561 :名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 21:11:07 ID:Ad0x6BKh
「秋になると、人肌恋しくなるよね……」
小さな声で、独り言を呟き、こっそり柚明のお布団に入る桂。
長襦袢一枚で寝ている、柚明に擦り寄ると、寝間着越しにも、仄かに体温が伝わる。
柚明からは、微かに寝息が漏れ、桂にはそれが静寂を、より静かなものに感じさせる。
「昔は、よくこうやって、隣で寝てたんだよ……ね」
幼き頃、桂は、よくこうやって、高校生だった柚明の布団に入り込み、安心して眠っていた。
ふと、桂は、柚明の寝顔を見る。薄い紙一枚が、やっと通る程度に開かれた唇が、桂の目に映る。
桂は、引き寄せられるように自身の唇を、柚明のそれに近づける。
その時、桂は何も考えていなかった……
桂は近づく、柚明へ、ゆるり、ゆるりと。
そして、文字通り、目と鼻の先までの距離に近づいた、その瞬間。
柚明は、何かに気付いたように、微睡みから僅かに覚醒する。
目前には、親愛なる従妹の、桂の顔がぼやけて見える。しかし微睡みの中の柚明は、それを夢であると錯覚する。だから、何もしない。
桂は、気付かない、柚明が僅かに眠りから醒めかけている事を、いや、気付いたとしても、恐らくは止めない。
桂は、自身の目を、僅かに瞑り、顔を傾ける。そして、桂は、何も考えないまま、柚明の唇に、自身のそれを、僅かに触れさせる。
ほんの僅か、掠る程度の触れ合い。
それでも、桂は、柚明の唇の柔らかさを感じる。秋の涼しい夜気の中にあって、、仄かに温かな唇を、自身のそれで感じ取る。
桂は、知ることはない、柚明も、同じ事を感じていたと……柚明が、眠っていると考える桂は、知ることはない。
桂は、眠る柚明にした事に対する罪悪感と、柚明が確かに存在すると確認出来た安堵感と、ほんの僅かな幸福感を持ち、眠りについた。