719 :名無しさん@ピンキー:2008/11/08(土) 13:41:31 ID:O8cUyU9s
凩が吹く季節、あたしの心の中にも、ビュウビュウと秋の終わりに吹く風が吹き荒び、冬の到来を告げようとしている。
「ねぇ、百ちゃん」
放課後、いざ部活へ行かん! とばかりに張り切っていたあたしに、もじもじと指を絡ませ、少し頬を桜色に染めた少女が声を掛ける。
「どしたの? ざわっち?」
ついに、あたしにもチャンスが到来!? かと胸を弾ませたのも束の間、次の一言にあたしの希望は打ち砕かれる。
「百ちゃん……私、一度、梢子先輩を寮に招いてみたいんだけど……」
「…………。」
「百ちゃん?」
「あ、うん、そ、それで?」返事に詰まってしまったけれども、ざわっちは続ける。
「あのね、私、よく梢子先輩の家に泊まったりするけど、梢子先輩、寮に呼んだこととかないでしょ?」
「そだね」
「う、うん、それでね、私はこういうところで暮らしてるんだぁ……って梢子先輩に知って欲しくて……」
ざわっち……なんと健気な……
「ふむふむ、それで…」
「でね……梢子先輩は優しいけど、真面目な所があるから……」
惚気ですか!? ……会話の流れからすると…
「あたしに一緒に頼んで欲しい……と?」
「百ちゃんに一緒に頼ん――」声が重なる。
「良いの…? 百ちゃん?」
「ざ、ざわっちの頼みとあらば、仕方ない! それにオサ先輩もかわいい恋人がどんな所で暮らしてるか、きっと気になってるんじゃないですか?」
あたしはシッシッシッと不適に笑ったフリをする。
「も、百ちゃん!!」
照れなのか、あたしを諌めるように言う。 そのまま深呼吸するように一拍置き、
「……一緒に…お願いして…くれる?」
柔らかな笑顔に、コクリと首を傾けながら、あたしに協力を要請するざわっち。
正直こんな表情、仕草を見せつけられて、どんなお願いでも断れるでしょうか!? いいや、断れるはずがない! それが……それが、たとえ、あたしのために向けられたものでなかろうと……
720 :名無しさん@ピンキー:2008/11/08(土) 13:42:02 ID:O8cUyU9s
その後、心の中で吹き荒ぶ嵐と戦いながらも、いつの間にか部活は終了し、オサ先輩を呼び止める。
「オサ先輩! ちょっと話があるんですけど、良いですか!?」
「別に良いけど、何か相談でもあるの? 珍しいわね」
「いえいえ、あたしじゃなくて、話があるのはざわっちです!」
「えっ? 保美が?」
心なし、頬を染めるオサ先輩。
傍目にはバレバレなのに、ざわっちとの事は周囲には秘密にしたいらしい。
もちろん、ずっと……ずっと相談にのってきた、あたしは知っているわけだが、そうでなくとも二人を見れば、既に周知のものだろうと思う。
「そうです。 ねっ? ざわっち?」
そう言って、気恥ずかしそうにしているざわっちを、オサ先輩に突き出す。
「……あのぅ……梢子先輩……私、よく梢子先輩の家に泊めていただいてますよね?」
先ほどよりも、少し分かる程度に赤くなりながら、周囲を見回す。
その辺は抜かりなく、皆が居なくなる頃合いを見計らっていたのだ、問題ない。
そのことを確認したのか、胸に手を置き、少しホッとしたようなオサ先輩。
「そ、そうね……」
「で、ですね…梢子先輩!」
ざわっちが決意したように、ギュと手を握って、勢いよくオサ先輩を呼ぶ。
「は、はい」
その勢いにオサ先輩もつられる。
「こ、今度の週末、寮に泊まりに来ませんか!?」
「…ぇ?」
「私がどういうところで暮らしているか…とか、もっと梢子先輩に私のこと沢山、知って欲しいです!」
しばしの沈黙
(そりゃあ、保美の寮生活は見てみたい……けど)
小声で呟くオサ先輩。
オサ先輩も実はざわっちがどんなところで過ごしているか、気になっているのだ……
……というよりも、何ですか!? その恥じらう乙女のような表情は!!
ざわっち一筋のあたしがあやうく落とされそうになりましたよ……
「じゃあ!?」
ざわっちは両手を合わせ、晴れやかな笑顔になる。
そんな表情のざわっちを前に、オサ先輩は言いづらそうに
「…でも、寮に勝手に泊まり込んだりしたら、ダメ、なんじゃないの?」
流石、オサ先輩は一筋縄ではいかないらしい。
「オサ先輩! そんなのあってないような規則ですよ! 先輩達なんか、毎日入り浸ってますよ!」
あたしは力説する。
「それは、そうだろうけど……」
同級生に思い当たる人物でも居るのか、言葉を濁すオサ先輩。よしもう一押し!
そこでざわっちが甘い声と、可愛らしい上目遣いでオサ先輩に問いかける。
「梢子先輩……ダメ……ですか?」
ざわっち……いつからそんな小悪魔に!?
「う……、ほ、ほんとに大丈夫なのね?」
流石のオサ先輩も、ざわっちには甘いようで……、あたしは追い打ちをかける。
「堂々としてれば、まず大丈夫です!」
「食事も休みは自前ですし」
オサ先輩が一呼吸置きながら考える。
「しょうがないわねぇー……」
そんな風にやれやれと良いながら、ため息をつくも、内心楽しみでしょうがないのか、オサ先輩の表情は嬉しさを隠せていない。
そうして、今度の週末、土曜の部活が終わって、一旦帰って準備をした後、オサ先輩が寮に泊まりに来ることとなったのだった――
つづく