂うその姿がおかしくて仕方ない。

「いや〜良かった。お世話になります」

「…陽子ちゃん、全部計算してやってるでしょ…」

だから上目遣いに睨まれても、全然迫力ないって。

「そんな事ないない。ほら今度何か奢るから…ね?機嫌直して、はとちゃ〜ん」

「あぅ、分かったから抱きつかないで。うぅ〜、こういう所が怪しいって言ってるのに…」


そんな日常のやり取りの中でも、冷静に気持ちを抑えなければ、すぐに流されそうになる。

苦しい心の葛藤、でもまだ…大丈夫、さっきまであった胸のつかえは消えているし、

何時もと同じ…変わらない関係、これでいいんだ、これで…。




今年の夏。

パパさんの実家から帰って来たはとちゃんは、何処か元気がなかった。

声を掛けても上の空で、一時は本当に心配したけど、

最近になって、ようやく調子が戻って来たみたいで…。

「陽子ちゃん、色々ありがとね。私、陽子ちゃんの友達で良かった…」

夏休みの最後の日、一緒に遊んだ…はとちゃんに言われた言葉。

今思えば、あれがきっかけの一つだったのかも知れない。

日を追う事に強くなる想い。

伝えられない想い。

…相手が男なら、こんなに悩みはしなかっただろう。

明かりの灯った居間で、まだ電源は入れていない炬燵に座ったあたし達。

テーブルの上に広げられた課題の山と格闘しながらも、頭に浮かぶのは別の事で、

いけないと分かっていても、隣で難問に唸る、はとちゃんの横顔を…つい盗み見てしまう。

そして不意に目が合った。

「んっ、どうしたの、陽子ちゃん。あ、質問かな?」

「そ、そうそう。此処なんだけどさ…」

思わず焦った拍子で、簡単な問題を指差してしまった。

自分のミスとはいえ、これには流石のはとちゃんも表情を曇らせる。

「えーと、って陽子ちゃん。いくらなんでも、これ位は解けなきゃ駄目だよ」

「いや〜、面目ない。無知なあたしに一つご教授を」

引きつった笑みで拝んでみるが、取り合ってくれない。

「駄目、こういうのは自分で出来て、初めて身につく事なんだから」

「…こんなに頼んでるのに?」

「どんなに頼んでも、だよ。意地悪じゃなくて、私は陽子ちゃんの為を思って言ってるんだよ?」

何となく答えは解っていたけれど、冷たい態度が少し寂しい。

それにここまで言われては、無理にでも教えて欲しくなる。

「はとちゃん、お願いっ!愛してるから〜」

「わっ、だから抱きついても駄目な物は駄目だって…きゃっ!」

バランスを崩したはとちゃんの体が床に倒れ、支えを失ったあたしも、それに続く様に倒れこむ。




「………………」

「………………」

腕の下で、はとちゃんの体が小さく震える。

お互いの息使いが聞こえそうな程、至近距離に迫った顔と顔。

体勢としては、はとちゃんを押し倒した格好なんだけど…。

無言のあたしを不思議そうに見上げるはとちゃん、

その子犬の様な瞳と、乱れた髪が何処か艶っぽくて、心臓の鼓動がどんどん激しくなっていく。

「えと、陽子…ちゃん。どいて…くれるかな?」

そうだよ、早くどかなきゃ、でも体が動いてくれない…。

「陽子ちゃん、どうしたの?」

どうしたんだろう、いけないって分かってるのに、分かってたのに…。

「あの………」

ゴメンね、もう、自分を押さえ切れそうにないんだ。

もっと近くで、はとちゃんを感じたい…。


「はとちゃん、キス…してもいい?」

「…え、ええぇ!よ、陽子ちゃん。何言って…」

驚いたはとちゃんの顔が、見る間に赤くなっていく。

だが、あたしの真剣な表情に気づいたのか、視線を彷徨わせながら黙り込んでしまう。

「…嫌なら、そう言って。まだ、冗談で済む内に…」

「陽子…ちゃん…、私…」

はとちゃんの言いたい事は分かる。

この状況で、突然こんな質問をされたんだから、戸惑って当然。

けれど、あたしはもう…覚悟を決めた、嫌われても、怖がられても構わない。

ただ…答えが欲しい、他の誰でもない、目の前にいる大好きな人の、その口から…。


「………いいよ」

「………えっ?」

聞き間違いか、そう思ったのも一瞬、はとちゃんの目が…真っ直ぐにあたしを見つめていた。




「…陽子ちゃんなら、キス…されても…いいよ」

「はとちゃ、え、あっ…。その、本当…に?」

言い出したあたしが慌ててどうするのか。

でも、確認せずにはいられなかった。

「もう一回言うけど、キス…だよ?ほっぺたにとかじゃないし、

 目を瞑った所でデコピンとかの悪戯でもなくて、本当に…するんだよ?」

「うん、分かってる。少しビックリしたけど…」

頭の中が真っ白になる。

動揺するあたしとは対照的に、落ち着き払った様子のはとちゃん。

いや、よく見れば体が緊張気味に強張っているけど、あたしの方はその比じゃない。

「何で、そう思ったの?」

聞きたい、この状況に流されての了承だとしたら、あたしは理性を総動員して止めるつもりだった、

けれど、はとちゃんの返答は、あまりに単純な物で…。

「だって、私…陽子ちゃんの事が好きだから。好きな人になら、されてもいいかなって」

「………はとちゃん、あんたって子は…」

夢にまで見た言葉、それをあまりに簡単に言われて呆気に取られる。

あたしがその台詞を言おうとして、何度思い止まり悩んで来たか…問い詰めて聞かせてやりたい位だ。

体中の力が抜けて、はとちゃんの胸に倒れこむ。

「はぅっ、陽子ちゃん、重い〜!」

「失礼ねっ!これでもダイエットしてるんだから」

さっきまでの、緊迫した空気は何処へやら…。

真剣に悩んでいた自分が馬鹿みたいに思えて、自然と笑みがこぼれる。

単身崖から飛び降りたつもりが、実は1m位の高さしかなくて、しかも安全マットまで敷いてあった、

例えるなら、そんな感覚だろうか。

「あたしも…好き、はとちゃんが大好き…。…はぁ、ようやく言えたわ」

「えへへっ、私達…何だか可笑しいね。もっと早く言えば良かったのに…」

全身に広がる妙な、それでいて心地良い安堵感、それに身を任せていると、背中にはとちゃんの手が回された。

「陽子ちゃんの体、暖かいね…。それに凄く、良い匂いがする…」

あたしの髪に鼻を擦りつけながら、恥ずかしい台詞を躊躇いなく使って来る。

これを打算抜きの、素でやってるのだから、やっぱり…はとちゃんは大物だ。




「さて、有言実行といきますか。はとちゃん…いいんだよね?」

「う、うん。でも初めてだから、優しくして…」

ゆっくりと瞼を閉じた、はとちゃんの顔に、自分の顔を近づけていく。

桜色に染まった頬、僅かに開いた唇、目の端で光る小さな涙。

多分、この世界で一番あたしが愛しいと思える存在が今、目の前にいる。

それを壊さない様に、怯えさせない様に、あたしはそっと…唇を重ねた。

「ふぁ、…ん…ぁ…、はぁ…」

軽く触れるだけの短いキス。

正確には息継ぎのタイミングが分からないのと、緊張で、口を離してしまったんだけど…。

「どう…だった?あたしも、その…初めてだから、感想は…」

頭が混乱して気の利いた台詞が出てこない、それでも何とか問い掛けると、

薄く目を開けたはとちゃんが、恥ずかしそうに微笑んだ。

「ん〜、上手く言えないけど。何か、陽子ちゃんの事…もっと好きになった」


………撃沈した。

さっきもそうだが、何故そんな台詞を簡単に言えるのか…。

それが、はとちゃんの魅力の一つだと分かっていても、

あまりの威力に理性が何処かへ吹き飛びそうになる。

そんな土俵際のあたしに追い討ちを掛けるが如く、はとちゃんが妖しく笑い…顔を近づけて来た。

「陽子ちゃん、もう一回…しよ…」

「は、はとちゃんっ。ちょっと待、…んぁ…むうっ!?うぅ、…ふっ、あぅ、ん…」

いきなり口に舌を入れられて、少し驚く。

一体何処で覚えたのか、今度のは完全に大人のキス。

しかも背中に回っていた筈の手が、何時の間にか頭の後ろで交差されていて、

あたしの方から離れ様にも、離れる事が出来ない。

そして口内や唇を散々舌で舐められた後、ようやく開放される。

「ぷはっ、はぁ、…あぅ。はと…ちゃん、ちょと、やり過ぎっしょ…」

「…ふぅ、へへっ、そかな…。ゴメンね、なんか夢中になる位、気持ち良かったから…」

駄目だ、これじゃどっちが誘ったのか分からない。

取り合えず、荒い息を落ち着ける為に深呼吸を繰り返す。




しかし、はとちゃんがこんなに大胆だとは思っていなかった。

あたしの予想だと、顔を真っ赤にしながら俯いて「もう…いいよね…」とか言う筈だったのに。

今後の為に、此処は一つ先手を取ってリードしとかないと…。

「ふふっ、ね、はとちゃん。もう少し…Hな事しよっか」

「え、陽子ちゃん…何を、…あんっ」

制服の上から軽く胸を触ってやる。

甘い声が漏れたのを聞いて、次は指で優しく揉み上げていく。

「はっ…あぅ…、陽子ちゃ…んあぁ…」

「うわっ、胸…柔らかい。それに先っぽが、こんなに硬くなってるし」

布越しでもはっきりと分かる、先端の突起を爪で引っ掻くと、

その体が痙攣した様に跳ね上がった。

「くぅうっ、それ…だめだよぉ。服に擦れ…て…ひぅっ、先っぽ…痛い…」

トロンとした眼つきのはとちゃんだが、抵抗する素振りはまったくない。

むしろ自分から誘う様な視線で、あたしを見て来る。

なんか…凄くいやらしいかも…。

「はとちゃん、自分でした事あるでしょ…?」

その質問に今度は予想通り、赤らめた顔を俯けて…小声で喋る。

「う、うん。何回かだけど…ある…」

誰を想ってかは聞かなかったが、素直な答えに、あたしの欲情が昂ぶっていく。

「それじゃ、こっちも…いいよね」

はとちゃんのスカートの中へと手を伸ばし、下着の上から秘所を弄る。

湿り気を帯びた其処を、割れ目にそって撫でると、一際甲高い声が響いた。

「ひゃあっ!んんっ、はぅっ、あぁ…陽子ちゃ…ぁ、気持ち…いい…」

「…凄い濡れてきたよ、ふふっ、可愛い。もっと…もっと声出して」

自分の体も、さっきから下半身が疼きっぱなしだが、今は我慢だ。

だらしなく喘ぐ、はとちゃんの下着を引っ張り上げて、濡れた割れ目に食い込ませる。

「あっ、あっ、あぁ!だめぇ…もう、かはっ…ィ、イッちゃうっ!」

「いいよっ、はとちゃんがイクとこ見せて、あたしに見せて、ほらっ!」

さらにきつく下着を引っ張りながら、服ごと胸の先端を噛む。

「くあぁっ!あはぁあぁぁあーーーっ!!」




あれから一息ついた後も、あたし達は同じ格好で寝転がっていた。、

悔しいけどあたしより僅かに大きい、はとちゃんの胸に顔を埋めたまま、静かな時が流れていく。

「ねぇ、陽子ちゃん。…陽子ちゃんは、私の何処を好きになったのかな?」

「…何処って、う〜ん、急にそう言われても…」

思案するあたしの頭を、はとちゃんが優しく撫でて来る。

「私はね、陽子ちゃんと一緒にいると、すっごく安心する。何て言うか、元気が溢れて来るみたいな。

 お母さんが死んじゃった時も、経観塚から帰って来た時も…陽子ちゃんがいたから、

 陽子ちゃんが励ましてくれたから、しっかり前を向いて、頑張らなきゃって、そう思えた」

「そんな…止めてよ。そんな事言われたら…あたし…」

「ううん、言葉じゃ伝えられない位、私…陽子ちゃんに助けられて来た。

 女の子同士なんて…そう思った事もあったけど、この気持ちは…変わらないよ。

 私は、陽子ちゃんが大好き。だから陽子ちゃんも、私の何処が好きなのか、聞かせて欲しいな…」

どうしても、あたしに恥ずかしい台詞を言わせたいのか、

真面目な表情の中で、悪戯っぽく笑った目が小憎らしい。

だがここで真面目に答えては、長年はとちゃんをからかい続けて来た、あたしの矜持に関わる。




「そうね〜、まぁ、強いて言えば…全部かな」

「むぅ、なんか凄い適当…」

はとちゃんの顔が不満気に変わるけど、本気でそう思っているのだから仕方ないだろう。

何処がと聞かれても、全部としか答えられないし、嫌いな所なんて一つもない。

恋は盲目…とはよく言った物だ。

「もっと他にないの?例えば、えと…んと…うぅ〜」

「…何でそこで悩むのよ。心配しなくても、さっきのがあたしの本音。嘘なんかついてないし、

 そんなに言葉で聞きたいなら、窓開けて外に向かって<はとちゃん、大好きっ!!>って叫ぼうか?」

そう言って立ち上がろうとするあたしを、はとちゃんが必死になって止めて来る。

「あぁ!ゴメンなさいっ、もう四の五の言いませんから、それだけは〜!」

ふっ、勝った…大体、あたしをからかおうなんて十年早い。

結構大胆だったり、自分の想いに正直な所とかには頭が下がるけど、そうそう負けてばかりじゃ、

…と膝立ちで悦に浸っていた、あたしの目に、ある物体が映った。

我に返って窓の外を見ると、そこはもう真っ暗…。

背中に冷や汗が流れたのを感じつつ、これから修羅場を共にするであろう相棒に声を掛ける。




「ねぇ、はとちゃん。一つ、もの凄い問題があるんだけど…」

「へっ、何…陽子ちゃん。怖い顔して…、どうかした?」

鈍いはとちゃんに分かる様、ゆっくりと炬燵の上を指差す。

「………あっ」

そこにあるのは、大量の、それでいてちっとも終わっていない…課題の山。

わざわざ二人でやろうとしたのは、当然一人ではキツイからであって…。

当初の計画では、夕方に進めるだけ進めて、適当に夕飯を食べ終えた後、ラストスパートの流れだった筈。

その一番頑張るべき時間は、もうとっくに過ぎてしまった訳で、詰まる所…大ピンチだ。

「ああぁっ!課題っ!課題やってない、ど、どうしよう!?」

「落ち着くのよ、はとちゃんっ!今からやれば、まだ間に合うわっ!」

「そんな、もう晩御飯食べ終わる時間だよ…」

「諦めたら、そこで終わりよ!二人でやれば絶対何とかなるって。とにかく、あんたはまず着替えなさい」

動揺するはとちゃんの肩を掴み、力強く言い聞かせる。

するとそれが合図だったかの様に、はとちゃんの表情が笑みに変わった。

「う、うん。そう、そうだよね。二人でやれば、何とかなるよね!」

「よし、その意気だ。それじゃあたしは、親に遅くなるって連絡するから」

…根拠のない空元気でもいい。

それが、はとちゃんの力になるのなら、あたしは声の続く限り励まし続けよう。

たまに失敗したって二人一緒なら怖くない、だから、何処までも…何時までも…。

「陽子ちゃん、晩御飯は私が作るから、炬燵の上かたしといてー!」

そんなあたしの感傷的な想いを、自室に消えた、はとちゃんの声が遠慮なく吹き飛ばした。

「な、なぬっ!?ちょっと待て、んな事したら明日腹痛で欠席になるって〜!!」

…やっと通じ合った心と心、嬉しいけど、これから色々面倒な事になりそうだ。

「ま、どうなったって、ど〜んと受け止めてやるかな。だって、はとちゃんは、あたしの…」


―――――――大切な人だから―――――――




END「陽光に包まれて」