「だから…だから…桂に、責任とってもらうんだ。あたしと一緒にいてもらうんだ」

「それに桂はあたしを好きだって言ってくれたんだ。一緒にいたいっていってくれたんだ…」

「だったら…だったらいいだろう?」

サクヤさんが泣いてる…

きっと、おばあちゃんや、お母さんが死んでいった時も

こうやって泣きたかったんだよね?

でもわたしがいたから我慢してたんだよね?

ごめんね…ずっと一緒にいたのに、気付いてあげられなくて…

「サクヤさん…」

「桂…」

「いいよ…サクヤさんが望むなら…」

「桂…」

サクヤさんの瞳からはとめどなく涙があふれて

わたしは精一杯の力を振り絞って、笑顔で言う。

「サクヤさん、ずっと一緒にいよう――」



「桂」

わたしの中にすっと入ってくる呼び声

今はもう聞きなれた声

きっと今まで生きてきた中で彼女の「桂」を一番多く聞いている。


わたしは振り返る

そこには、いつもとかわらないサクヤさんがいた。




「桂」

見慣れたツインテールの女の子の後姿に呼びかける。

振り向いた彼女はいつものように笑う。

「そろそろ出発するよ」



桂を隣に乗せ、いつものように車を走らせる。

「何をみてたんだい?」

「何ってことはないんだけど、しいて言えば森かな…」

「そう…」

「次の仕事はたしか、3日後に現地についてたらよかったよね?」

「うん、えっと…」

そういって桂は手帳を取り出してスケジュールを確かめる


あの日、あたしの血を飲んであたしと同じ化外の民となった桂は

学校を卒業するまでは真弓と暮らしていたアパートで暮らしたが

その後あたしの助手になり今に至る。


「うん、今日はゆっくりできるね」

「そうかい、じゃあオハシラサマに挨拶にでも寄っていくかね」

「わ、経観塚近いんだ?」

「ああ、ここから2時間もあれば着くだろう」

「久しぶりだね」

「ああ、そうだねぇ…」


あれから何年経っただろうか

羽様の屋敷はあの時と変らずそこに在った。



「さて、着いたよ。」

車を降りて二人して、屋敷を見渡す。

「全然変ってないね」

「ああ、あのときのままだ」

「今日はココに泊まる?」

「ああ、そのつもりだけど問題あるかい?」

「ううん、久々に家に帰ってきたって感じがして嬉しい」

「そうかい」


屋敷の中も時間を感じさせなかった。まるでこの屋敷だけ時間が止まっているかのように。


「あ、この傷…」

声のほうをみると、桂が柱に着いた傷をそっと撫でていた。

「その傷がどうかしたかい?」

「うん…あの時はこの傷を見ると何かを思い出しそうで、でも思い出せなくて、

思い出そうとすると頭が痛くなったっていったよね?」

「そういえば、そうだったねぇ」

はっきり覚えていたが、素っ気無く答えた。

「でも今は何も感じないの…何も思い出せない、痛みも感じない…」

「よかったじゃないか、思い出さなくていいことだったんだよ。きっと…」

「そうなのかな…」

桂はやはり後悔しているんじゃないだろうか?こうなったことを…

考えないようにしていたことだったのに…

やっぱり来るんじゃなかった、ここに。

あたしはまだじっと柱を見つめる桂を後ろから抱きしめていた。

桂がどこかに行ってしまいそうで…



「サクヤさん?…どうしたの?」

「なんでもないよ、なんでも…」

桂は体をねじってこちらを向き、あたしの顔を見た。

「なんでもなくないでしょ?普段のサクヤさんならそんな顔してない」

すこしきつい目をして、でもちゃんとやさしい瞳で瞳の中をのぞかれる。

「約束したよね?思ってることは全部言うって」

あの日、桂が意識を取り戻したとき、桂と約束した。

これからは二人でずっと一緒に生きていくこと。

隠し事はしないで思ってることは全部言うこと。


桂は強くなった。あたしが弱くなった?

わからない、だけど今のあたしは桂に甘えてる。

桂より何十年も長く生きてるっていうのに、情けない。

「桂が…」

「うん…」

「あの日のこと…あたしと同じ体になっちまったこと……後悔してるんじゃないかって」

「サクヤさん…そんなことずっと気にしてたの?」

「あたしにとっちゃ、そんなことじゃないんだよっ!」

「あ…ごめん…なさい…」

「別に怒ってるんじゃないよ」

「あんたは優しいから、後悔してないって答えることはわかってる」

「だけど…好き好んでそんな体になるわけない…!」

「サクヤさん…わたしは、わたしは本当に後悔してないよ?」

「サクヤさんとずっと一緒にいたいって言ったのは本心だし、今すごく幸せだよ?」

「そんなのわかるもんかい」

「サクヤさんが負い目を感じることなんてない、これはわたしが望んだことだよ」

「あたしが望んだことだよ」

「強情だなぁ」



桂が嘘をついてないってことぐらいわかってる。

だけど、こうやって不安に押しつぶされそうになるのは、きっと罪なんだ。

桂をこんな体にしてしまったことの。

「もう〜しょうがないなぁ」

「?」

「好き!好き!好き!好き!好き!好き!好き!もう一つおまけに好き!」

「ちょ、ちょっと桂!」

この家にはもちろん誰もいないし、近所に家もないのはわかっていたけど

あたしは誰かに聞かれたんじゃないかと、周りをすばやく見回した。

あたりまえだけれど、誰にも聞かれてないようで安心した。

「まだわからない?好き!すっ」

あたしは咄嗟に桂の口を手で塞いだ。

「あんたは本当にとんでもないことをする子だよ、まったく…」

「わかった?」

「わかったよ、ごめん、変なこと言って」

あたしは桂をぎゅっと抱きしめた。

桂はあたしの胸に顔を埋め腰に手を回しぎゅっと抱きしめ返してくれる。

「わたしだってあの時、死にたくなかったもん、サクヤさんともっと一緒にいたかったもん」

笑子さん、真弓、ごめん、桂を引き止めちゃって。

きっとあたしが桂といたかったように、笑子さんや真弓も桂と早く会いたいよね。

ごめんっていって許してもらえることじゃないってわかってるけど、ごめん。

でも、桂が生きている間。笑子さんと真弓の分、桂のこと愛するから、守るから。

あたしはきっと二人のとこにはいけないけど、桂は二人のとこにちゃんと返すから。

だからそれまで、桂をあたしに貸してください。



「サクヤさん…」

「なんだい?」

ぎゅっと抱きしめた腕を緩める。

ちゅっと唇にやわらかいものが触れた。

その瞬間に全身の毛が逆立つ感じがして

抑えていた感情が一気に溢れ出す。

一度緩めた腕をまだきつく抱きしめなおす。


すぐに舌で桂の唇を割って桂の舌に絡めた。

「んっ…ちゅ…」

風で葉が擦れるほどしか音のない空間で

二人の息とぴちゃぴちゃと言う音だけが耳に入る。

心臓の音が頭の中で響いていた。

桂の心臓の音と重なる。

きっとあたしの血を飲んだから桂の心臓はあたしの心臓と同じ刻を刻むんだ。

そしてあたしの心臓は、桂の血を飲んだから同じ刻を刻む。

この体に桂の血が流れていると思うと嬉しかった。

そして桂の体に自分の血が流れていることも。

きっとその鼓動が止まるときも一緒だから。



「桂…」

切なくて…名前を呼ぶ

どのくらいの時間そうしていたかわからないほど

あたしたちはキスに夢中になっていた。

あたし達には無限ではないが、人間にとっては無限に等しい時間がある

前まではそんな気が遠くなる時間に恐怖したこともあった。

でもいまは桂がいる。


「桂…ちゅ…はぁ…んっ…」

「サク…ヤさ…ちゅっ…あん…」

ゆっくりゆっくりと、熱くキスをしながら畳の上に押し倒される。

軽いから大丈夫だって言ってるのに桂はいつも、少し体を支えてわたしに負担をかけないようにする。

だからいつものように、あたしは桂の肩をつかんでくるっと体勢を変える。

「わっ」

「嫌かい?」

「嫌じゃないけど…今日はわたしがリードしようかなって思ったのにな」

「じゃあ、もう一回転するかい?」

「ううん、サクヤさんが好きなようにしていいよ。そのほうがわたしも嬉しいし」

「…」

「ん?…どうしたの?」

「あんた絶対その台詞あたし以外の奴に言うんじゃないよ」

「言わないよ」

「絶対だからね」

「うん」

そういって桂はあたしの首に両手を回して、またキスをした。



桂、桂、桂、桂。

あたしだけの桂。

誰にも渡したくない。

子離れできない親みたいに思われるかもしれない。

それでもいい、あたしは桂がいればそれでいい、他に何もいらないんだ。


唇を離し、桂の頭に手を回し、ゆっくり下に下ろす

「背中痛くないかい?」

「うん、大丈夫」

「そう、ならよかった」


上着をはだけさせると

近くでみないと分からないほどの小さい赤い点が二つ、目に入る。

あたしの血を飲んだことで人間ではなくなったものの、桂の贄の血は健在のようで、

あたしが体調を崩したときなんかに、飲め飲めってうるさく言う。

だから今でもたまに首筋から血をもらっていたりする。


そんなありがとうの気持ちと申し訳ない気持ちで傷口に唇をあてる。

「ふぅん…」

桂は首筋が弱い。歯を立ててれば痛みで大丈夫らしいけれど、こうやって

キスしたり、舌で舐めたりすると、すぐに声が漏れる。

そんな桂がたまらなくかわいい。だからいつも「やめて」っていうけどやめないんだ。


「サクヤさん…やめっ…くすぐったいよ…」

「生憎やめられないね、あたしにとっては好都合だしねぇ」

「あん…はぁ…サク…ヤ…さ…ああん」



首筋に口を当てながら片手で桂のボタンをはずして行く。

はずし終えた手はそのままおなかの少し上あたりに置かれる。

「ひやぁっ」

「ちょっと冷たかったかい?」

「うん、ちょっと、でも大丈夫」

桂の背中にその手を回すと、ちゃんと意図を理解して桂は背中を浮かせた。

「ふぅ…」

ブラがはずれると同時になんともいえない声が桂から漏れた。

「なんだい、ふとっ」

「違うよ!」

「そんな全力で否定しなくても、あたしは少し肉付きがいいほうが好きだけどねぇ」

「だから違うってば!」

「そりゃあ、サクヤさんに比べたら微々たるもんかもしれないけど、ちょっと大きくなったんだから…」

「おや、それじゃああたしのおかげだね」

「どうして?」

「そりゃあ、あたしがいっぱい揉んだからだろう?」

「なんか、サクヤさん親父くさい…」

「失礼だね、あたしはこれでも二十歳っていって疑われたことないよ」

「それは見た目だけでしょ?中身は親父だよぉ」

「今日は言うじゃないか、桂…覚悟はできてるんだろうね?」

「え…ちょっと…サクヤさん…?目が怖い…」


あたしが落ち込んでたから言ったってこと、

あたしが気付かないとでもおもったのかい?



その自己申告で大きくなったという胸に触れる。

「どう?」

「どうっていわれてもねぇ、毎日触ってるからわからないよ」

「それにこのくらいが丁度いいっていつもいってるだろ?大きくてもいいことないよ」

「うわっそれすごい嫌みにきこえるよ」

「わたしはこれが好きだっていってるんだ、それでいいだろうに」


そういって手で触れていないほうの胸の先を口に含んだ。

口の中で舌で転がす度に、桂の口から艶のある声が漏れる。

「あ…サクヤさん…んぅ…」


しばらくそうしていると、桂のスカートからでた太もも同士が、徐々に近づいて

ぴったりとくっつき、桂の手が自らを慰めようと、そこへ向かう。


「もう我慢できない?」

桂は無言で頷いた。


焦らしてもいいけど…今日は桂に借りがいっぱいあるから

それはしないであげよう。

桂の手を止めてから、

ぴったりとくっついた太ももの間に手を入れていく。

ひざを立てたことでスカートはめくりあがりそのまま下着に触れる。

「あっ…」

触れた瞬間に桂の体がぶるっと震えた。

「脱がすよ」

「うん」




じかに桂のそこに触れる。やわらかくて暖かくて、自分のを触るのとは少し違う感覚。

撫でるように指を動かすと、一度開きかけた太ももが再び閉じ、手首を挟まれる。


「はぁ…はぁ…サクヤさん…キスして」

「ん、はいはい」

胸を愛撫していた口をはずし桂の唇に重ねる。

「ねぇ、切ないよ…」

なんて目をするんだろう。この子は。

見た目はあの日からかわらず少女なのに、こんな顔されたら、少女だなんていえないね。


クチュと音を立てて指を膣にいれる。

「ああっ」

桂の顔が微かに歪む。

その顔を見るだけで、あたしのあそこも熱くなっていた。


キスをせがんでくる桂。

今度は桂のほうから舌を入れてきた。

「んぅ…」

指を少し奥に進めて折り曲げる。

その刹那、唇を離し、桂は

「んあああ…あ…」

またいい声で啼いた。



「イったのかい?」

「そういうこと聞かないでっていつも言ってるでしょ!もう!」

桂は顔を真っ赤にして、ペチっとあたしを叩いた。

「しょうがないだろう、聞きたいんだからさ」

「でも軽くイっただけだから、まだ足りないだろ?」

「やっぱりわかってるんじゃない!」

「ああ、あんたの身体でしらないとこはないからね」

「わたしだってサクヤさんの身体で知らないとこないもん!」


「端からみたらバカップルだね、あたしたちは」

「別に誰になんと思われてもいいよ。」

「そうだね」

そうさ、誰になんと言われたってかまわない、あたしにはあんたさえいてくれれば。


軽くとはいえ、イったばかりの桂の胸は激しく上下していた。

「足開くよ」

「えっちょっとまっ―」

桂が言い終わらないうちに、すでに熱くなっているそこに口をつける。

「ああああああん」

「何大きい声だしてるんだい、ちょっと舐めただけだろ?」

「だ、だって、心の準備が…」

「何をいまさら…」

「恥ずかしいものは恥ずかしいよ!」

「そうかい、でもまぁ、やっちゃったもんは仕方ないさ」

「む〜わたしってなんですぐ折れちゃうんだろう…」

「結構なことじゃないか」




足を押さえ、再開する。

ピチャピチャという音に、桂の吐息と声が重なる。

「んっ…はぁ…んんっ…」

「んちゅ…何我慢してるんだい、声だしなよ」

「ん、だって…はぁはぁ…誰か来るかもしれないしっ…んぅ」

「誰も来やしないよ、来たとしても、察して帰ってくれるさ」

「うー。そんなの嫌ー」

「我がままだねぇ、桂は」

「んは、サクヤさん…上のとこに鼻息がっ…んっ」

「ここかい?」

「んはぁああっ!」

「はぁはぁ…触るなら触るっていってよー」

「気持ちよかったんならいいだろ?」

「はぁ…はぁ…そういう問題じゃ…ないよぉ…」


何度もイかされ、桂の息は随分と切れ切れになっていた。

「はぁはぁ…あっ…あっ…あ、ちょっ…まっ…」

桂の手があたしの頭をつかんだ。

あたしは舐めるのをやめ、舌を中に入れ、クリトリスを軽く摘んだ。

「ん―――――――っっ」

背中がそり、一瞬硬直し、バタンと背中が畳についた。

「はぁ…はぁ…はぁ…」



「疲れた…」

「はは、それはご苦労様」

「サクヤさんは相変わらず、お元気なようで」

「あんたの愛液は血ほどじゃないにしろ、力になるからね」

「する前よりむしろ元気だねぇ」

「なんか損してる気分…」

「何言ってるんだい、気持ちよかったのはあんただろうが」

「それはそうなんだけど…ごめんね、今日はこのまま寝ちゃいそう…」

「いいよ、初めからそのつもりだったし。ちょっと待ってな。布団敷くから」

「うん、ありがと」


今日は桂に愛されたら、醜態晒しそうだったから

桂を先に潰した。ごめん、桂。



「さ、敷いたよ、こっちおいで」

「サクヤさん動かしてー」

「あんたは何様だいまったく」

あたしは寝転がったままの桂を抱き上げる。

最近自分でも桂に甘くなってるってわかってはいるが、

甘えられるのが嬉しくてつい言うことを聞いてしまう。

「えへ、お姫様抱っこだ」

「落とすよ?」

落とされてはかなわないと、桂はあたしの首に両手を回す。

布団に下ろした時、

「サクヤさん…本当に後悔してないからね、幸せだからね」

そう耳元で桂は言った。

「ああ、信じるよ。おやすみ、桂」

「おやすみなさい」

言い終わると、同時に桂は眠りについた。

「ほんとに寝つきがいいこと」


「さて、この熱くなった身体…どうしたもんかね…」


終わり