「桂、私は自由になりたいのよ!」

「―――――っ!」

ノゾミちゃんの叫び。

それが固まっていた私の体を突き動かす。

鬼と成ったノゾミちゃんが唯一つ望んでいた事、それは主の復活じゃなかった。

外の世界への渇望、何者にも縛られない…自由。

なら私は、私がノゾミちゃんを!

ミカゲちゃんに力の供給を止められている以上、チャンスは今しかない。

良月を持った傀儡まであと一歩と迫る…が、

突然脚に衝撃がはしった。

バランスを崩した私はそのまま地面に倒れこむ。


「痛ぅっ!な、何?」

慌てて足元を見る、と其処には、私の足首を掴むもう一人の傀儡がいた。

一体何処に隠れていたのか、絶望が頭をよぎる。

「お願い…離して、離してよ!」

無茶苦茶に脚を動かして、傀儡を蹴る、けれど手は足首をしっかりと掴んで離さない。

「桂、はや…く、私…もう」

「ノゾミちゃん!」

今にも消えてしまいそうなその姿。

気持ちばかりが焦って、体がうまく動かない。

私の馬鹿、こんな時まで足手纏いになるなんて…。

「姉様、そろそろ…お別れです」

ミカゲちゃんが嗤う。

紅い力を纏った手が…ゆっくりとノゾミちゃんに向かって…、

(姉様!)

その時、良月から不思議な声が響いた。


唐突にミカゲちゃんの動きが止まる。

今、聞こえた声は…ミカゲちゃん?

けれどその当人は、口を閉ざし、身動き一つせず固まっている。

一体、何が起こったのか…。

(姉様、大丈夫ですか?今…力を送ります)

「…ミカゲ?あなた何を言って」

(それを話している暇はありません、けれど信じて下さい。今の私は姉様の良く知るミカゲです)

その証拠か、消えかけていたノゾミちゃんの体が鮮明になっていく。

「これは…!ミカゲ、本当にミカゲなの?」

(はい、そうです姉様、ですが急いでっ…私が…分霊の…主様の意識を抑えている間に、くぅ…早く良月を!)

見れば傀儡の動きもピタリと止まっている。

私は足首を掴む手を無理やり引き剥がすと、鏡を持つ傀儡に突進した。


「えぇ―――い!!」

体ごとぶつかる様なタックル。

動かない傀儡の手から良月が離れ、月光を反射しながら空を舞う。

スローモーションの様に時間の流れが遅くなり、ゆっくりと地に落ちていく良月。

その軌跡を追う私の視界で、何かが高速で動いた。

地面に落ちる寸前で、白い手が良月を拾い上げてしまう、それは…、

「ミカゲ、どうして!」

鏡を割れといった本人が、今度は割ろうとした鏡を守る。

もう訳が解らない、さっきまで聞こえていた声は一体何だったのか…。

その矛盾した行動に首を傾げながら、私は一つの可能性を思い浮かべた。

もしかしたら、ミカゲちゃんの体の中で、何かが起きているのかもしれない。

ノゾミちゃんも同じ事を思ったらしく、注意深くその挙動を見つめている。


「ノゾミちゃん、体は大丈夫?」

「ええ、さっきよりは大分マシだわ、でもミカゲ…一体何を考えているの、

 分霊を抑えるって、どういう事よ…」

私達の視線を受けたミカゲちゃんが、ゆっくりと俯けていた顔を上げる。

そしておもむろに言葉を発した。

「やれやれ、こうも予想外の事が続くとはな」

「えっ…!?」

違う…、

今までの、ミカゲちゃんの口調じゃない…。

自信と傲慢に満ちた男言葉が、その口から紡がれていく。

「よもや分霊に別の意識が芽生えるなど、考えもせんかったが、くく、それを見抜けぬ私もまた滑稽よ」

自分を罵りながらも、不遜な眼差しを私達に向けるミカゲちゃん。

否、これはミカゲちゃんじゃない。

もっと禍々しい、別の存在だ。

「まさか、主様が…何故…此処に!」

ノゾミちゃんの体が震えている。

主…、ノゾミちゃんの意識の中で見た、紅い蛇神。

「本体ではないがな、良月に残した我が分霊の本来の意識、それが今の私だ」

「分霊の、本来の意識…?」

「そうだ、しかし望、お前の良月に懸ける想い…少々見誤っておったわ、いや、正しくは双子の妹への想いか…」

「私のミカゲへの想い…」


夜風が私達の間を吹き抜けた。

その風にミカゲちゃんの正体である、分霊の忌々しい声が混じる。

「長き年を経た物には、持ち主の念が宿る。鏡などは特にな…、お前の御影に対する

 恨み、怒り、憧れ…そして強い依存の念が、分霊に別の意識を生み出した、

 それが私の意識を抑える程に成長していたとはな…」


「じゃあ、さっき聞こえた声って…」

「私が生み出した、ミカゲの意識、ならミカゲ!そこに存在するなら答えて!」

ノゾミちゃんが必死に呼びかける。

だが帰って来るのは分霊の嘲笑のみ。

「無駄ぞ、先程は何かの偶然で意識が現れただけ。それよりお前達は自分の身を案じた方がいい」

分霊の纏う紅い力が揺らぎ、大きさを増していく。

そして再び、ノゾミちゃんの表情が苦悶のそれに変わる。

「くっ、あうぅ!」

「ノゾミちゃん、体が…」

伸ばした手が体を僅かにすり抜けてしまう。

このままじゃ、さっきの繰り返しになるだけだ。


「桂、聞きなさい」

「ノゾミちゃん…」

「今から私の全ての力で、分霊の動きを封じるわ。…いくら主様の意識があろうとも、

 良月を割れば、消滅させられる事に変わりはない筈、だから…」

「うん、でも…本当に、いいの?」

「…やらなければ、あなたも死ぬのよ?私の心配してる場合じゃないでしょう」

覚悟を決めたノゾミちゃんの顔、それは苦しげなままだけど、その目には強い意志の光が宿っている。

「ふふ、本物のミカゲもいるみたいだし、もう怖い物なんて何もないわ」

一歩、ノゾミちゃんが前に踏み出す。

私も覚悟を決めて、何時でも飛び出せる様に、脚に力を込める。

「さぁ、行くわよ!はぁぁあぁあああ!」

気合一閃、風を切ってノゾミちゃんが分霊に駆けて行く。

私もその後を追う。

ノゾミちゃんは諦めていない、自分の身を削ってまで私の為に戦っている。

ならば今度こそ、その想いに答える、絶対に!


「あくまでも向かってくるか、愚かな…、己の分際を弁えろ!」

分霊の力が膨れ上がり、圧力が烈風となって押し寄せて来る。

怖い、逃げ出したい、でも…ノゾミちゃんは止まらない。

だから私も、前を走る小さな背中を信じて、風の中に飛び込んだ。

「このぉ―――――!!」

ノゾミちゃんが練り上げた力を放つ。

それは巨大な何本もの糸となり、分霊の体を縛り上げた。

「桂っ!」

「うんっ!」

「…この程度か…」

分霊の持つ良月に手を伸ばす、しかし…、

戒めを一瞬で無効化した分霊がそれを阻んだ。

「貴様は生きてさえいればいい…邪魔をするな」

分霊の力が私に向かって放たれた。

駄目、避けられない…。

「させないわ!」

ノゾミちゃんが私の前に両手を広げて立ちはだかる、直後、

目を焼く程の紅い光がぶつかり合った。

「くぅあああぁぁ!」

ノゾミちゃんの絶叫が響き、私は自分の無力さに、思わず唇を噛む。

(姉様、桂、諦めてはいけません)

「ミカゲちゃん!?」

再び聞こえた声、それに、分霊の顔が驚愕に変わった。

「馬鹿な!こんな事が…おのれ御影ぇえぇ―――――!!」

分霊の力が勢いを失い、逆にノゾミちゃんが押さえ込んでいく。

「力が、溢れる…、ミカゲ、あなたなの?」

(そうです、姉様…負けないで!)

「これなら、いける!桂、今よ!」

歯をくいしばり、無法備になった鏡を奪い取る。

そして私は良月を、思い切り地面に叩き付けた…。


「何故、我が意識が、負けたのだ…?御影…それ程までに、望の…事…を……」

倒れた分霊から、紅い蛇の様な物が空へと昇っていく。

虚ろに響き渡る分霊の声。

やがてそれも聞こえなくなり、辺りは静寂に包まれた…。

「やった…の?」

「そう…みたいね、よくやったわ…桂」

振り返ると、ノゾミちゃんがこっちに歩いてくる。

その足取りは、ひどく頼りない。

そのまま私の横を通り過ぎ、地面に倒れたミカゲちゃんの傍に座り込む。


「ミカゲ、起きて、ミカゲ!」

「………あ、姉…様」

肩を揺さぶられたミカゲちゃんが、ゆっくりと目を開ける。

「ミカゲ!………よかった」

「ミカゲちゃん、大丈夫?」

私も傍に駆け寄る。

「主様の意識が…消えている。良月を、割ったのですね…」

「そうよ、ミカゲが私に力を送ってくれたから…」

ノゾミちゃんがその体を優しく抱きしめ、ミカゲちゃんも安心した様にその身を任せる。

その時、二人の体から、淡い光が漏れ出した。

「どうやら…もう」

「限界の…様ですね」


「そんな!二人とも、駄目だよ…まだ消えちゃ駄目だよ!」

やっと自由になれたのに、…こうなるって事、頭では解ってた。

…でも、それでも!

私は二人を抱き寄せる。

「ねぇ、本当に、どうにもならないのかな?私の血を飲めば、助かったりしないかな?」

必死に二人に尋ねる。

けどノゾミちゃんも、ミカゲちゃんも、揃って寂しそうに微笑むだけ…。

「無理よ…桂、例え血を飲んだとしても、霊体のままでは、長くは持たないわ」

「私達にはもう…力を受け止める、器が無いから」

足元の砕けた良月の破片を見る。

器、二人の依代となる様な物。

何か、何かないのか。

うろたえる私に、二人の優しい声が掛かる。

「もういいのよ、私は外の世界を見る事が出来たし、貴重な贄の血を飲む事も出来た、

 そして、ミカゲ…本当のおまえに、やっと会えた…」

「私は、姉様の念が生み出した存在。だけど、この世界に生まれる事が出来て…良かったです、

 いつも、主様の意識の片隅でしか、居場所がなかった私だけど、やっと姉様の助けになれた…」

嫌だよ、二人共そんな、満足した顔で笑わないで…。


二人を包む光が強まり、その姿が徐々に霞んでいく。

「うぁあ、駄目!私、絶対に諦めないから、諦めないから!だから二人共…消えちゃ…駄目…」

頬を涙が伝う。

どうすれば、お願い、誰か…二人を助けて。

「私達の為に、泣いてくれるの?…どうして、出合ったばかりの、あなたを傷つけた鬼なんかの為に…」

「わかんないよ、そんなの。でも二人共やっと一緒になれたのに、私もノゾミちゃん達に、

 会ったばかりなのに、こんな別れ方…嫌だよ!」

ミカゲちゃんの手が、私の頬にそっと触れる。

「桂、あなたは、優しい人ですね。それに…とても暖かいです。鬼である私達が、

 人の温もりに触れる事が出来た、それだけで、もう十分…」

「ミカゲ…ちゃん」

頬を触れる手が、消えていく。

抱きしめている筈の体が、消えていく。

互いを見つめ合う、二人の笑顔が、消えて…、

突然、辺りに場違いな音が鳴り渡たった。

それは…私の携帯の着信音、脳裏に浮んだ、青い蝶のお守り。

「………あ」


あれから、一年の月日が流れた。

再び巡ってきた夏、けど、今年はいつもと少し違う。

私があの二人と出会い、共に迎えた、初めての夏だから…。

「桂!ちょっと、聞いてるの?」

「ふーんだ、知りませんよー」

「もう、ミカゲも何か言いなさいよ!」

「…あれは、流石に姉様が悪いと思いますが…」

学校からの帰り道。

鳴ってもいない携帯を片手に歩く私。

道行く人々には、私が電話で喋っている様にしか見えないだろうけど。

「ミカゲ、お前まで私のせいだと言うの!」

「授業とやらを受けている時は、静かにしていると約束したのに、

 それを破って騒いだのだから、やはり姉様が悪いです」

「この、生意気ね、待ちなさい!」

…と、まあ実際の所、普通の人には見えないだけで、私の周りはいつも賑やかです。

あの時、消える寸前で、私の持つ青いお守りを新たな依代として使った二人。

もし、あれが間に合わなかったらと思うと、今でもゾッとする。


「桂、助けて。姉様が苛めます…」

スカートの端を掴んで、上目遣いに懇願してくるミカゲちゃん。

はっきり言って、反則級の可愛さだ。

思わず抱きしめたくなる衝動を抑え、ノゾミちゃんを嗜める。

「もう大人気ないな、これじゃどっちがお姉さんか分らないよ」

私の言葉に、ノゾミちゃんの顔が真っ赤に変わった。

「桂!あなた、最近ミカゲに甘いわよ」

「そ、そんな事ないよ、ね?ミカゲちゃん」

すると、ミカゲちゃんの体がふわふわと浮き上がり、私の手に腕を絡ませた来た。

「ふふ、桂♪」

あぁ、そんな嬉しそうに笑うとまたノゾミちゃんが…。

「むううぅぅ…桂!夜になったら、覚えてなさい!」

その言葉に、今度は私の顔が真っ赤になる。

「ノゾミちゃん!そんな事を大声で言わないで!」

この場合の<夜>という単語は、私達にとっては特別な意味を持つ物で…。

声が聞こえているのは私だけだと解っていても、かなり恥ずかしい。

はぁ、今夜は大変な事になりそうだ…。


さて、家に帰って来て、課題やって、御飯も食べたし、歯も磨いた。

明日は日曜日だから、今日は少し夜更かしして、

録画して置いた笑○や水戸○門などのビデオを、居間で鑑賞する。

背後から、私を見つめる二つの視線を感じるけど、き…気にしない。

「ノゾミさん!ミカゲさん!懲らしめてやりなさい!…なんちゃって…」

うわ、視線が痛い、しかも突き刺す様な感じに変わったし。

「桂、悪足掻きはよしなさい」

「そうです、それに今更、恥ずかしがらずとも」

はい…ごめんなさい…誤魔化してすみません。

「じゃ、じゃあ、そろそろ寝よっか?」

ぎこちなく振り返り、引きつった笑顔を二人に向ける。

「決まりね」

「決まりですね」

二人の体が、霊体から実体に切り替わる。

そのままガシッと両手を掴まれ、私は部屋へと引きずられていく。

あぁ、また流されてる…。

けど団結した時のこの二人には、逆らえる気がしないし、もうどうにでもなれだ。

いつも寝ているベットに座らされ、部屋の電気が消える。

「「桂…」」

二人が誘う様な声を出し、私にもたれかかって来た。

勝気な瞳と、控えめな瞳が、じっと私の顔を見つめる…。

月明かりに照らされた、二人の白い顔…その神秘的なまでの美しさに、

心臓の鼓動が、どんどん激しくなっていく。

「二人とも、すっごく綺麗だよ、なんだか触れたら…壊れちゃいそう…」

ミカゲちゃんが意外そうな声を上げる。

「あら、私達はそんなに繊細には出来てないわよ。ねえ、ミカゲ」

「はい、だから桂。遠慮せずに、もっと触って下さい」

優しく微笑する、ノゾミちゃんと、ミカゲちゃん。

そんな顔されると、余計に緊張しちゃうよ…。


「もう、何時になったら慣れてくれるのよ」

ノゾミちゃんが呆れた声を漏らす。

「そんな事言われても、それに慣れたらって、それはそれで問題な様な気が…」

煮え切らない私の態度に、二人が溜息をつく。

「そんな桂も、魅力的なのですが…、姉様」

「ええ、やるわよ、ミカゲ」

ちょっと、何…二人だけで意気投合してるのかな?

いきなりノゾミちゃんの白い手が、私の顎にかかる。

これは、前にもこんな状況が…。

「桂、私の目を見るのよ」

「え………」

紅い瞳が私を捉える。

一瞬だけその目が光り、軽い衝撃が頭を突き抜けた。

「あぅ!ノゾミちゃん、何…したの…?」

「ミカゲ、いいわよ」

私の疑問に答えず、ミカゲちゃんに何事かを促す。

「桂、怖がらないで下さい。ゆっくりと、してあげますから…」

ミカゲちゃんの小さな手が、優しく私の胸を触る。

そこまではいつもと同じだったんだけど…、

「あ、あはぁあうぅ!」

襲ってきたむず痒い快感に、四肢が強張る。

「な、何、私…こんなの、おかしいよ!」

服の上から、軽く触られただけで、こんなに感じるなんて…。

「姉様、少し、効き過ぎではないでしょうか?」

「いいのよミカゲ、桂だって、一回思いっきり乱れちゃえば、素直になるでしょ」

えと、何か、恐ろしい会話してるんですけど。

察すると、さっきのはノゾミちゃんの邪視?

前に、血を飲まれた時、痛みを倍に出来るって言ってたけど、応用すれば、快感も倍に出来たりするのかも。

「ね、ねぇノゾミちゃん、これって、まさか…」

「ふふ、桂が考えている内容で、大体合っていると思うわ」

二人が熱っぽい眼差しで、私に擦り寄って来る。

もしかして…大ピンチ?


ノゾミちゃんの唇が、私の唇に重なる。

その舌が歯の間をすり抜けて、ねっとりと舌に絡まり、唾液を啜っていく。

「姉様、私にも…」

一度、私から口を離したノゾミちゃんが、ミカゲちゃんのそれに唇を重ねる。

「ん、んぅ、はぅ、む、あっ、はぁ…」

双子同士の長いキス。

その見かけの幼さと、艶かしい仕種の差が相まって、見ているだけで体が火照って来る。

「ふふ、ミカゲ、今度は桂に…して上げなさい」

「はい、姉様」

開放されたミカゲちゃんに、私の唇が再び塞がれて、

三人分の唾液がミカゲちゃんの口から、私の口へと流れこんで来る。

瞼を閉じ、頬を桜色に染めたその顔が、欲情を掻き立てる。

「全部飲むのよ、桂」

「う、ん、うむ、ぐっ、ぷはっ…はぁ、ふぁ…」

喉を鳴らして、溜まった唾液を飲み干す。

「桂、とてもよかったです」

目を瞑り、軽く呼吸を整える私に、ミカゲちゃんが甘い声で囁く。

「唾液にまで少し力が含まれているのだから、全く無駄がないわね」

ノゾミちゃんが、濡れた唇を指でなぞる。

「え、そうなの?」

驚いて聞き返すと、ノゾミちゃんが物欲しそうな目で答える。

「勿論、血とは比べ物にならない程、微弱な物だけどね」

「桂の全てが、私達を満たしてくれます」

うぅ、二人とも…なんかいやらしい。

物凄い事想像して、顔から火が出そうだ。


「さあ、服を脱いで」

「う、うん…わかった」

ノゾミちゃん達に背を向けて、パジャマの上下をゆっくりと脱ぐ。

上は何も着けていないけど下着が少し、湿っている。

汗のせいじゃない、その証拠に疼く股間から淫液が溢れ、下着には染みが広がっていた。

赤い顔を俯けながら、私は二人に向き直る。

「これで、いいかな」

食い入る様に私を見る二人の視線が、羞恥心を煽る。

「桂の肌って、いつ見ても綺麗ね」

ノゾミちゃんの手が、太股を這う。

「スベスベしてて、胸もとっても柔らかいわ」

「ノゾミちゃん…そんな、あ、はぅう…」

「それに今日は感度も倍だし、楽しめそうね」

ミカゲちゃんも私の肌に触れて来る。

自分の顔を、お腹や足に擦り付けるその仕種が、まるで猫の様だ。

「姉様、桂だけ脱いでは可哀想です。私達も…」

「そうね、それじゃあ」


二人が帯を解き、着物を脱いでいく。

いつも思うけど、下着無しって恥ずかしくないのかな。

それとも普段、私以外の人には見えないから、もともと気にもしていないのか…。

二人の足元に、脱ぎ終えた着物が落ちる。

まだ発達途中で、時が止まっている幼い肉体。

けど、それが、なんとも言えない妖艶な色香を放っている。

それは人を惑わす、鬼と呼ばれる物だけが生まれ持った、一つの魅力なのかも知れない。

呆けた様にその体を見ていた私と、二人の視線が交わる。

そして鬼の名に相応しい、妖しくも美しい顔で私に微笑む。

「「…桂、始めましょう…」」


二人の手が、私の胸を弄る。

小さな子供がじゃれついて来るのとは違う、巧みな手の動き。

わざと焦らす様に、乳首だけは触れずに、その周りを執拗に責め立てて来る。

「あ、あん…はぁ!はぅ…ふあぁあ…」

邪視のせいで、普段より敏感な私の体。

弱点なども全て二人に知られているので、焦らされると余計に切なくなっていく。

「あら、どうしたの桂。何か言いたそうだけど」

「ノゾミ…ちゃん、意地悪しないで…」

「ふふ、ならどうして欲しいか、ちゃんと答えなさいな」

「そ、そんな事…はひぁう!」

ミカゲちゃんの舌が鎖骨を這う。

けどその手は、胸の先端に触れる寸前で止まり、乳輪をなぞる様に動く。

限界まで硬くなった乳首が痛い、もう駄目…。

「…お願いだから、先っぽ舐めて…」

蚊の鳴く様な私の声に、ノゾミちゃんが満足気に笑う。

「よく言えました、偉いわよ桂。ご褒美をあげるわ…ミカゲ」

「心得ています、姉様」

ミカゲちゃんの熱い吐息が、胸の先端を湿らせる、そして…、

「あっ…あ…、あはぁう!か、噛んじゃ駄目えぇえぇぇ!」

甘噛みされた乳首から、快感が頭を突き抜けて、体が痙攣する。

全身の力が抜けて、そのままベットに倒れこんでしまう。

「なによ桂、もう達してしまったの?」

荒い息をつきながらノゾミちゃんに答える。

「だって、ミカゲちゃん、噛むんだもん。…舐めてって、お願いしたのに…」

「ふふ、桂のが、あまりに美味しそうだったから…つい」

うぅ、ミカゲちゃんの馬鹿。


放心したのも束の間。

倒れた私に、二人が圧し掛かって来る。

「え、ちょっと、嘘でしょ?私イッたばかりだし、あの…聞いて、きゃあぅ!」

二本の手が染みの広がった下着の中に潜り込み、私の割れ目を弄る。

息の合った二人の愛撫に、淫液が次々と溢れ出ていく。

「まあ桂ったら、はしたないわね、こんなに濡らして…」

「あぁ、嫌ぁ、言わないでっ…」

「割れ目の此処も、硬くなってます」

「ミカゲちゃんそこはっ!そこ触ったら…また直ぐに、あうぅ!駄目ぇ…」

一番弱い所を責められ、また気が昂ぶって来る。

口元が涎で濡れてるけど、拭う余裕なんてない。

全身を駆け巡る快感にシーツを握って必死に耐えるが、二人の愛撫がそれをも許さない。

「姉様、胸の方が寂しそうです。共に噛んで差し上げましょう」

「この状態で胸も責めたら、桂が壊れてしまいそうだけど、…それもいいわね」

見つめ合った二人が妖しい笑みで私を見る。

そんな、ミカゲちゃんだけでもイッちゃったのに、今二人にされたら…。

「安心して、桂。責任はちゃんと取ってあげるから」

私の心情を読み取ったのか、ノゾミちゃんが真面目な顔で、全然嬉しくないフォローを入れてくる。

「やめてぇ…お願いだから、そんなのされたら…おかしくなっちゃうよぉ!」

懇願しても二人は止まらない。

お腹の辺りから、生暖かい舌の感触がゆっくりと這い上がって来る。

嫌な筈なのに、体が反応してしまい、自分ではもうどうしようもない。


「こんなに硬くしちゃって、可愛い」

「駄目、だめだってばぁ!」

「口ではそう言ってますが、桂の此処…また濡れてきました。本当はして欲しいのでは?」

「ち、ちがっはうぅ!ミカゲちゃん指を、あぁ、はぁ、もう…許してよぉ…」

体が熱い、いや熱いなんて物じゃない。

風邪を引いた時に似てるけど、感じるのは倦怠感ではなく、気が狂いそうな快楽だ。

耳に聞こえるのは自分の喘ぎ声のみで、視界が涙で歪んでいく。

「せーので、上と下、両方責めるわよ」

「はい、姉様。どうなるか楽しみです」

…もう…わからない…何もかも…。

「「せーの」」

ノゾミちゃんとミカゲちゃんの声が揃い、

全身を何かが貫いた。

「―――――っはああぁああぁあぁあ!!」

真っ暗な部屋が白光に染まった気がした。

割れ目から盛大に淫液が噴出し、噛まれた胸が疼く様に痛む。

「…あ、あひぃ、ひぅ、うぅ、あ、かはっ…」

目の焦点が定まらない、世界が滅茶苦茶に回っている。

かろうじて聞こえる耳に、二人の声が響く。

「うふふ、可愛い桂」

「私達だけの桂」

「「…誰にも、渡さない…」」

涎で濡れた私の口元を、二つの舌が犬の様に舐め廻して来る。

そして、そのまま唇に重なり、私の意識が途切れた………。


「やり過ぎたかしら」

「やり過ぎましたね」


「桂、起きたら怒ると思う?」

「それはもう、烈火の如く怒るでしょう」


「やばいわね」

「やばいですね」


「…逃げましょうか?」

「…逃げましょう」


「でもその前に後始末と…」

「…腹ごしらえですね」


チュンチュン鳴く雀の囀りで目が覚める。

「んあ?…あ、朝かぁ…んぅーーとっ…」

大きく伸びをすると、布団とシーツの色が変わっている事に気づく。

「おかしいな、何で新しいのに…ってそうだ!」

布団を跳ね上げ、大股で居間に向かう。

あの双子は、もう怒ったから。

居間の戸を開けて、大声で怒鳴る。

「ノゾミちゃん!ミカゲちゃん!黙って床に座りなさ、………あれ?」

何時もなら、ふよふよ浮きながら挨拶してくる二人の姿が無い。

部屋の中を見渡すと、テーブルの上に一枚の紙が置いてある。

重石代わりの鈴を退けて、紙を見ると、何やら達筆で文が書いてあった。

「えーと、<桂へ、私達は暫く旅に出ます。その内帰ります。依代は借りましたが、

 力で血の気配は隠れているから安心して。では御機嫌よう>………………」

――――ほほう、つまり、昨日の事は確信犯って訳ね――――

私の中で、何かが切れる音がした。

急いで部屋にとって返し、いつものお気に入りの服を着る。

お守りの無い携帯と財布を掴み、アパートから飛び出す。

宛てなんてないけど、要は気合だ。

「待ってなさいよ、あの二人。絶対に見つけてとっちめてやるんだから!!」

夏の眩しい青空に、私の怒声が響き渡っていった。




END「風を追う光」