「葛ちゃん、いらっしゃい」

「はいです、桂お姉ーさんもお元気そうで何よりです」

久方ぶりに訪れたお姉さんのアパート。

経観塚での出来事以来、正式に若杉の後継者となった私は、毎日の仕事に追われていた。

目の回る様な忙しい日々の連続。

それを、仕事が終わればお姉さんに会える、その一念のみでやりきってきた。

もちろん若杉の後継者という責任もある。

けれどそんな物は、お姉さんと比べれば月とミジンコの様な物でして…。

とにかく、念願叶って久しぶりの対面な訳です。

「葛ちゃん、どうかしたの?」

「は?あ、いえ…やっと桂お姉さんに会えたなと思いまして」

「もう大げさだな、前会ってからまだ一月くらいしか経ってないよ」

「………え?」

…まだ一月…。

それは…お姉さんにとってどの程度の感覚なのでしょう。

私は許されるなら、毎日だってお姉さんと一緒にいたい。

二人でお喋りしたり、ご飯を食べたり、遊びに行ったり…。

私は、それだけを毎日のように考えているのに…。

もしかして、お姉さんは…私とは違うのだろうか…。



居間に通された後も、私の胸中は晴れない。

別に深い意味など無くて、言った事かも知れないのに…。

お茶を用意しているお姉さんを眺めながら、そんな事ばかり頭をよぎる。

お姉さんの休日に合わせて無理をしたから、少し疲れているのかもしれない。

「お待たせ、葛ちゃん」

「いえいえ、お構いなく」

笑顔のお姉さんを見ると、一人で変な事に悩んでいる自分が馬鹿みたいだ。

せっかく会えたのだから、もっと楽しまないと。

「あっ、このお茶美味しいです」

「でしょ!こっちのお饅頭にピッタリなんだよ」

「確かに、なかなかの銘菓ですね。桂お姉さんが買ってきたのですか?」

「ううん、この前、烏月さんが家に来てね、その時貰った物なの」

「………烏月さんが?」

一度静まりかけていた胸のざわめきが、再び大きくなる。

「うん、なんかお仕事の帰りに買ってきてくれたんだって」

「…そう…なんですか…」

「私がお饅頭好きなの知ってたみたいで、嬉しかったよ」

「………………」

「他にも色々お話してね、あっ、その時聞いたんだけど、烏月さんって結構………」



烏月さんがお姉さんに何をあげようと、それはあの人の自由です。

でも、お姉さん…なんでそんなに嬉しそうなんですか…?

烏月さんは、よくお姉さんに会いに来るのですか…?

烏月さんは、お姉さんの唯の友達ですよね…?

では私は、お姉さんの何…?

お姉さんは…お姉さんは…お姉さんは………。

たくさんの疑問が浮かんでは消えていく。

「葛ちゃん、葛ちゃん!」

「…なんですか?桂お姉さん」

「え、えと、急に黙り込んじゃったから…どうしたのかなって」

心配そうに私の顔を見ているお姉さん。

その顔と声が、何故か、とても遠くに感じる。

「…桂お姉さん、一つ私のお願いを、聞いては貰えないでしょうか?」

突然の質問に、今度は不思議そうな顔をする。

「お願い?うん、私に出来る事ならいいんだけど…」

私は立ち上がり、お姉さんに近づく。

「安心して下さい、これは桂お姉さんにしか…出来ない事ですから…」

「それって…」

お姉さんも立ち上る。

「はい、桂お姉さんの血を…飲ませて下さい」



「葛ちゃん、どうしたの急に…」

「駄目ですか?」

お姉さんが戸惑うのも当然だ。

私自身、何故こんな事を言っているのか分からない。

唯、今…無償にお姉さんの血が欲しい。

お姉さんの生命を…私の体で感じたい。

そうしないと、心が不安でおかしくなりそうだった。

「駄目じゃないけど、今日の葛ちゃん…少し変だよ」

「変なのは桂お姉さんの方です!」

その言葉と同時に、私の体が変化する。

耳がせり上がり、ズボンから白い尻尾がはみ出す。

歯は鋭く尖り、見えないが瞳の色も変わっているだろう。

心が昂ぶり、血への欲求が増していく。

「葛ちゃん!?」

「…駄目では無いのですよね…それではっ!」

一瞬でお姉さんを床に押し倒す。

今の私なら、お姉さんの力など子供と同じだ。

「きゃっ!ちょっと葛ちゃん!」

「…大人しくしてて下さい」

上着を爪で引き裂き、無理やり肌を露出させる。

そしてお姉さんの白い首筋に…私は牙を突き刺した。



「痛っ!あっ、くぅうっ…」

「…………………」

お姉さんの悲鳴を無視して、私は溢れ出た血を飲み干していく。

久しぶりに味合う甘美な血…。

全身に力がみなぎっていく。

お姉さんの命が…私に交わる。

「…うっ、ひっく、どうして、こんな…」

「…桂お姉さんが悪いんですよ、烏月さんに会った事…あんなに嬉しそうに話すから…」

「ちっ、違うよ葛ちゃん。烏月さんに会ったの、久しぶりだったから…つい…」

「ならどうして今日、一言でいいから、私に会いたかったって言ってくれないんですか!

 私はずっと、ずっと桂お姉さんに会いたかったのに!」

「葛ちゃん………」

子供の我侭な独占欲、つまらない嫉妬、そんな事…自分でも分っている。

でも、それでも…!

「………すみません…滅茶苦茶言ってますね…私…」

力で傷口を塞ぎ、お姉さんから離れる。

「今日はもう…帰ります、傷は治療しておきました…本当に…すみません…でした」

涙がこぼれ落ちる。

私は何時から、こんなにも弱くなってしまったのだろう…。

後悔ばかりが浮かぶ、それを振り払うように…私は玄関へと走った、が…、

「葛ちゃん、待って!」

「………あ」

お姉さんに後ろから抱きしめられた。



「葛ちゃん、ごめん…ごめんね…」

「桂お姉さん…」

「私、経観塚で偉そうな事言ったのに、葛ちゃんの事…全然分かってなかった…」

部屋の中に、お姉さんの嗚咽が響く。

「今日も、葛ちゃんがどんな気持ちで家に来るかなんて、ちっとも考えてなかった…」

「桂…お姉さん……」

「馬鹿だね私…少し考えれば分る事なのに…」

また涙が溢れてきた。

「私…桂お姉さんが好きだから…、誰よりも好きだから…私だけを…、

見て、気づいて…欲しくて…えっ、あぅ…ふっ,うあぁぁあぁん!」

「うん、うん。私も葛ちゃんが好きだよ…葛ちゃんだけを見てるから…、

だから…もう…泣かないで…」

背中ごしにお姉さんの確かな温もりを感じ、

私はそのまま、涙が枯れるまで泣き続けた………。

「桂お姉さん、もう一つだけ私のお願いを、聞いてくれませんか…」

「ふふ、今度は何かな?」

「…私、桂お姉さんと…一つになりたいです…心も体も…」

「葛ちゃん…、うん…いいよ…私と…一つになろう…」



「おいで、葛ちゃん」

「お姉さん、やっぱりちょっと、恥ずかしいですよ」

ベットの上で、下着姿のお姉さんが手招きしてる。

私の方はというと、何も着ていない…つまり全裸だ。

「あの、耳と尻尾…引っ込めちゃ駄目ですか?」

「だ〜め!ほら、葛ちゃん綺麗なんだから、手なんかで隠してないで全部見せて」

「わっ、わっ、桂お姉さん!尻尾引っ張らないで!わひゃっ!」

ベットに覆い重なる様に倒れこむ。

すぐ目の前にあるお姉さんの顔に、思わず頬が赤くなる。

「葛ちゃん…キス…しよ」

「桂おねーさん…」

柔らかい唇が、私の口に触れる。

「ふぁ…」

何度かついばむ様に触れた後、今度は舌で私の唇を舐めてくる。

私も真似をして、お姉さんの唇を舐めていく。

「ん…むぅ…はっ、あぁ…はぅ…」

舌同士を絡めあい、互いの唾液を交わしあう。

「葛ちゃん…可愛い」



「桂おねーさん、私…頭がボーとしてきました」

「えへへ、それじゃあ目を覚ましてあげる…」

お姉さんの手が私の胸を触る。

「ひゃう!先っぽを抓らないで下さい!」

「葛ちゃん、もう感じるんだ…小さい方が感じやすいって聞くけど、

ん?でも…年の割には中々…」

「桂お姉さんが小さいのではありませんか?」

意地悪く言うと、お姉さんは顔を真っ赤にして抗議してくる。

「違うもん!私だって、これから成長する筈だもん!…多分」

「それはどうですかね?私が桂お姉さん位の年になったら、サクヤさんも

ビックリのナイスバディになってるかもです」

「うぅ、言ったなぁー!こうしてやる!」

両方の乳首を同時にこねくり回され、思わず声が漏れる。

「はあぅっ!…やりましたね、なら私も!」

お姉さんの下着に手を入れて、直接胸を揉みしだく。

「あんっ!…このぉー!」



暫く乱戦が続くと、お互い口数が減ってきた。

それとは逆に、手の動きが激しくなっていく。

「あぅ、はぁ…桂おねーさん…なんか…フワフワします」

「葛ちゃん、こういうのはどうかな?」

お姉さんが下着を外して露になった胸を、私の胸に擦りつけてきた。

硬くなった乳首が擦れあい、快感が背中を駆け抜けていく。

「はぁ!桂おねえさぁん、これ…凄いですぅ…変になっちゃいますよぉ…」

「いいんだよ、変になって…ほら…もっとしてあげる…」

「あっ…あっ…はぅっ!」

体が痙攣する。

一瞬、頭が真っ白になり、その後耐え難い脱力感が襲ってきた。

「はぁ、ふぁ、はぅ、はぁ…」

ベットに横たわり、荒い息をつく。

「葛ちゃん、軽くイッちゃったみたいだね」

「はぅ、よく分かりませんが、そうだと思います」

股間が濡れているのがわかる。

今更ながら、いやらしい事をしているのだと自覚して、頭が変になりそうだ。



「葛ちゃん、大丈夫?」

「は、はい…なんとか…続けましょう、まだ桂お姉さんが、

気持ちよくなってませんから…」

「でも初めてなんだよね?あんまり無理しない方が…」

「いえ、初めてではないのです…何度か…桂お姉さんの事を

想って、自分で…その…した事がありますから…」

鏡を見るまでも無く今、自分の顔は真っ赤だろう。

見るとお姉さんも顔を赤くして私を見ている。

うぅ、穴があったら入りたい…。

「そ、それじゃあ…いいの?」

「は、はい…お願いしますです」

お姉さんも、下着を全て脱いで、私と同じ全裸になる。

二人でもう一度抱き合い、キスを交わす…。

「葛ちゃん、お尻を私の顔の上に持ってきて」

「えぇ!そんな事…」

「大丈夫だから…ほら、ね?」

「うぅ、はいです」

言われた通りの態勢になる。

「わぁ、桂お姉さんのここ…凄い濡れてます…」

「葛ちゃんのも…ビショビショだよ…」

お互いの割れ目を見せ合う形…。

もうさっきから、一生分の恥ずかしい思いを体験している気がする。

「じゃあ…いくよ…」

お姉さんの甘い声が聞こえた瞬間、全身に電流が流れた。



「ふあぁぁぁぁ!」

さっきより何倍も強い刺激に、体がのぞけるのを必死に抑える。

お姉さんの舌が私の割れ目をなぞり、中に侵入してくる。

それと同時に、尻尾を手で責められ、頭が真っ白になっていく。

「桂おねえさぁん、そんなにされたら…私…また直ぐに…イッちゃいますぅ!」

私も、お姉さんの割れ目に舌を伸ばすが、自分の快楽に耐えるのが

精一杯で、とても集中できない。

たまらず振り返ると、陶酔した眼差しで私を責めるお姉さんが見える。

「…葛ちゃんの喘ぎ声…もっと…聞かせて…」

こちらの声は聞こえていない様だ。

「桂おねーさぁん、もっと…はぅ…ゆっくり…ひぃぃ!」

お姉さんの舌が、割れ目の突起を何度も弄る。

尻尾を責める手も動きが激しくなっていく。

「桂おねぇさぁん!もっもう駄目ですぅ…わたしぃ…また…はあぁ!」

最後の気力を振り絞り、お姉さんの割れ目の突起を指で抓る。

「んあぅ!葛ちゃん…そこはぁ!」

お姉さんが叫び声を上げながら、私の尻尾を思い切り掴んだ。

「はひぁぁぁぁぁぁ!!」

「あはぁぁぁぁぁぁ!!」

その瞬間、私の意識は白光に包まれていった…。



眩しい…。

重い目蓋をゆっくりと開く。

ぼやけた目の焦点が少しずつ合ってくると、目の前に何か肌色の物が見える。

不思議に思い、目線を上に向けると、そこには…。

「おはよう!葛ちゃん」

この世界で…一番好きな人の顔があった。

「桂…おねーさん?」

朝日に照らされた眩しい笑顔に、私はしばらく見入ってしまう。

それは、陳腐な表現だけど…まるで女神様の様で…。

「わっ!葛ちゃん顔真っ赤だよ。風邪ひいちゃった?

やっぱり裸で寝たのはまずかったかな…」

確かに今は一月だから、余程の物好きじゃない限り、裸で寝たりはしないだろう。

そこまで考えて、ようやく自分の状況を認識する。

つまり、私とお姉さんは…全裸で布団の中にいる訳で…。

しかも私の体に、お姉さんの手がしっかりと回されているので、

正確には全裸で抱きしめられている事になる。

「葛ちゃん、熱ありそう?」

「い、いえ…顔が赤いのは風邪とかではないので、大丈夫です…はい…」

「そうなの?よかった…」



お姉さんの体温が直接、私の体に伝わってくる。

会話はない、けれど今なら、お互いが何を思っているのかを、

口に出さなくても、伝えられるような気がした…。

「桂お姉さん…暖かいですね」

「葛ちゃん、まだ眠そう…もう少し寝ててもいいんだよ」

お姉さん、嬉しいのですが…その…体をあまり密着させないで下さい。

「ふふ、でも葛ちゃんって、やっぱりまだまだ子供だね」

「えぇ!なんですかそれ?」

お姉さんが悪戯っぽく笑う。

「だって寝てる時の顔なんて、もう本当に無邪気そのもので…、

 普段大人っぽいから、余計にギャップが…」

はぅ、お姉さん卑怯です…。

けれど私の頭に一つの妙案が浮かんだ。



「…そうですよ、桂お姉さん…私まだまだ子供です」

「わ、自分で認めるなんて珍しい…」

私はしれっとした顔で喋り続ける。

「子供ですから、色々と我侭言ったり、簡単な事で嫉妬したりします」

「葛ちゃん…」

「だから…桂お姉さん、私をあまり…不安にさせないで下さい」

「…もう、ズルイな葛ちゃん。じゃあもし、気をつけていても、

 葛ちゃんを不安にさせちゃった時は…こうすれば許してくれるかな?」

お姉さんの唇が、私の唇に重なる。

突然の不意打ちに目を瞑るヒマもない。

「どう?落ち着いた…?」

「たはは、桂お姉さんこそズルイですよ…こんな事されたら、

 私…もう何も言えないじゃないですか」

私はもう一人じゃない…

優しく抱きしめてくれる人がいる。

暖かい声で、名前を呼んでくれる人がいる。

だからお姉さん…。

「ずっと………一緒です」



END「想い交わる時」