324 :烏月サプライズ1:2009/05/18(月) 22:58:50 ID:1GFH0VeG

「烏月さん、こんな所に呼び出してどうしたの?」

 夕陽を背にした烏月と桂。

 烏月は両手を背にやり、何かを隠していた。

「け、桂さんに渡したい物があるんだ」

「え…」

 烏月は両手を桂の前にやると、その手に持っていた

物を手渡した。

「あ、可愛い」

 可愛らしくラッピングされていたそれはハートの

形をしていて、少し薄かった。

「えーと…チョコ?」

 烏月が頷く。

「何故、今更かいまって?」

「バレンタインだからだよ」

「もう過ぎてます」

 呆れたのではなく、訳が分からない顔をした

桂に、烏月は笑顔を浮かべる。

「だって、今日は私と桂さんだけのバレンタインなんだから!」

「烏月さん素敵」

 そうして二人は口付を。


「なんてね…」

 そんな事を朝、自室で妄想していた。

(人は恋をすると誰しもロマンチストになると言う。

真坂この私がこんな素晴らしい事を考えるとは!)

 最近、烏月はポエムとか歌とか、そんな事を考えるように

なっていた。それを書く事専用のノートを買いかけたりもした。

(それは遣り過ぎだと思ってね)

 烏月さんは冷静です。

(それより、さっきの考えは良いと思う。

下手でもいいから、チョコをつくって桂さんにあげよう。

 何の本かは忘れたけど、この世でもっとも美味しいのは

人の心だと読んだ事がある。

 その人の心さえ籠っていれば、中には愛する人の

う○こを食べてしまう人だって…何を考えているんだ私は!

 違う!それは例えなんだ、そうだ!私は卑猥では無い!)

 最近の烏月は妙な知恵も手に入れてしまった。

(しかし、私はチョコの作り方を知らない、どうすれば)

 烏月は思案した結果、自室から出て行った。


325 :烏月サプライズ2:2009/05/18(月) 22:59:43 ID:1GFH0VeG

「お茶が美味しいね、柚明お姉ちゃん」

「そうね、桂ちゃん」

 緑茶をマッタリと啜り煎餅を齧りながら、日曜の朝を満喫している桂と柚明。

 柚明は本心では桂を今すぐにでも食べてしまいたいが、こんな

時間も最近は悪くないと思っていた。

(ふふ、そう焦らなくてもいいわ。最後に美味しい桂ちゃんをいただければ)

 そんな事を考えていると、どたどたと煩い音が

玄関側から響いて最も大きく響いた後、そこで止まった。

 日曜の朝に煩いなと思い、玄関の方を見るとドアが突然開いた。

「わっ!」

「やあ、桂さんお早う」

「お早う烏月さん」

 爽やかな挨拶に押されて、何故鍵を掛けていたのに開いた

か桂は聞きそびれる。

「烏月さんお早うございます」

 と挨拶するが、内心柚明は良い気持ちでは無かった。  

「えーと…どうして急に?私は別に用事無いけど」

 どうして鍵が、と桂は聞こうと思ったが色々考えた末やめようと思った。

「実は桂さんに頼みたい事があって」

「烏月さんの頼みなら何でもいいよ」

 ぶーーと柚明は緑茶を吐き出した。

「よと、じゃなくてチョコの作り方を教えて欲しくて」

「お菓子作りの趣味に目覚めたの?」

「違うよ。あげたい人がいてね」

「えっ!」

 意外な返答に柚明が驚く。

「だ、誰に?」

 と桂。

「それは秘密だよ、知っていたら桂さんに教えて欲しい」

「えっと…」

 カカオから作るとかそんなんじゃなかったら出来る。

出来るが、桂の中には複雑な気持ちがあってそれを烏月に言えなかった。

「桂ちゃんはチョコを溶かして形にはめる事なら出来るわよ」

 そんな気持ちをあっさりと柚明が嬉々と切った。

「そうですか。よかったら、チョコを作る材料を一緒に選んで

作って欲しいんだ、お願いできるかい?」

「えと…うん、いいよ」

 あげる人に烏月さんが嫌われればいいのに、桂はそんな事を思ってしまった。


326 :烏月サプライズ3:2009/05/18(月) 23:01:21 ID:1GFH0VeG

 桂は烏月を連れて近くのスーパーに行く。

 買うのはチョコだけだ。それを溶かして冷やすだけ、形は家にある。

 手作りと呼べるかどうかすら分からないチョコ。

「これが良いと思うんだ、烏月さん」

 桂がカカオ99%の板チョコを見せると

そこにいるはずの烏月がいなかった。

「あれ、烏月さーん」

 烏月をさがしていると、烏月が何かを見ていた。

「ソープ、ソープか…」

 そう烏月が呟く。

「ボディーソープがどうしたの、烏月さん?」

「わあ!桂さん。いや、なんでもないんだ」

 ボディーソープをしゃがんで眺めていた烏月が

起き上がり、慌てて桂を見る。

「チョコ買ったよ」

「カカオ99%はキツくないかい?」

「今はそういうのが流行ってるんだよ」

「そうか、私は流行に疎いからね。桂さんに任せるよ」

 桂の言ったことは無論嘘である。

 桂は後ろめたい気持ちでチョコを買った。


 家に帰ると桂と烏月はエプロンを付けてチョコ作りに取り掛かる。

「烏月さんのエプロン姿可愛いね」

「桂さんも食べてしまいたい程に…いや、可愛いよ」

「ぐーぐー」

 ライバルが一人減ったと思い柚明は安心したのかコタツで寝ている。

「じゃあ早速始めるね、まずはチョコを用意します」

「板チョコだね」

 板チョコを2枚取り出す烏月。

 因みに、チョコは湯煎で溶かす。じゃないと焦げる。

「そして、フライパンで溶かします!」

「桂さん、違うだろ?」

(ばれちゃった?)

「フライパンに油を敷かなくちゃ」

「はは、そうだね」

 フライパンに火を付けてから少しして油を敷きチョコを入れる。

「溶けてるね(うわー焦げ臭いよ)」

「そうだね(焦げ臭い気が…)」

 フライパンの中でチョコが液体になる。

「それでは次に形の中に入れます」

「どんな形がいいかな?」

「これで!」

「え…それは」

 その形はどう見ても不細工なゾウリムシの様な形だった。

「ハート形だよー」

「えと、それはハート形なのかい?」

「ハート形だよー」

「桂さんが言うのだからそうなんだろう」

 確かにこれはハート形だったが、桂が誤って踏んづけてしまったので

こんな形になってしまっている。

 この形に焦げ臭い液状のチョコを入れ、冷蔵庫の中に入れた。

 ある程度の時間が経過するとチョコを取り出す。


327 :烏月サプライズ4:2009/05/18(月) 23:02:16 ID:1GFH0VeG

「次はラッピングです!」

「ラッピングの紙は特に買っていなかったが…」

「家にあるから大丈夫だよ、じゃーん!」

「それは…広告?」

 どう見てもパチンコ店とかの広告だった。

「そうだよ」

「何故、広告なんだい?」

「御祝儀のお札ってその為に用意したと思われるからピン札は

駄目なんだって。

 それと同じ感じでラッピングも苦労してないと思わせるのが今風なんだよ」

「成る程、見た目に囚われず相手の気持ちを受け取ると言う和の心か…」

 勝手に烏月は納得する。

 確かにパチンコの広告はキャラクターとか色々のってるので可愛いかも知れない。

「成るべく乱暴な感じが良いよ」

「分かった!」

 不細工なゾウリムシみたいなチョコに広告をぐちゃぐちゃにして

ラッピングし、適当にテープを止める。

「はい、完成です!」

「これが今風のチョコか」

 それは、どう見ても広告を丸めて作った即席のボールにしか見えない。

(あーあ…遣り過ぎたかな。

 これで烏月さんも絶対嫌われちゃうよね、ごめんなさい烏月さん。

 これ、食べられるかな?今もまだ焦げ臭いよ)

「はい、桂さん。君にあげるよ」

「え?」

「急な話で驚かせたかい?

 その…桂さんと私だけのバレンタインデーの様な日を作りたくて。

 でもチョコの作り方とかよく知らなくて。だったら、あげる人に

直接教えてもらうのが手っ取り早いんじゃないかなと思って」

「あ…」

 じわりと、桂の瞳に涙が滲んだ。

「有難う!」

「それじゃあ、食べて」

「え?」

「食べて」

「え…と」

「食べて」

「はい…」

 桂は勢いに押されてしまった。

(えー色々おかしいよ。そりゃあ確かに烏月さんの

プレゼントは嬉しいけど)

 そんな事を思いながらラッピングを開いていくと

特に驚きも無く、ヘンテコチョコが出てくる。

「ごくっ、い、いただきます!」

 烏月が両手を重ね胸にやり、不安そうに見詰める。

 そんな烏月を可愛いなぁと思いながらぱくっと一口食べる。


328 :烏月サプライズ5:2009/05/18(月) 23:03:00 ID:1GFH0VeG

(あー苦い、苦いよー。カカオ99%だもんね。

でも不味く無い。美味しくも決して無いけど)

 桂は想像よりも不味く無いので、勿論美味しくも無いので

返しに困った。

 仮に不味かったとしたら正直に桂は言う。

 初めてだから上手くいかないのは当たり前だよと言うつもりだった。

 それは烏月が特別な人でうわべだけの言葉で話したく無いからだ。

「桂さん…」

(やっぱり形が変だな。微妙に色が違う所もあるし。三日月みたいだし。

臭いし。まるで桂さんがあれを食べてる様で。違う!そんなもの桂さん

が食べる訳が)

「はぁはぁ…」

 分かっていても妙な興奮を烏月は覚えた。

 人間はきっかけ一つで簡単にそっちに転がってしまうものだ。

 不味い!

 このままでは烏月さんが人には言えない性癖に目覚めてしまう!

 と、その時。

「ん〜お腹が空いたわー」

 と目を覚ました柚明が二人の方を見ると

桂が黒茶色のバナナの様な形の物を食べていた。

 しかも部屋が妙に臭い。

 そして、それを食べている桂を見て興奮している烏月がいる。

「あ…あ・あ・あ」

 柚明にある考えが走る!

「あーーーーーーーーーー!!!!

私の桂ちゃんに何て物を食べてさせてるの!

出て行きなさい!!!」

 柚明の怒涛の勢いであの烏月を力づくで外に押し出した。

 バタンと勢い良く閉めるとチェーンを掛ける。

「はぁはぁ、せめて聖水にしなさい!」

 さりげにとんでもな事を言う柚明。

「ど、どうしたの柚明お姉ちゃん?」

「桂ちゃん、可哀想に。

烏月さんにあんなハードなプレイを強要されるなんて。

 何時でもいただけると油断した私が悪かったんだわ。

 私がその口を消毒してあげる!」

「何言ってるの柚明お姉ちゃ、んっ…」 

 そう言って桂の唇を奪い桂をその場で押し倒した。

「だ、駄目だよ柚明お姉ちゃん」

「駄目じゃない!お姉ちゃんのお嫁さんになって」

 ドンドン、ドンドン。烏月が扉を叩く。

 桂の否定の声に、烏月さんは何もする事が出来なかった。

「桂さーーーーーーーーーーーーん!!」

 その声が虚しく響いた。

おわり