410 :大人の必殺技1:2008/02/15(金) 03:16:56 ID:BbUBaaO5

 前回のあらすじ

 感触も感情も消えた。

 私の目の前には血塗れになり倒れた桂さんが横たわっていた。

 見た目通り、その体には命はもう無い。

「・・・桂さん」

 鬼ごと斬った、ただそれだけの事実しか無い。

 大切な人だった。

 好きだった。

 失って悲しいはずだった。悲しいはずだった。

 しかし、涙は出ない。

 それはもうここには無いからだ。失うものが。

 無辜の民を救う為に今まで鬼を切ってきた。

 どんな苦しみだって耐えて来た。

 それはこれからも続く事。そのはずだった。

 だが、私が救う人とはそんなに良いものだろうか?

 私の為に何かしてくれただろうか?

 ・・・止めよう。今は都合の良い考えしか浮かばないだろう。

 桂さんに特別な感情が無いなら、私は平然と生きた事だろう。

 鬼を切り続けただろう。

 もう、そんな事はどうでもよくなった。

「桂さん、貴女一人を、逝かせはしない」

 維斗の太刀を首にあてがい、私は私を断った。

「・・・ん、」

 気が付くと私は布団の中で眠っていた。

「烏月、起きたかい?」

 横には全裸のサクヤさんが居た。

「色々あったけど、元気出すんだよ」

 そう言って、私を抱きしめた。

 許してくれ、桂さん!おっぱいが、おっぱいが全て悪いんだ!! 

 閑話休題。

 夜、烏月は商店街にいた。

「今日も駄目だった。鬼も葛様も全く見つからない。

 あの鬼だけは絶対に切らなければならない。兄さんの穴を開発したアイツだけは許さない。

 こんな日は何か美味しいものでも食べて気分転換するのが望ましい。

 旅館でも夕食を食べたから軽いものがいいな。

 そう言えば、私に親しく話しかけてくれる、桂さんと言ったかな?

 可愛い子だった」

 そんな独り言を烏月は呟く。


411 :大人の必殺技2:2008/02/15(金) 03:18:55 ID:BbUBaaO5

 暫く歩くと、誂え向きの居酒屋を発見する。

 古い引戸を開けようとすると戸は勝手にスライドした。

「自動だったか。田舎を甘く見ていた」

 いらっしゃいとおっさんの声がし、店の中に入る。

 あまり他人と同じ席になりたくなかった烏月は隅のカウンターに

座ろうとしたが、既に先客がいた。

 その隣に座り、その人と目が合った。

「ん、烏月じゃないか」

「・・・サクヤさん」

 烏月は素早く席を立ち、店を出ようとするが、スカートの裾を掴まれる。

「いいじゃないかい酒の席位さ。隣に座った座った」

 諦めて、溜息交じりで席に座る。

「納豆とイチゴ牛乳」

 はいよとおっさんが答え、用意し始める。

「仕事でここに?」

 と烏月。

「ああそうさ」

 言いながら、一口酒を飲む。

「しかしこんな所で逢うとは、運命を感じるねぇ」

「格別何も」

「つれないねぇ。で、その調子だとそっちの仕事は上手くいってなさそうだ」

「そうですね」

「・・・・・・」

 そっけない返事ばかりする烏月にサクヤは溜息を漏らした。

「あー暗い暗い。こんな場所では他愛の無い話をしたり、冗談を言ったり、とにかく楽しむのが大切だよ。あんたの浮いた話一つ聞かないけど、気になる人はいるのかい?」

 話が弾むよう、サクヤは適当な話題を出す。

「別にいませんね。学校でもあまり人とは関わらないようにしていますし」

「ふん、本末転倒だね。人を救う為に鬼を切るのに、肝心の人付き合いが薄いとはね」

「人を巻き込まない為にもあえて避けているだけだ」

「本当にそうかい?」

「・・・・・・」

「悪い。暗い話になっちまったねえ」

「いえ、気にしないで下さい」

 コップの中をあおり、それを烏月の隣に置く。

(気になる人か。別にいないが・・・)

 その時一瞬だけ桂の笑顔が頭に浮かんだ。

(ち、違う!桂さんは、偶々知り合った人で!)

 それを払拭する為、水を一気飲みする。

「う、烏月!それ、あたしの酒だよ!」

「・・・あ」

 言った時には既に遅く、コップは元の空の状態になっていた。


412 :大人の必殺技3:2008/02/15(金) 03:21:08 ID:BbUBaaO5

「烏月、大丈夫か?」

「コップ一杯の酒程度で酔っ払う程、私は弱くは無い」

 サクヤが見た所、顔も赤くならず、言葉もおかしくは無い。

「そうかい。それならいいけどさ」

 サクヤがビンから再び酒を注ぎ飲む。

「納豆とイチゴ牛乳だよ」

「どうも」

 納豆を自分に寄せ、近くにある醤油タレをとり、納豆に

ぶっかけた。

「お・・・おい、その食い方はどうなんだい?」

 大量に醤油がかかり、納豆が黒色にそまり、黒豆のようになる。

「いただきます」

 何の躊躇いも無く、箸で摘み口に運ぶ様を恐る恐る見守るサクヤ。

(辛党のあたしだってそこまではしないよ)

 それを咀嚼し、飲み込んだ。

「サクヤさん!」

「なんだい!」

「濃い醤油の味がするぞ、この納豆!」

「そりゃあするだろ」

「何故知っている!」

「何故ってそりゃあ」

「意外と美味い!!!」

「・・・そうかい」


「しかし、サクヤさんはたまらない体をしている」

 納豆を全て食べ終わった頃、烏月はそう言った。

「まあね。褒められて、嫌な気分はしないね」

「その体で何人の女の子を餌食にしてきたやら。流石美少女ハンター」

「だれが美少女ハンターだよ」

「では、エロ大名で」

「おい」

「そのテクニック、是非私にも教えて欲しいね、エロ大名様」

「大名命令じゃ。今すぐ殴らせろーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 立ち上がり、拳を振り上げるサクヤに客の視線が集まる。

「いや、騒がしくしてすみません、本当にすみません」

 頭を下げ謝り、席に座り直すサクヤ。

(酔っ払いをまともに相手にするのはよくないねぇ・・・)

 考えた結果、無視するのが最善だとサクヤは判断した。

「では、エロ将軍で・・・」

 そっぽを向く。

「サクヤさん」

 これも無視する。

「サクヤさん!」

「なんだい!」

「これを見てくれ」

 しつこさに耐え切れず振り向くと酒の紙パックにデカデカと書かれた文字を見せ付ける。

「鬼ころし!!」

 酒の名前である。

「だからどうした」

「おぅにぃころし!!!」

「はぁ・・・」

「いやね、こんなもので鬼が殺せるなら私達も苦労しないのだが・・・くっ、今私は

とても面白い事を言ってしまったようだ、はははっ」

「いや、可笑しくないよ」

 烏月は肩を震わせ、笑いを必死に堪える。


413 :大人の必殺技4:2008/02/15(金) 03:24:01 ID:BbUBaaO5

 その姿に呆れたサクヤはツマミを口に素早くかっこみ、酒を一気飲みし、烏月の手を

引っ張った。

「旅館に帰るよ、烏月」

「いや、もう少しいたいのだが」

「いいから、帰るよ!」

「サクヤさんは強引だ」

「黙っとけ!」

 手を引っ張って烏月を誘導する。

 抵抗も無く、烏月はその方向にただただ流される。

「サクヤさん」

 言った後、引っ張る腕を払い、旅館の方へ烏月は走った。

「鬼の気配だ!」

「なんだって!」

 急いで旅館に戻り、桂の部屋へ向かう二人。

「烏月、桂とは知り合いだったのかい?」

「ええ」

 桂の居る部屋のドアノブを捻り、ドアが開く。

「無用心だねぇ・・・」

 ドアの先には寝ている桂を襲おうとするノゾミとミカゲ、それを

守ろうとするユメイの対峙が見えた。

「大人しく贄の血を渡しなさい!」

「駄目よ、桂ちゃんは私のモノ・・・じゃなくて、渡さないわ!」

「あはははは。もし、渡してくれるなら一緒に桂を好きなだけ弄ばせて

あげるわよ」

「・・・・・・」

「凄い真剣な顔で悩まないで!」

 眉間にしわをよせ、目を細め、腕組をしてユメイは唸っている。

「一緒にって事は桂ちゃんは勿論、あの二人も弄べるって事よね・・・」

「姉様、私達も捕食されそうです」

 とミカゲ。

「冗談よ、冗談!」

「そこまでだ、鬼はこの私が切る」

 ノゾミとミカゲは身を構えて、烏月の方を見る。

「鬼切り・・・やっかいな奴が現れたわ」

 烏月は間合いを徐々に詰めていき、太刀が届きそうな距離で腕を振り上げる。


414 :大人の必殺技5:2008/02/15(金) 03:25:55 ID:BbUBaaO5

「いくぞ!」

「千羽妙見流奥義、鬼!」

「ころし!」

 手に持っていた酒、鬼ころしをノゾミとミカゲに掛ける。

「あ・・・」

 唖然とするサクヤとユメイとミカゲ。

「見た事無い技だわ。ここは退くわよ、ミカゲ!」

「いえ、姉様。あれはただ、酒を私達に掛けようとしているだけでは」

「うるさいわね!いいから退くのよ!」

「バカな姉様・・・」

「なんか言った?」

「いえ」

「それでは贄の血、また会いましょう」

 そして、二人は消えた。

「アホだあいつら」

 と、サクヤ。

「でも、それで助かったんだから有難いわ」

 ユメイは烏月に近づきお礼をする。

「ここにも鬼が!」

「烏月、そいつは大丈夫だ、あ」

 烏月は酒を口に含み、ユメイに口移しでその酒を飲ませた。

「んっ・・・んくっ、んくっ・・・ふはっ・・・どうだ、効いたか?」

「はぁはぁはぁ・・・・・・・・・私の、私のファーストキスが〜〜」

 畳に転がりながら悶え苦しむユメイ。

「桂ちゃんにあげるはずだった私のチッスが〜〜!」

「なんだいチッスって」

 驚いて何も言えなかったサクヤのやっとの言葉がそれだった。

「はははは、効果は抜群だ!ぐ〜」

 満足したのか、烏月はそのまま倒れ、眠りについた。

「で、でも、黙っていればファーストキスだって言い通す事もできるわ。

幸いにも、サクヤさん位しか知らないし」

「「みてたよー」」

 扉からノゾミとミカゲが覗き見ていた。

「げ」

 ユメイの美しい容姿からは想像もできないような声がした。

「みーちゃった、みーちゃったー。ばらしちゃおうかしら、桂に」

「それだけは、それだけは止めてー!!」

「止めて欲しかったら、私達に協力するのね!桂を私達のものにしましょう!!」

「滅茶苦茶だねえ。いくらなんでもそんな条件を呑むはずが、」

「一緒に戦いましょう!桂ちゃんを、桂ちゃんを必ず私のものにするわ」

「酔ってるんだよな、酔っ払ってるだけだよな、ユメイ!」

「・・・・・・」

「凄い真剣な顔するなー!」

 こうして敵同士になった桂とユメイ。この戦いはさらに苛烈を極める事

になるっっ!!!

勿論つづかない。

おわり