347 :千羽家の女1:2007/12/11(火) 20:32:35 ID:hzKMXBvd

 師走の真夜中、私こと千羽烏月はアパートのドアの前で鼻を啜って蹲り、待っていた。

 何故、こんな場所で、しかも真夜中で待っているのかと言えば理由がある。

 このドアを隔てたところには私の愛しい桂さんがいるのだ。

 ・・・いや、待ってくれ。ストーカーではない。

 実は明日桂さんとデートの約束がある。

 と言っても、大型デパートを見て回る程度なのだが。

 本当は現地集合だが、桂さんを驚かせる為にここで待つ事にした。

 私のサプライズプレゼント、桂さんは気に入ってくれるだろうか?

 と、桂さんとのキャッキャウフフを想像していると。

「ン・・・アッ・・・」

「は、あっ・・・」

 耳朶に響くのではなくもっと本能の奥底を響かせる喘ぎ声が桂さんの部屋から

聞こえた。

 桂さん、真坂・・・一人え。

 途中で考えるのも面倒になり、格子の付いた曇りガラスを覗いた。

 くっ、見えない・・・いや、見てみせる!!!

 千羽妙見流の妙見とは優れた目の意ッッ!!!!

(他にも妙見菩薩という北斗七星を神様としたものという意味もあるが)

 そう思い、窓ガラスをより強く覗そうとしたその時。

 ゴンと、窓ガラスに額を激しくぶつけてしまう。

「くっ・・・不覚!!!」

「烏月さん?」

 桂さんの声がした。しまった、額をぶつけただけならばれないが、悔しさ

のせいか、とても大きな声を出していた。

「あ、やっぱり烏月さんだ」

「本当ですねー。流石桂おねーさん」

 ドアが開いて桂さんと葛様が出てきた。

「うっ・・・」

 出てきただけならまだいい。問題はその格好。

 桂さんと葛様はシーツ一枚を羽織っているだけで、それを退ければ

裸だということが一目瞭然だった。

「や、やあ桂さん。ぐ、偶然だね」

「烏月さん、なんでここに?まあいいや、こっちの方があったかいよ」

 そう言って外から玄関に抱き寄せられる。

「ああ、とってもあったかい」

 素肌の温もりは寒空にいた私を優しく暖めた。

そして、今の状況を理解してしまった。

 桂さんの体は暖かいが、部屋は寒空と同じ位の寒さだった。

 まぁ、風が凌げるだけで随分と体感温度は違うのだが、これは暖か過ぎた。

 寒がりの桂さんはいつもストーブをつけっぱなしにしているが、ある時だけは

ストーブを消すようにしている。それは、

「烏月さん、もしかして桂おねーさんを夜這いしに来たんですか?だったら

遅かったですねー。私が食べちゃいましたから」

 と、葛様。


348 :千羽家の女2:2007/12/11(火) 20:36:24 ID:hzKMXBvd

 そう、同衾する時だけはストーブを消しているのだ。

 こっちの方が自然と肌を重ねられるからという理由らしい。

 勿論、同衾といっても一緒の布団で寝るだけではないが。念の為に言っておいた。

「違います。桂さんを驚かせる為にです」

「驚かせる為に夜這いですか?」

「ち、違、ん!」

 さっきから抱きついていた桂さんが突然唇を重ねてきた。

「はっ、ん・・・ちゅ」

 舌を歯茎に這わせ、頬を嘗め回し、舌同士を絡ませる。

 一部だけのその行為が全身を高揚させ、快楽で痺れる。

 唇が離れると納豆を食べた後みたいにと言えばロマンチックの欠片も

なくて申し訳ないが、糸を引き、やがて真ん中から見えなくなり、無くなる。

 それとは反対に、私のなりを潜めていた性欲は鎌首をもたげ出した。

 

私と桂さん、葛様は最近こういう関係だ。

 桂さんに好きだと告白した時、既に葛様と付き合っていた。

 諦めようとした私に葛様が出した提案は『三人で仲良くすればいいじゃないですか』

というものだった。

 それは不純だと諦めようとした私に、葛様のスーパー言霊パワーが炸裂し、私はその

関係を呑んだ・・・訳では無く、私は即了承してしまったのだ。

 有体に言えば、桂さんの体にも興味があったが、葛様の体にも興味があったのだ。

私は、人から言わせれば無愛想で穢れの欠片も無く、面白味に欠けると

からかわれたりもするが、人間が動くということは欲求を満たす為以外の

何者でも無いわけで。

 私にだって、愛する人を抱きたいという欲求位ある。

 桂さんを抱えて、敷いてある布団に押し倒し攻める。

「わー烏月さん積極的ですねー」

「え!葛様」

 攻める、はずだった。

 背にいる葛様が私の服を脱がし、胸を露にさせるとそれを優しく揉む。

「だ、駄目です・・・」

「ふふー嫌ですよ」

 私に覆い被さられている桂さんも、私のスカートに手を入れ、膣の中に指を

入れる。

「あ、そんな・・・」

「烏月さん可愛い。それにしてもいいなー烏月さんはこんなに胸が大きくて。

私ももう少しないと将来赤ちゃんにお乳があげられないよ」

 桂さん、女同士で子供がつくれるのかい?

「大丈夫ですよ、桂おねーさん。胸が大きくなるのは授乳の為じゃなくて、異性を引き付ける為ですから」

「え、そうなの?」

「そうですよー。授乳に胸の大きさは関係ありませんから。お猿さんを見れば分かりますよ、みんなぺったんこですから。

 猿のメスはお尻が大きくなるんですよ。それは猿の視線に入り易い位置にあるのが偶然お尻だったからです。

 人間の場合は二足歩行でお尻の方には自然と視線が行き辛いんですよ、だから視線にちょうど合うように人間は胸が大きくなるようになっているんですよ」

「おおー流石葛ちゃん。ちっちゃい葛にはたくさーんいいものが入ってるー♪」

 という会話をしながらも葛様の胸を揉む手は休まらず、それは桂さんも同じだった。

 本当にムードの欠片も無い。

「こっちの準備はいいよ、葛ちゃん」

「ふふ・・・じゃあ、いきますか」

 言って、葛様の耳が獣に変わり、尻尾が生えてくる。

「え・・・葛様?」

 桂さんが私に抱きついて、動けなくなる。


349 :千羽家の女3:2007/12/11(火) 20:38:32 ID:hzKMXBvd

「烏月さん、ちょっと刺激が強いかもしれないけど、直ぐに気持ちよくなるから」

「それは、どういう意味だい?」

 首を捻ると葛様の両足が尻尾を挟み、それをピンと立てる。

「ま、真坂・・・ぐ、ああああああああっ!!!」

 その尻尾の先端が私の秘所に入ったのだろう、尖った毛が膣を強く擦り、痛みが走る。

「あ、い、痛い!葛様っ!!!」

「はぁ、呼び捨てでいいっていつも言ってますけど、プレイの時にはぐっと

きますねー。大丈夫ですよ、直ぐに気持ちよくなりますから」

 そんな事は有り得ない。

 そう思っていたが、強い快楽が段々と妙な感覚になり、遂には。

「は・・・んんっ・・・あっ!」

「ああー烏月さんの中柔らかくて暖かくてきもちーです」

「烏月さんの気持ちよさそうな顔・・・可愛い」

 こうして私は一晩中可愛がられた。


 一週間前の話になる、喫茶店である人を待っていた。

「よお、烏月。あたしと茶がしたいとは、どういう風の吹き回しだい」

 サクヤさんが向かいの席に座り、ウェイトレスを呼ぶ。

「私はコーヒーだけど、あんたも同じでいいかい?」

 私は頷き、ウェイトレスは去って行く。

「話の前に言っとくけど、あたし達はあんまり会わない方がいいと思うんだ。

 あたしとあんたのところはいがみ合ってる訳で、馴れ馴れしくすると、この

均衡が崩れかねない。場合によっては殺し合う関係だ。

ある程度の距離をとってしかるべきなんだよ。時に減らず口を叩く事も

重要な事だけどさ」

「いや、そんな事はどうでもいいんだ」

「どうでもいいのかよ」

 溜息を付くサクヤさんに単刀直入に聞く。

「私は桂さんと付き合ってる訳だが」

「ほう、それは自慢かい」

 眉を吊り上げ、怒った声色で言う。

「違う。その・・・不安なんだ」

「おおっ!ついにお別れかい」

「邪推だ。私と桂さんは愛し愛されという関係でとても幸せだ。だが、」

「あー下らない。帰ろうかね」

 サクヤさんが立ち上がると体を掴み止める。

「待って下さい。切実なんだ!」

「はぁ・・・分かった、分かったから、胸を鷲掴みするなー!!」


「ふーん、桂に飽きられてないか不安だ、と」

 黙って頷き、コーヒーを啜る。

「私は幸せだ。だが、それは必ずしも桂さんの幸せとは限らない。

桂さんに、もっと私を好きになって欲しい」

「成る程・・・じゃあ質問だけど、付き合ってる彼氏があんたに料理をつくり、あんたがとても喜んだ。何故だと思う?」


350 :千羽家の女4:2007/12/11(火) 20:41:02 ID:hzKMXBvd

「男に興味は無い!そんな事はどうでもいいんだ!」

「例えだよ。てか答えろよ・・・」

「お母さんの命日だから?」

 風の音が聞こえる程の静寂が12秒程。

「意外性、男が料理をつくらないと思い込んでいたから思わぬプレゼントが嬉しいんだよ」

「詰まり、私が桂さんに愛情たっぷりの料理を作ればいいと?」

「全然違う!詰まりあんたの意外な一面を見せればいいんだよ。

人には色んな一面がある。その一つ一つが人間を深くし、魅力が上がる。

あんたの場合は・・・そうだね、よし、ギャグを言うのはどうだい?」

「何故?」

「あんたみたいなカタブツが冗談を言えば、ああ、この人冗談も通用するんだなと思われるだろ。これが魅力アップに繋がる訳だ。お奨めのお笑い番組を教えてやるから

それを借りて勉強しな」

 サクヤさんがメモ帳を破きリストを私に渡す。

「有難うサクヤさん。ところでサクヤさんの意外性も参考程度に聞いておきたい」

「私は胸だけじゃなく、人間も大きいから、そんなもんは必要ないのさ」

 コーヒーを一気飲みし、席を後にし、会計を済まそうとした時。

「烏月、割り勘な」

「・・・・・・小さ」


 ピピピとケータイのアラームが鳴り、私達は起き上がる。

「ん・・・朝・・・ってこんな時間!急がないと」

 葛様が慌てて着替えを済ませる。

「それじゃあ私は急ぎの用事があるので、それじゃ!」

「ジョワッチ!」

 そんな事を叫びながら右腕を天に突き上げ飛び上がり、何処かに

消えてしまった葛様。

「WAKASUGIグループはついにワープまでも発明したのか」

「わ。凄いよ葛ちゃん」

 そんな不思議な事はさておき、家を後にした私達。

 朝はデパートの喫茶店で済ませる事にした。

 私と桂さんは納豆ご飯を注文し、それを食べつつ話に花を咲かせる。

「今日のデートは葛ちゃんも一緒だったらよかったのにね」

 桂さんは納豆にかける卵を黄身と卵白に分けている最中だ。

 納豆に生卵をかけて食べるのは一般的ではあるが、卵の白身には納豆

の成分を破壊してしまう成分があるとか。それを知っているとは流石桂さん。

 私は咳払いし、覚悟を決めて話す。上手くいくといいが。

「最近の葛様は忙しいらしいんだ。なんでも、某ネズミの楽園の真横に

ツヅラーンドを建設するとか」

「ツヅランード?」

「いや、ツヅラーンド。プリティーキュートラブラブラブリーな葛様の

魅力を200%詰め込んだ夢の楽園さ」

「わ、テーマパークの神様に喧嘩売ってるよ」

「お土産にはキーホルダーのフェミニンピンクツヅラ。欲しい。

リアルブラウンツヅラ。何があっても欲しい。

ブラックキングツヅラ。迷う。何色と?欲しくて夜も眠れない。・・・があるそうだ」

 慣れない言葉を使うのは恥ずかしいな。

「3人で絶対行こうね、烏月さん!」

「え・・・ああ、そうだね」

 桂さん、冗談に気付いて下さい。

 ほのぼのとした会話が終わり、デパートを見て回る。

 結局、さっきの冗談はそうだとは分かって貰えなかった。・・・意外と自信があった

のだが。真面目だからな、桂さん。そんな所も好きだ。


351 :千羽家の女5:2007/12/11(火) 20:42:44 ID:hzKMXBvd

「見て見て、烏月さん!HAMUだよ!HAMU!!」

 桂さんがデフォルメされた2匹の可愛らしいハムスターをプリントした

ハンカチを指差して言う。

「HAMU?」

「私が大好きなマスコットキャラだよ!待ち受けもHAMUだし、トランプも

HAMUを使ってるんだよ」

「何処かで見たことがあると思ったのはそういう事か」

 私も桂さんと同じ待ち受けにしてしまおうか?可愛いし。

いや、やめておこう。きっと私には似合わない。

 閑話休題。

 桂さんが興味のある話題、今こそ私の意外性を見せる絶好の機会だった。

「桂さん。このHAMUが何故いつも2匹一緒なのか知っているかい?」

「知らないよ。烏月さん知ってるの?」

「偶然ね。ハムが2匹いるのは、実は麻雀で有名な役から来ているんだ」

「麻雀?役?」

「HAMUが2匹。ハムが2。はむ無双。国士無双・・・ハムが2匹だけに。

今のギャグ、受けたんだろうな、受けてしまったんだろうな、ちょっと

覗いてみよう・・・ウワー白けてる」

「う、烏月さん・・・」

「ごめん桂さん!矢張り私にあのテンポは無理だった!!!」

 走り出し。いつの間にか女子トイレの個室に逃げていた。

「桂さんに色んな私を見せてあげたかった。なのにっ!」

 駄目だった。駄目だった。

 他人に言わせれば、それは下らない挫折だと思うだろう。

 しかし、私がボケるのは愛する人にプレゼントをする行為に等しい訳で。

「烏月さん、どうしちゃったの?」

「・・・桂さん」

 小指の絡まりが二人を引き寄せたのか、思った以上に早く桂さんは私を見つけた。

「私、何か烏月さんを悲しませるような事、したかな?」

「違う!違うんだ、桂さん!全ては私のせいで、貴女のせいで、」

 言い切る前に、私の心を激しく振るわせる、泣き声。

「ううっ、ぐずっ!」

「桂さん!」

 堪らず個室から飛び出し、彼女を抱きしめた。痛くならない程度で精一杯。

「烏月さんが悲しんだりするの、私嫌だよ!私にとって烏月さんは大切な人

だから。だから何時もの烏月さんでいて欲しいよ。

 貴女が貴女らしいと思える烏月さんに」

「ああ、そうか」

「?」

「不安だったのは私だけでは、無かったんだ」

 愛し合うとは、不安になるという事なんだ。桂さんも私の悲しい顔を見たくない。

私も桂さんの悲しい顔を見たくない。嫌われたくない。

 そんな心が擦れ合うのが、恋愛なんだと思う。

「ごめんなさい、桂さん。貴女に嫌われたくなかったんだ。冗談の一つも

言えないようじゃ、君も窮屈な思いをすると、そう思ったんだ」

「ふふふ。だからあんな事言ったんだね、驚いちゃったよ」

 桂さんは笑顔になり、私はほっとした。

「よかった。嫌われたかと思った」

 言って、唇を重ね合った。


352 :千羽家の女6:2007/12/11(火) 20:44:26 ID:hzKMXBvd

「私は堅物で無愛想だ。でもそんな所を桂さんは好きだと言ってくれた。

だから私は今のままでいようと思うんだ、サクヤさん」

 この前の喫茶店でコーヒーを啜りながら私はサクヤさんにはっきりと

言った。

「ふーん・・・」

「なぁ烏月。お前にはっきりと言っておきたい事がある」

「なんですか?」

「別れてしまえ」

「減らず口を」

 そう思って口走ったが、サクヤさんの顔は本気だった。

「桂に告白する。あたし、ずっと昔から桂が好きだった。あんたが

告白したと聞いて嫉妬した。それが一時的なものかと思ったが、どうもね・・・

 桂をあたしの物にする。あんただろうが葛だろうが容赦しない!」

「いや、そんな事はどうでもいいんだ」

「よくない!!!!」

おわり